
こんにちは、ビニールタッキーです。
2024年もいっぱい映画を見ることができました。ありがたいことに試写のご案内を頂く機会も増えたうえに東京に行くたびにミニシアターを訪れる趣味を始めたために幅広いジャンルの映画を見ることができました。それでも見れたのはだいたい新旧含めて約140本ぐらいでしたね。年間1000本ぐらい公開されている中でこれは少ない方だと思いますが、それぐらいの人間が考えたベストだと捉えてください。ちなみに毎年恒例ですがベストテンだけでは全然収まらなかったので今年もベスト20と枠を広げてご紹介したいと思います。ここ数年の過去のベストテン記事は以下をご参照ください。
それでは早速行ってみましょう!
- 第20位 私にふさわしいホテル
- 第19位 エストニアの聖なるカンフーマスター
- 第18位 悪魔と夜ふかし
- 第17位 ブルックリンでオペラを
- 第16位 アメリカン・フィクション
- 第15位 インサイド・ヘッド2
- 第14位 エイリアン:ロムルス
- 第13位 ツイスターズ
- 第12位 密輸 1970
- 第11位 トランスフォーマー/ONE
- 第10位 ドライブアウェイ・ドールズ
- 第9位 チャレンジャーズ
- 第8位 クワイエット・プレイス DAY 1
- 第7位 ノーヴィス
- 第6位 モンキーマン
- 第5位 人間の境界
- 第4位 美と殺戮のすべて
- 第3位 ポライト・ソサエティ
- 第2位 異人たち
- 第1位 ロボット・ドリームズ
第20位 私にふさわしいホテル

相変わらず邦画はそんなに見れなかった年でしたが、年末最後に映画館で見た『私にふさわしいホテル』はとてもよかったです。のんさんの弾ける演技とどんな服を着ても似合う魅力もさることながら「悪くて嫌な人間が嫌な奴に復讐する話」という感情移入に重点を置く人とっては全く共感できなそうな話がめちゃくちゃ面白いのが最高です。原作者の柚木麻子先生が「恋愛描写もなく加代子が最後の最後まで性格が悪くてよかった」と仰っていたのですが、まさにその通りの映画でした。堤幸彦監督作ということで加代子と東十条の関係が一瞬『TRICK』の山田と上田みたいになるところで笑ってしまいました。それでいてメッセージはとてもまっすぐで真摯なのがよかったです。どうしても年末年始の映画は忘れられがちになってしまうのでこれはベスト20に入れました。
第19位 エストニアの聖なるカンフーマスター

エストニアのゴシック映画『ノベンバー』のライナル・サルネット監督の新作が「カンフーとブラック・サバスと修道士をごちゃまぜにした映画」と最初に聞いたときは何かの間違いかと思いました。確かに本当にその通りの映画なのですが、こんなにハチャメチャな見た目の中に政治的な面もあるのがとても良いと感じました。ロシアの占領によって物資も娯楽も制限されたエストニアで、若き青年がブラック・サバスとカンフーで人生の意味を見出す物語なんですよ。でも起きることの大半はハチャメチャですし、どこまでが本気でどこまでがギャグなのかもわからない感じも正直あります。でもなぜか惹かれてしまう。「映画ってこんなに自分の好きなことを詰め込んでいいんだ!」と少し感動すら覚えました。とにかくこの映画があったことを忘れずにいたいという意味で19位に入れました。
第18位 悪魔と夜ふかし

70年代、視聴率の芳しくない深夜番組が企画した「生放送中に悪魔憑きの儀式を行う」という特番が最悪の放送事故を招いた。これはその一部始終を収めたビデオテープである…というオカルトホラーxファウンドフッテージを組み合わせた良作です。クリストファー・ノーラン、ジェームズ・ガン、ドゥニ・ヴィルヌーヴなどの大作映画で光る演技を見せてくれる名脇役デヴィッド・ダストマルチャンがホラー映画好きという側面をクリエイティブでも演技でも活かしまくった映画がこの『悪魔と夜ふかし』です。オーストラリアの新鋭監督ケアンズ兄弟と組んで「70年代の深夜に放送されたあやしい番組」をできるだけ再現しているのがとても魅力的です。あくまで「オーストラリアから見たあの頃のあやしいアメリカ」という一歩引いた視点が入っているのが特徴的だと思います。そして映画全体に散りばめられた伏線と「カメラに映り込んでしまったもの」の見せ方が実に上手い。こういう手の込んだ映画を見ると映画って面白いなーとシンプルにうれしくなります。
第17位 ブルックリンでオペラを

タイトルやポスターから感じる軽い感じのラブコメかな?という予想が大きく裏切られる、実によくできた映画になっています。スランプ中のオペラ劇作家と潔癖症の精神科医の夫婦、その息子と恋愛関係にある女の子、偶然バーで出会った変わった雰囲気の貨物船の船長、この一見バラバラの人間模様が最後に結実するお話が実に上手くて面白い!ラブコメの要素もあるんですが、より正確に言うと「行き詰まった人々が新たな出会いで前進する」お話です。何よりも困っている未成年の若い2人を助けるために大人たちが一計を案じて奮闘するという話がいいじゃないですか。後半の方に出てくる「南北戦争のコスプレをして再現する人たち」(リエナクトと呼ぶそうです)のカルチャーもあまり馴染みがなかったので勉強になりました。ピーター・ディンクレイジもマリサ・トメイも最高ですし、アン・ハサウェイが脚本に惚れ込んでプロデューサーを担ったという話も素敵です。一点何か言うとしたらタイトルはやはり原題の「She Came to Me」(彼女が舞い降りた)で良かったと思います。
第16位 アメリカン・フィクション

日本ではアマプラ配信となってしまいましたがとても印象に残った一作です。アフリカ系アメリカ人のインテリ小説家がヤケになってドラッグ!犯罪!貧困!というステレオタイプな黒人ギャングになりきって架空伝記を書いたら大ヒットしてしまうというサタイア。「黒人のステレオタイプをありがたがる白人たち」を皮肉たっぷりに描く場面も抜群に面白いのですが、もう一つの側面である「白人キャストで散々描かれてきたような中産階級の家族ドラマを黒人一家で描く」という部分もとても興味深く楽しめました。インテリ主人公の苦悩、アルツハイマーの母、ゲイの弟、などなど本当〜〜〜に白人キャストで何度も何度も見たようなドラマを改めて黒人キャストでやることで、存在していたのに描かれなかった人たちの物語が見れた気がしました。最後まで意地悪でひねりの効いたオチも最高でした。
第15位 インサイド・ヘッド2

北米では2024年興行収入ランキング第1位に輝いた堂々たるピクサー映画。前作と同じく脳科学や精神医学の専門家の監修を得つつそれらをどのように面白くて楽しいアニメーションとして具現化するかという実験精神に満ちている映画でした。特に今作はライリーが思春期に突入したということで「自意識」に関する描写が主な要素でした。色々と先走って考えてしまったり相手の気持ちを勘ぐりすぎて自意識が暴走する脳内を映像化するという画期的な試み。前作で和解したヨロコビとカナシミがお互いを信頼してチームプレイを見せるところがよかったですね。まさに喜びと悲しみの混じった感情が人を成長させるという前作の物語を思い起こさせる描写です。さらにヴィラン的役割になってしまったシンパイも決して悪い奴ではなく、かつてのヨロコビのように「ライリーを守りたかった」というところが共通しているところにグッときました。これは絶対に言っておくべきことなのですが日本語吹替版の多部未華子さんのシンパイの吹き替えが本当に素晴らしいので吹替版がオススメです。
第14位 エイリアン:ロムルス

『エイリアン』と『エイリアン2』の間に起きた物語。実はこの2作は監督が違う(1はリドリー・スコット、2はジェームズ・キャメロン)のでエイリアンの事象に対する思想が違っているのですが、その2人の思想をうまいこと混ぜ合わせて、さらに3や4や『エイリアンvsプレデター』の要素まで拾い上げて「全てのエイリアン映画の美味しいところをつまんできた」映画になっています。メインの物語も「炭鉱惑星で働く若者たちが一発当てるために放棄された船に乗り込む」という切実な内容です。この炭鉱惑星の描写が秀逸で、まさに巨大企業に搾取されるZ世代を反映しているように見えます。(海外で評判なのもその影響では?と思います)エイリアンシリーズで常に描かれる人間とアンドロイドの複雑な関係を「疑似的な姉弟関係」にすることで新たな面を見せるところも実にうまくてよかったですね。そして肝心のゼノモーフもスラッシャー映画における忍び寄る殺人鬼のようであり明確に不気味なクリーチャーでありという要素をさらに強調するような見せ方になっていました。このようにシリーズの要素を加味しつつさらに新たな部分を見せてくれたということでフェデ・アルバレス監督よくぞやってくれた!とあっぱれな気持ちになりました。
第13位 ツイスターズ

『ツイスター』(1996年)の続編、しかも監督が『ミナリ』のリー・アイザック・チョン、と聞いた時はどんな映画になるんだ?と思いましたが蓋を開けてみればこれほど王道なハリウッドエンタメ超大作映画も久しぶりに見た!と爽やかな気持ちになりました。アメリカ中西部の圧倒的な竜巻のディザスター描写と、竜巻チェイサーたちの人間模様と、反発し合う男女が徐々に惹かれ合う恋愛物語をバランスよく組み合わせた良作です。このバランスが本当に絶妙で、竜巻は本当に恐ろしい災害として描かれ、竜巻チェイサーたちは一人一人顔と名前が覚えられるほど個性豊かで魅力的に描かれ、恋愛描写は甘酸っぱいけどくどくない。王道のハリウッドエンタメですが人種バランスや恋愛の見せ方などは最新型という感じでなのがとてもいいですね。今完全に油が乗っているグレン・パウエルの「いけすかない野郎かと思ったらいい奴」感が見事に活かされていました。「マチズモ全開のカウボーイ野郎かと思ったら仲間思いだし恋愛もオラオラ系ではなく一歩引いた距離感を保てる」なんて夢みたいなキャラを嘘っぽくなく演じられるのはまさにグレン・パウエルしかいないと感じました。せっかくなのでと思って4DXで見たら座席から振り落とされるかと思うぐらいジェットコースターみたいな体験をしたのもいい思い出です。
第12位 密輸 1970

密輸に手を染めた海女さんたちが本物のマフィアや警察に追い詰められた末に一世一代の大勝負に出る!ギラギラの衣装、味の濃い演歌、これまた味の濃いコテコテのキャラクターたち、マフィアと警察とはぐれものたちの騙し合い合戦、とまるで昔のやくざ映画のようなギラギラした魅力に溢れた映画でした。主人公たちが中年女性たち、しかも職業として下に見られてしまいがちな海女さんたちというのもめちゃくちゃよかったですね。いくらタフな彼女たちでも喧嘩早いヤクザ連中に襲われたら勝ち目がないんじゃ…と心配していると舞台が海中に移って「あーあ、ヤクザたち死んだわ」とニヤニヤが止まらなくなるという最高のカタルシスを体験しました。それでいて韓国の歴史的な背景(なぜ彼女たちが密輸に手を貸すようになったのかというあたり)なども盛り込まれていて隙のない映画でした。改めて韓国映画のクオリティの高さに唸りました。
第11位 トランスフォーマー/ONE

永遠のライバルであるコンボイとかつて2人は唯一無二の親友同士だった。「そんなの見たら絶対辛い気持ちになっちゃうじゃん」という予想のその通りの映画でした。しかし親友同士が仲違いするという箇所も面白いんですが、この映画がすごいのはそこに至るまで、なんなら映画が始まってすぐから既に無類に面白いということ。機会生命体たちの日常や世界観も面白いし、彼らが住んでいる惑星の構造、さらに秘められた謎の描写もめちゃくちゃ面白い。そして忘れられないのがこの映画が労働組合の話であるということです。権力者に搾取されていた市民が立ち上がる、という話はよくありますが、この映画ははっきりと労働者の抗議行動として描いていることです。まさかトランスフォーマーの映画を見に行って労働組合の話が観れると思っていなかったので意表を突かれると同時によくできていると感心しました。もちろん2人の仲違いに至るプロセスも実に丁寧に積み上げられていて、とにかく「非常に丁寧でよくできてるうえにアニメのクオリティも高くて物語も現実的」というものすごいバランスの映画になっていました。
第10位 ドライブアウェイ・ドールズ

レズビアンの親友2人が車旅行で乗り込んだレンタカーはとんでもない積荷を乗せた車だった!謎の追手に巻き込まれてのんびり車旅行は危険だらけの珍道中に!コーエン兄弟テイストの話にテルマ&ルイーズのようなロードムービーフレイバーとレズビアンの物語をたっぷり振りかけた良作。それもそのはずで監督&脚本はイーサン・コーエンと彼のパートナーでレズビアンでもあるトリシア・クック(この夫婦は結婚しているがお互いの自由恋愛を認めている関係)がお互いのテイストを十分に発揮した映画になっているのです。自分はいつもベストテン第10位には「この映画のことは絶対に忘れたくないし何が何でも推したい」という映画を選ぶのですがまさにこれは第10位映画に選びたい映画です。確かにヘンテコで下品な映画ですしアカデミー賞候補に上がるような高尚な作品ではないのですが、男性主人公で散々作られたハチャメチャロードムービーをレズビアン主人公で作ったということを強く推したいんです。しかも主人公を含め登場する女性がほぼ全員レズビアンでしかも全員楽しそう!さらにみんな悲劇的な目に遭わない!このことを絶対に寿ぎたいんですよ!こういうゆるくて楽しくて、でも今まで描かれなかったような人たちの映画がもっとあるべき!と強く感じた映画です。
第9位 チャレンジャーズ

「テニスプレイヤーの男2人女1人の三角関係の物語」がなぜか海外で大受けしてる上に日本でも確かな映画ファンが高評価を付けている…なんで?と思っていたのですが実際に見て納得しました。これは確かに面白い。男2人がテニス大会で戦うことになるまでの過去の因縁ともつれた関係性を紐解く話が異様にいいテンポとキレのいい編集で語られるのがとにかく面白い。しかも女1人を男2人が取り合うような単純な三角関係ではなく、男2人にも明確に恋愛の空気が流れるという「完璧な三角関係」になってるのがとても画期的だと感じました。トレント・レズナー&アッティカス・ロスのほぼテクノというべきサントラもこのキレの良さに拍車をかけていました。しかし本当に面白いのにこの面白さを説明できないんです。元々映画の面白さを伝える語彙力が少ないためいつももどかしい気持ちになるのですが、今作は特に自分の限界を感じる映画でした。とにかく見てほしい。実はこれがルカ・グァダニーノ作品の初体験だったんですが「ルカとはウマが合うぞ」と感じた一作でした。
第8位 クワイエット・プレイス DAY 1

2024年で最も予想を裏切られた映画がこれです。あの『クワイエット・プレイス』シリーズの前日譚、しかも舞台はあの「音に反応して標的を抹殺する謎の生命体」がニューヨークに現れた1日目(DAY 1)を描くということで何をどう考えてもパニック映画になると思うじゃないですか。そうはならなかったんですよ。もう公開からだいぶ経ったので言ってしまいますがこの映画は余命モノです。末期ガンの主人公が人生の最後にNYにあるピザ屋でピザを食べたいと思ったその日にあの生命体がやってくる。死にたくないと逃げ惑うNY市民に対して「どうせ死ぬんだから」とピザ屋に向かう主人公。その道中で死にかけのところを偶然助かった男と知り合い2人で助け合いながらピザ屋に向かう…という物語なんです。起きていることは確かにパニック映画なのですが、主軸は「死に場所を見つける2人の物語」というとても静かで穏やかな映画でした。しかもこの2人(ルピタ・ニョンゴとジョセフ・クイン)の関係が恋愛などではなくお互いを気遣い助け合う関係になっているのがとてもいいんです。そして最後は「生きるとは何か」「死ぬとは何か」を描く感動的な話になっているのです。前2作のジョン・クラシンスキー監督から引き継いだマイケル・サルノスキ監督(あの傑作『PIG/ピッグ』の監督!)がメジャー大作の続編でここまで大胆な路線変更をしたことに確かな才能を感じました。完全に予想を裏切られましたが本当に大好きな映画です。
第7位 ノーヴィス

ボート競技に異常なまでにのめり込む大学生のお話。スパルタものというと『セッション』のように教師に徹底的にしごかれたり『ブラック・スワン』のように性的な部分も含めて搾取されたりという感じですがこの映画のように「自分で自分を極限まで追い込む」という話は見たことがなかったので驚きました。しかもその追い込み度が度を過ぎているのが凄まじい。これが実際の監督自身の経験に基づいているということにさらに驚きます。音響出身の監督ということで主人公ノーヴィスがゾーンに入った時の心象風景や不穏な空気が流れるたびに聞こえるカラスの声など音響のこだわりがすごいのも印象的です。そしてもう一つ、この映画はノーヴィスが女性と恋愛する描写があります。これが実に丁寧に描かれているうえにメインストーリーの方にはあまり影響しないというさりげなさ。映画の中で同性愛が登場すると極端にフォーカスされたり劇的なものとして描かれがちですが当たり前のこととして描かれているのがとても良いと思いました。(最初は異性愛の恋愛を想定していたらしいんですが、監督が「なぜ私は異性愛者じゃないのに異性愛描写を書かなきゃならないんだ?」と思い直したというエピソードもいいです)そして何よりもイザベル・ファーマンの熱演!『エスター』で評価された俳優さんですがさらに新たな一面を見せてくれたという点でも最高の映画でした。
第6位 モンキーマン

幼い頃母親を殺され村を焼かれた青年が張本人を見つけて復讐を決行する。地方の村が焼かれたこと、青年を含む国民が苦しい生活を続けていること、国の中では差別を受けている人々がいること、それら全てが腐敗した権力によるものだということが描かれます。青年の復讐は個人的な報復がきっかけですが、彼を助けてくれたヒジュラー(インドにおける第三の性、トランスジェンダー)の人々との交流の中で「正義のため」という動機も付与されます。ここまで腐敗した政治に対する明らかな怒りと差別を受ける人々との連携を示す挑戦的な作品をデブ・パテルが監督・制作・原案・主演まで務めて作ったということに気骨を感じました。実はデブ・パテルはアクション映画のファンでいつかそういう映画を作りたかったということを発言しています。確かにスーツ姿で戦うデブ・パテルにはジョン・ウィックみもありますが、バイオレンスの容赦なさ(韓国映画)やその場にある小道具で戦う(ジャッキー・チェン映画)、高層ビルを上がっていきながら戦う(死亡遊戯メソッド)、という感じで節々にアクション映画の影響とリスペクトを感じました。そういったエンタメ要素の強いアクション映画に明確な政治的メッセージを込めたというのが本当に素晴らしいと思いました。しかもこの映画で描かれる腐敗した政治が、警察や芸能人や宗教指導者とも癒着しているという描写に全く他人事ではないと強く感じました。先日この世を去った世界的タブラ奏者のザキール・フセインの俳優としての遺作となった点でも覚えておきたい映画です。
第5位 人間の境界

ポーランドとベラルーシの国境。ベラルーシ経由でポーランドに入ればEU圏内に亡命できると信じて越境してきた様々な国の難民たちがポーランド側から強制的に返されるが、ベラルーシ側も受け入れないためどちらにも行けず国境地帯で地獄の苦しみを味わうという過酷な状況が起きていました。この実際に起きている国境問題を知らしめるために作られたのが本作です。国が隠蔽する問題を取り上げるために極秘で作られ、公開に際してもポーランドの右派から妨害を受けるという事態も発生したとのこと。そんな状況下で公開されたこの映画が各国の映画祭で絶賛され、日本に住む自分もこの国境問題の存在を知ることができました。映画の内容もモノクロで捉えられた生々しい映像がまるでドキュメンタリーのようで常に緊迫した空気が張り詰めていました。中東から逃亡してきた難民、国境警察、難民たちを自力で救おうとするボランティアたちなどなどこの問題にまつわる人々の群像劇になっていて、それぞれがそれぞれの立場で最善を尽くそうとする姿が描かれています。本当に絶望しかない本作ですが、それでも最後は希望を示すような映画になっているのが救いであり「こうなるには我々はどうすればいいのか」という課題を観客に突きつける映画でした。難民・移民問題がここ日本でも全く他人事ではない今、とてもインパクトのある映画でした。
第4位 美と殺戮のすべて

個人的に今年最も影響を受けた映画です。写真家ナン・ゴールディンが自身も中毒となった医療用鎮痛剤オピオイドに対して抗議活動を行います。戦う相手は中毒性を知っていたにも関わらずオピオイドを医療界に売り込んだことで巨万の富を得たサックラー一家。サックラー一家は美術館へも出資しているため、ナンは自身の写真も展示されているような有名美術館に対しても大々的なパフォーマンスで抗議活動を行います。このナンの精力的な抗議活動と、ナンの半生が自身のナレーションで語られ、同時並行で描かれるというかなり変わった形のドキュメンタリーとなっています。このナンの半生がとても魅力的で、ゲイやクィアやサブカルチャー、ニューウェイブやノーウェイブなど、中心よりも端に追いやられてしまった人々の側に焦点を当てて写真を撮り続けてきたナン・ゴールディンが、今こうして抗議活動の先頭に立っているのは地続きであるということがわかります。人物とデモ活動にフォーカスしたドキュメンタリーですが映像やショットがとても美しいのが印象的で、それが『美と殺戮のすべて』(All the Beauty and the Bloodshed)という言葉にも繋がっていると感じました。個人的にはここ数年デモや署名活動に参加する機会が増えたのですが、少し無力感を感じる時もあります。そんな時に「いやナン・ゴールディンは諦めなかったぞ」と鼓舞してくれるような映画になりました。
第3位 ポライト・ソサエティ

この映画について推薦コメントを依頼された時、「こんな映画が見れて本当にうれしい!」と書いたのですが、これがこの映画に対する本心です。パキスタン系イギリス人でスタントウーマンを志す高校生が、大好きな姉の婚約相手がとんでもない一家だと知って救い出そうとするアクションコメディ。保守的な価値観から繰り出される「女性がアクションなんて無理」「お前はスタントウーマンになれない」「早く誰かのお嫁さんになれ」というレッテルを回転蹴りで蹴り飛ばすような快作です。家父長制や女性差別への抵抗、女性は子ども産むべきという不気味な風潮へのカウンター、アクションを目指す女の子の苦労、移民家庭が移民先の国で生きていくことの難しさなど、この映画で特筆すべきことは挙げたらキリがないのですが、個人的に一番好きなのは主人公の友達が友達思いのいい奴らということです。基本的には悪友でいつもふざけあってるような友達なんですが「それだけは絶対に許せねーよな!」という一点で結束できるところに連帯や連携の強さを感じました。全体的にはエンタメでありクスッと笑えるコメディなのですが、テーマはとても切実で現代的で先進的です。監督のニダ・マンズールや主演のプリヤ・カンサラも発言していたのですが「自分が若い頃にこういう映画があったらうれしかった、と思う映画を作った」という言葉にこの映画の意義が込められていると思います。『ポライト・ソサエティ』を見て育った若者たちに幸あれと強く思います。
第2位 異人たち

山田太一の小説「異人たちとの夏」をイギリス人監督のアンドリュー・ヘイが映画化。さらに監督の自身の過去やゲイであることを反映した映画化ということで極めてパーソナルな映画となっています。そのためこの作品自体が持っていた孤独や寂しさといった感覚に「ゲイであることによる孤独」という要素も加味されているのがとても味わい深いと感じました。主人公が自身の生家で出会う若い両親も、主人公がゲイであることについての率直なリアクションが「本当にこういうものなんだろうな」というリアル感をもって表現されていました。この若い頃の両親と出会うという部分のマジックリアリズムの使い方が絶妙で現実なのか幻想なのか曖昧なところが観客に解釈を委ねているようでとても良いと思いました。ラストの物語の広がり方も忘れられません。もう過ぎ去ってしまった全てのクィアな人たちをそっと抱きしめるような映画になっていて本当に深く深く感動しました。劇中で流れるペット・ショップ・ボーイズの「Always on my mind」が歌詞を読めば読むほどこの映画のテーマを歌っているようで泣いてしまいます。
第1位 ロボット・ドリームズ

何やらスペインの監督が作った2Dアニメ映画が話題になっている、シンプルな絵柄とセリフなしの映画だが各地の映画祭で絶賛されている、という話を聞いた時は「へーおもしろそう」ぐらいの感想でした。それが後に一生忘れられない102分間になるとは。はっきり言ってしまえば「出会いと別れの物語」なんですが、そのきらめきも悲しみも全て含めて描写しきっているところが本当に素晴らしいんです。「あの時ああすればよかった」「もしこうしていれば違っていたかもしれない」と色々悩んでいても人生は前に進むし、自然と違う道が拓けていくということ。人生で誰もが経験する別れの時のやるせなさと後悔、「でもまあ、しょうがないか」という諦観も含んだあの感覚。あの感覚を呼び起こさせてくれるんです。実は後半に登場するラスカルさんとドッグ&ロボットは街ですれ違っていたという周到さも素晴らしい。ここに「袖振り合うも他生の縁」というニュアンスがこめられているように感じるのです。人生におけるあの言葉にならない感情を物語にしてくれたという点で本当に忘れらない、大好きな映画になりました。多分この先アース・ウィンド・アンド・ファイアーの「セプテンバー」を聞くたびにこの映画のことを思い出して目を潤ませることになると思います。
以上です。
2024年は意識的に映画を見るようにしていたんですが、それでも見逃しているものはたくさんありましたねえ。ただ、最近は「何でも見る」というより「自分のアンテナに引っかかったものを優先的に見る」という風に意識を変え始めました。それでもたまたま時間が空いたので映画館に駆け込んで見た映画がよかった、みたいな体験もあるのでなかなか難しいところですよね。まあそんな感じで2025年も映画を見ます!皆さんも楽しい映画ライフを!