アルツハイマー病や進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症などは,いずれもタウ蛋白の異常蓄積を特徴とする疾患であり,タウオパチーと総称されてきました.しかし,これらの疾患が分子レベルでどのように異なるのかについては,これまで十分に解明されていませんでした.同じタウ蛋白が蓄積するにもかかわらず多様な疾患が生じる理由として,これまでに①3リピートタウと4リピートタウの沈着の違い(微小管結合領域に含まれるリピート配列R2の有無によって規定されるタウ蛋白アイソフォーム)や,②タウ線維の立体構造(フォーメーション)の違いが明らかにされてきました.
しかし今回,米国ハーバード大学を中心に,米国有数の神経変性疾患研究拠点が参加したヒト剖検脳研究の成果がCell誌に報告され,タウオパチーの理解を分子レベルで大きく更新する知見が示されました.
解析対象となったのは合計203例のヒト剖検脳で,内訳はアルツハイマー病(AD)42例,家族性アルツハイマー病(FAD)4例,進行性核上性麻痺(PSP)41例,大脳皮質基底核変性症(CBD)34例,慢性外傷性脳症(CTE)24例,Pick病(PiD)20例でした.さら#に疾患対照としてレビー小体型認知症(DLB)14例,健常対照24例が含まれています.加えて,独立した検証コホートとして142例のヒト剖検脳が用いられ,解析結果の再現性も確認されています.
著者らは,サルコシル不溶性画分からタウ蛋白を精製し,FLEXITauと呼ばれる質量分析ベースの解析プラットフォームを用いて解析を行いました.この手法により,タウ蛋白の絶対量,アイソフォーム構成(3R/4R,0N/1N/2N),翻訳後修飾,および内因性切断部位をペプチドレベルで定量的に評価することが可能となりました.FLEXITauの最大の特徴は,単に修飾の有無を調べるのではなく,「どの部位がどの程度修飾・切断されているか」を数値として示せる点にあります.
この結果,病理学的タウには145か所の翻訳後修飾部位と195か所の切断部位が存在し,それらの分布と頻度は疾患ごとに大きく異なることが明らかになりました!ADおよびFADでは,タウ蛋白量が最も多く,分子全体にわたってリン酸化,アセチル化,ユビキチン化,さらに切断が高度に蓄積していました.CTEでも同様に広範な修飾と切断が認められましたが,その分布様式はADとは部分的に異なっていました.一方,CBDでは4リピートタウが主体であり,微小管結合領域におけるアセチル化やユビキチン化が特徴的でした.PSPでは,病理タウ量は比較的少なく,翻訳後修飾や切断も限局的であるという対照的な特徴が示されました.また,PiDでは3リピートタウ優位という明確なアイソフォーム特異性が確認されました.
本論文のGraphical abstractは,これらの結果を直感的に示した図です.図の中心には,N末端からC末端までのタウ蛋白の基本構造が描かれ,これはすべての疾患に共通する「タウの骨格」を表しています.その周囲にAD,PSP,CBD,PiD,CTEなどの疾患が配置され,各疾患ごとにタウ分子上の翻訳後修飾の分布が色分けで示されています.色はリン酸化,ユビキチン化,アセチル化などを表し,色が広範かつ濃いほど,その疾患においてタウが強く分子加工されていることを意味します.さらに,各疾患の横には「tau 2×」「tau 10×」「tau 81×」といった表記があり,健常対照と比べた病理タウ量の倍率が示されています.この図は,タウオパチーの違いが単なる量の差ではなく,タウ分子の質的な違いによって規定されていることを一目で示しています.

さらに著者らは,これらの分子データを用いた機械学習により,タウの分子特性のみから各疾患を高精度に分類できることを示しました.とくにFLEXITauによる定量データは分類性能が高く,将来的な疾患特異的バイオマーカー,PETリガンド開発,さらには分子標的治療への応用可能性が示唆されました.
非常に速いスピードで研究が進んでいます.本研究は,タウオパチーを一括りに扱う従来の概念を超え,疾患ごとに異なる「タウの分子像」が病態を規定していることを明確に示しています.今後,タウを標的とした診断や治療を考えるうえで,「どのタウを狙うのか」という視点が不可欠であることを,本論文は強く示唆していると言えます.
Kumar M, Schlaffner CN, Tang S, et al. Molecular features of human pathological tau distinguish tauopathy-associated dementias. Cell. 2026;189:1–13. doi:10.1016/j.cell.2025.12.036. PMID: 41616780.