機能性神経障害(FND)では,筋力低下や振戦,歩行障害などの運動症状が注目されることが多いですが,感覚症状については十分に検討されてきませんでした.最新のBrain Communications誌に掲載された研究は,この課題を本格的に扱った英国の多施設による前向き症例対照研究です.方法としては運動症状を主体とするFND患者102例と,軽度から中等度の脳卒中患者75例を比較して,感覚症状の頻度,特徴,さらに機序について詳細に検討しています.
まず明らかになった点は,FNDにおいて感覚症状が極めて高頻度に存在するということです.患者自身が自由に症状を述べた場合でも69.6%が感覚症状を報告し,問診で確認すると96.1%に達しました(図1).これは脳卒中患者のそれぞれ30.7%および66.7%よりも明らかに高頻度です.さらに16.7%の患者が感覚症状を最もつらい症状と述べており,感覚症状が運動症状の単なる付随現象ではないことが示されています.
感覚症状の内容も多彩でした.しびれや感覚低下といった一般的な症状だけでなく,「手足が死んだように感じる」,「体の中で振動している」,「電気が流れる感じがする」といった抽象的で印象的な表現が多く認められました.このような感覚体験は脳卒中では比較的少なく,FNDに特徴的といえます.また複数の感覚症状を同時に有することや,症状が時間的に変動することも多く,触覚だけでなく光や音に対する過敏性を伴う症例も目立ちました.
感覚症状の分布も特徴的でした.一側性が45.3%,両側性対称性が42.1%,両側非対称性が12.6%と,両側性を多く認めることが分かりました.一側性では境界が腕や脚の付け根,手首・肘が多く,必ずしも神経解剖学的支配領域に一致しませんでした(図2).

また両側も同様に神経解剖学的支配領域に一致しないケースが多かったものの,手袋・靴下型を示す症例も7.4%に見られました(図3).
さらに重要なのは,感覚症状が出ている四肢では,同じ部位に運動症状も同時に存在することが多かった点です.これは,FNDでは「動き」と「感じ方」が別々に障害されているのではなく,両者を統合する脳の仕組みに機能的な変化が生じている可能性を示唆しています.
診察上重視されてきた所見についても再評価がなされています.従来,特徴とされてきた正中線での感覚分離は2.1%と頻度が低く,逆に脳卒中でも認められることがあり,診断特異性は高くありませんでした.胸骨や前額部に音叉を当てた時の振動覚の左右差はFNDでより多く認められましたが(54%対19%),単独で診断根拠とすることは適切ではないとされています.また定量的感覚検査は一定割合で異常を示すものの,その頻度は脳卒中群と大きな差がなく,患者の自覚症状との一致度も十分ではありませんでした.このため,通常の臨床診察を超える診断的価値は限定的と結論づけられています.
さらに12か月の追跡では,感覚症状が改善した患者は約30%にとどまり,約70%では不変または悪化していました.この結果は,感覚症状が一過性の現象ではなく,FND全体の重症度や慢性化と関連する重要な指標である可能性を示しています.
個人的なFND患者さんの診療経験から関心があるのは痛みです.この研究で痛みは定義上,感覚症状から除外されていましたが,別項目として詳細に評価されています.FND群では88%が定期的な痛みを経験しており,脳卒中群の約41%よりも明らかに高頻度でした.興味深いことに,FND群では痛みを多く経験しているにもかかわらず,自身を「痛みに強い」と認識している患者が多いという結果も示されています.感覚症状の重症度は痛みの強さとも相関していましたが,多変量解析では痛みは独立因子にはならず,身体機能障害(健康関連QOL尺度による自己評価)と抑うつが独立した関連因子でした.
著者らは,感覚症状の機序は単一ではなく,運動症状に伴う感覚フィードバックの変化,身体知覚の歪み,解離,不安やパニック反応,感覚処理の特性,内受容感覚の誤認識などが複合的に関与すると考察しています.したがって治療も単一の介入ではなく,リハビリと心理的介入を組み合わせた多職種的アプローチが重要と結論づけています.いずれにせよ本研究は,FNDにおける感覚症状を「診断的価値が低い周辺症状」とみなしてきた従来の見方の大きな修正を求めるものです.感覚症状は頻度が高く,持続しやすく,生活機能や心理状態と密接に関連する中核的症状であり,診療の中で積極的に評価し,丁寧に説明していく必要があります.
Nielsen G, Higgins R, Stone J, Coebergh J, Edwards MJ.Functional sensory symptoms and signs: a case-control study of 102 patients.Brain Communications.2026.PMID: 41709912