パーキンソン病は,中枢神経系におけるαシヌクレインの異常凝集と黒質ドパミン神経細胞の脱落を本態とする神経変性疾患です.一方で臨床的には,運動症状に先行して便秘などの自律神経症状が高頻度に認められ,病変の初発部位が脳ではなく腸管に存在する可能性が以前から指摘されてきました.近年提唱されている body-first パーキンソン病という概念は,腸管神経系に始まった病理が「腸―脳軸(gut–brain axis)」に沿って中枢神経系へ波及するという仮説に基づいていますが,その細胞学的実体は十分に解明されていませんでした.
今回,Nature誌に英国 University College Londonを中心とする国際共同研究が報告されました.これは腸管免疫を起点とするパーキンソン病の病態を,免疫学的に明らかにした研究と言えます.著者らは,腸管神経叢に隣接して存在する腸管筋層マクロファージ(muscularis externa macrophages)に着目し,これらの細胞がαシヌクレイン病理の初期形成と「腸―脳軸」に沿った進展に果たす役割を詳細に解析しています.
まず重要なものが図1です.これはαシヌクレイン過剰発現マウス(3KL)の十二指腸筋層を調べたもので,腸管筋層マクロファージのマーカーである MHC class II,リン酸化αシヌクレイン(s129p),リソソームマーカーである LAMP1,そして核(DAPI)が同時に免疫染色されています.その結果,s129p+ αシヌクレインのシグナルは,MHC class II 陽性細胞の内部に存在し,かつ LAMP1 陽性構造と明瞭に共局在していることが示されました.すなわち,病的αシヌクレインは腸管筋層マクロファージに取り込まれ,そのリソソーム内に蓄積していることが直接的に示されています.重要なのは,この段階では腸管神経叢の明らかな萎縮や神経細胞脱落は認められておらず,神経変性に先行して免疫細胞内にαシヌクレイン病理が存在している点です.つまり腸管筋層マクロファージは単なる後処理役ではなく,αシヌクレインを初期から保持する主役であることを示しています.
さらに著者らは,腸管筋層マクロファージの中にたまったαシヌクレインが,T細胞を動かす免疫反応の引き金になっていることを示しました.すなわち,αシヌクレイン病理が神経の問題から免疫の問題へと変換されていることが明らかになりました.具体的には,腸管筋層では CD4 陽性 T 細胞が増加し,マクロファージでは MHC class II 分子の発現が上昇していました.T 細胞受容体レパトア解析および光変換トレーシング実験により,腸管で増殖した T 細胞の一部が血流を介して硬膜へ移動し,中枢神経系の免疫環境と連続していることも示されました.これは,腸管で始まった免疫応答が,実際に脳へと波及していることを示す直接的な証拠となります.
となると,この一連の病態に介入して因果関係を確かめたくなります.図2j では,モデルマウス(PD)の腸管筋層マクロファージを標的として抗 CSF1R 抗体および抗 CCR2 抗体を局所および経口投与しています.これにより腸管筋層マクロファージを一定期間,ほぼ完全に機能不全にすることができます(前者は既存のマクロファージを減らし,後者は新規補充を防ぎます).この腸管への免疫療法により,黒質緻密部へのCD3 T細胞の浸潤が完全に抑制されることが示されます.この結果,黒質におけるドパミン神経細胞(TH陽性細胞)の減少も抑えられました(図2m).さらに行動解析でも免疫療法により運動機能の回復が見られました.
以上より,本研究は,腸管筋層マクロファージがαシヌクレイン病理の出発点で,T 細胞応答を誘導し,「腸―脳軸」に沿って免疫が波及するという一連の病的カスケードを明らかにしました.教室の若いドクターに「神経変性疾患の研究に神経免疫は欠かせないものになるはずだから,そんな研究にチャレンジしてほしい」と激励してきましたが,もうすでにそういう研究が激化してきたのかもしれません.他の変性疾患も本当に脳で病態が開始するのか気になってきますし,そのためには病初期の症候の解析が重要になるのだと思いました.いずれにせよ,腸管免疫を標的とした疾患修飾療法開発に重要な示唆を与える報告と言えると思います.
De Schepper S, Konstantellos V, Conway JA, et al. Intestinal macrophages modulate synucleinopathy along the gut–brain axis. Nature. 2025. PMID: 41606336.
https://www.nature.com/articles/s41586-025-09984-y