おはようございます。
今日は有賀啓雄の「雨色の僕と君」です。
ベーシスト、アレンジャーとして有名な方で、ベーシストとして近年は小田和正、アレンジャーとしては藤井フミヤや渡辺美里などを手がけていますが、ソングライティングの才能にも長けていて楽曲提供もしていますが、ソロ・アーティストとしても3枚のアルバムを残しています。
そして、この「雨色の僕と君」は1987年にリリースされた彼のファースト・シングル。当時、僕はレコード会社で営業マンをやっていて、取引先のレコード屋さんに入った時にこの曲が店頭でかかっていて、店長さんに”これ誰ですか!”と駆け寄ってたずねたことを覚えています。青森の弘前にあったレコード屋さんでした(僕があまりに気に入っていたので、店長さんはその店頭演奏用のCDを僕にくれました、、)。
さて、彼は元々は自分で歌ってデビューするつもりは全くなかったようで、ベーシストとして事務所に入ったばかりの頃、アレンジもやってみたいという希望を出してその資料用にデモを作り、そのデモを事務所の先輩だった山下達郎と社長の小杉理宇造が大絶賛し、アレンジャーじゃなく自分でやりなさい、と言われ、あれよあれよという間にデビューが決まったのだそうです(そのデモにはこの「雨色の僕と君」も入っていました)。
僕がこの曲に心奪われたのは、詞曲やヴォーカルのみずみずしさもありますが、なんといってもサウンドでした。リヴァーヴの深いその音像に、当時フィル・スペクター・サウンドや大瀧詠一のナイアガラ・サウンドが一番の大好物だった僕はすぐに飛びつきました。しかも、大瀧詠一や山下達郎のサウンドとは違って、日本らしいウェットさと繊細さが見事に調和している気がしました。
この曲の入ったアルバム「sherbet」のミックス・エンジニアは吉田保でした。大瀧の「ロング・バケーション」を手がけたエンジニアです。
彼は吉田に「大瀧さんのあの曲みたいな感じで、エコーをブワーッとお願いします!」
とリクエストしたそうです。
「当時一番聴いていたのが『ロング・バケーション』(’81)でしたね。車の中ではずっとこのアルバムでした。だから、音はとにかくああいう感じが良かったし、松本(隆)さんの詞の世界からも自然と影響を受けていたので、自分で詞を書いてもそれっぽい感じになったんだと思います」
この曲のサウンド全体が雨の風景を映し出している気がします。街をつややかにさせるような雨です。決して憂鬱なだけじゃなく、雨の日にしか描けない特別な心象風景をがあることを深く理解していて、それを音として表現している、そう思います。
彼のナイーヴで緻密でキラキラしている世界は、今だったら新海誠の映像と合うんじゃないかなどと想像したりもします。時代が随分違いますが。
有賀啓雄は3枚しかオリジナル・アルバムを出していませんが、僕の知る限り”降水確率”が最も高いアーティストです。
この「雨色の僕と君」の入ったアルバム「sherbet」には他にも雨の歌は出てきますし、次のアルバムはタイトルが「Umbrella」でそこからのシングルが「僕の知らない雨が降る」と「RAIN DOLPHIN」、最後のアルバム「Innocent Days」には「雨が降るかもしれない」という曲が入っていました。
「小さい頃から雨の日は大好きで、今みたいな梅雨の時期なんて最高(笑)。晴れている日も嫌いじゃないんですけど、晴れの日は意識が外側に向かっていて、逆に雨の日は内側に向かうというか、非常に落ち着いた精神状態になれるんですよ。だから、曲を作る時は、雨の日がベストなんです。バンバン曲が書けちゃう。晴れていると、意識が散漫になるんですね」
「それと、ロマンティックなものが根っから好きなのか、松本さんからの影響か、雨でも降ってくれないと歌にならないというか、晴れてて何を言うことあるの?みたいなことがあって。そしたら、自然と雨や雪の歌ばっかりになってきて(笑)。」
*参考・引用
「クロニクル・シリーズ・ジャパニーズ・シティ・ポップ」監修木村ユタカ)
2023年3月5日 彼の訃報が届きました(2月27日永眠)。それで、このブログを大幅に加筆修正させていただきました。
調べてみると彼の3枚のアルバムとベスト盤は廃盤で入手困難、Amazonなどでは高値がついています。シティポップのガイドブックにも取り上げられていますので、ぜひサブスクを解禁して、多くの人が聴けるようになってほしいと強く願っています。
最後にアルバム「sherbet」から、彼が”「雨のウェンズデイ」の続きみたいな感じ”と評した「あと1センチ傘が寄ったら」、そしてウォール・オブ・サウンド風アレンジが見事な「さよなら入り缶ジュース」を。
