沙村広明『波よ聞いてくれ』はラジオ局で話し手として働く鼓田ミナレの日々を追うあたたかい物語です。すごくあったかい。ミナレは色々あって同僚のアシスタント・ディレクター、南波瑞穂の部屋に下宿していますが、そこには亀が住んでいて、時折、亀の内心の声なども聞ける。亀好きのみなさん、おすすめです!
最新巻では「誘拐された瑞穂を救出するために駆けだしたミナレがうっかり一緒に遭難」とか大変なことがありました。そこを乗り越えて、なんとかかんとか今日もミナレはマイクの前に座るのでした。
そこに届いた、「ダージリン・パンプキン」というリスナーからのお便り。
「貴方たちはラジオが終わっていく様を見ながらよくラジオをやれますね」と始まります。相互監視社会を生きていながら、ラジオならではの親密さだの、非主流のメディアだからこそできることだの、よく言えたもんですね、リスクばかりふえてリターンのすくない表現という行為を一体、どういう神経で行っているのですか? 70 年代のラジオはあんなにおもしろかったのに、メディアの王者の地位を滑り落ちたあとの、そのくされラジオ業界でよくもまあ……という愚痴と八つ当たりのお手紙ですが、愚痴を聞いてほしいというその願いをミナレはがっちり受けとめ、クイーン「ラジオ・ガ・ガ」をはさんだのち、説教し返すのでした。
メディアの王者だったのはただの状況だろ、と。
それに、「コアな情報を扱ってる」=「ヤバい」=「炎上」とダージリン・パンプキンは現状を憂えるが、その「コアな情報を扱っている」ことにモラルを欠いた発言、不謹慎なことや差別的なことをネタにした笑いも含めるなら、「そりゃ時代が悪いんじゃなくてお前が悪いんだろって感想なんスよね」、「燃やされた」なんて被害者面してないで、勉強するか覚悟決めるか、少なくともどっちかはすべきだと。「昔はよかった」はテレビだけが競争相手だった時代の思い出補正。ラジオの競争相手は今、テレビだけじゃない。テレビも昔ほど支配的なメディアたりえていない。インターネットと一言で言ってもあらゆるサイトやサービスが乱立している。すべてのメディアがニッチな存在たらざるをえない現代を、ラジオは生きている。「終わった」とか言いたい奴は引っ込んでろよ。
と、そう言い放って、番組が無事終わったあと、ミナレは「(だまって)見ててください」とまで言ってしまった自分を激しく恥じるのでした。

そして、大変申し訳ないことにここからが本題です。
やっとたどりついたわあ。
ミナレが自分を省みて言う「音楽とか最近のものより 10 年くらい前に流行った曲のが好きだったりするし」という台詞にしみじみ「わかる」と感じ入りました。
常に、10 年くらい前の曲がいい湯加減です。ADELE の "Skyfall" とか下手すると三日にいっぺんくらい聞いてる。
とはいえ、今から 10 年前の 2014 年に、日本で売り上げのあった音楽って主に AKB 関連とジャニーズだったので、あの辺りから流行に疎い姿勢が醸成されていき、ついには「いつも 10 年くらい前の曲を聴いている人」ができあがってしまったような気がします。「あとは若い人に任せた」と思い始めた頃。
10 年前、どこに行っても流れてた曲。
それでは発表します、今、私にとっていい湯加減な、10 年前の曲。
Sylvan Esso "Sylvan Esso"
2014 年にリリースされたデビューアルバム "Sylvan Esso" がちょっと話題だったのです。今、デビュー十周年記念盤が出ています。とにかくこの声が好き。後年リリースされたライブ盤の "WITH" もいいです。ポップスを聴いているときにどうしても期待してしまうまっすぐなラインとの離れ具合というか、ねじれの位置具合に解放感があって好きなのです。
七尾旅人 "TELEP○TION"
映画『ニシノユキヒコの恋と冒険』の主題歌で、その映画自体はさほど好きではなかったのですが、エンディングでこの曲がかかったときに、「うわあ、いい曲だ!」と感動しました。弔いの映画だったので、ラストにこの曲がかかると、穏やかに終えた法事の帰り道のように気持ちになりました。映画のことは大分忘れていて、印象的な場面だけ思い出せる状態なので、あと少し経つとこの曲の効果もあって「いい映画だった」という実感に至ってしまうのではないかと、自分が不安です。
Lali Puna and Trampauline "Machines are Human"
AI に関していつも気になるのは AI の権利です。ゴミみたいな情報を大量に食べさせて、嘘でも何でも断言する営みに「よし」として、いいんでしょうか。AI 側の苦痛が気になります。だって、嘘にしろ、非論理的な文章にしろ、非文にしろ、読むのは苦痛です。「うわーめんどくせー」ってなります。そんなものを AI に吸い上げさせて、そこから何かひねり出すっていうのは倒錯してると思うんですよ。
とにかく。「人類、この責任取れないんじゃない?」という気がするときに私の後ろで流れている曲です。
The Rentals "1000 Seasons"(from"Lost In Alphaville")脈絡なく音楽を聴いているから、いつ、何を聞いても新しいとも古いとも感じない。だけどレンタルズの曲を聞くと常に「なつかしい」と思う。なんでだろう。
高橋幸宏はこんなことをやってました。
"Split Spirit" は『攻殻機動隊 ARISE』のテーマ曲でした。これは臆面もなくかっこいいです。当時、コーネリアス×『攻殻機動隊ARISE』 スペシャルサイトで公開された、MV がかっこよかったんですが、今は見られない。なんでだろう。
どっちが前でどっちが後ろかわからなくなるのが魅力です。
🎧 ちぇりおです 🎶