JAMA Neurology誌に,B型肝炎ウイルス(HBV)が脳を直接侵すことを示した症例が中国・四川大学から報告されました.症例は妊娠37週の23歳女性で,感冒後に意識消失とけいれんを繰り返し,心停止を起こしたものの蘇生されました.胎児は死亡しましたが,その後,意識は回復しました.慢性B型肝炎があり,1か月前から抗ウイルス薬テノホビルを内服していました.
脳脊髄液検査では炎症所見がなく,IgG indexも正常で,自己免疫性脳炎関連抗体(NMDAR,AMPA,GABA受容体,LGI1,CASPR2,GFAP,MOGなど)やHIV・梅毒は陰性でした.しかし次世代シーケンスで脳脊髄液中に存在するあらゆるDNA・RNAを抽出して塩基配列を読み取ったところ,7137のウイルス配列が検出され,うち99.9%がHBVと一致していました.脳波はびまん性徐波を示し,MRIでは左尾状核に限局したT2/FLAIR高信号を認めました(図).HBV脳炎と診断し,テノホビルにガンシクロビルを併用したところ,脳脊髄液中のHBV配列は大幅に減少し,2か月後のMRIでは病変が完全に消失しました.
HBVは肝臓を主な標的とするウイルスですが,最近の研究では神経指向性(neurotropic)を持つ可能性も報告されています.本症例では妊娠や感染による免疫調節の変化が,ウイルス再活性化と中枢神経侵入を促したと考えられます.尾状核病変を伴う原因不明の脳炎では,HBVの関与を念頭に脳脊髄液のウイルス検査を行うことが重要です.
また次世代シークエンスを用いた診断もインパクトがありました.脳脊髄液中には圧倒的にヒト由来のDNA/RNAが多いため,まずそれらをバイオインフォマティクス処理で除外し,残った非ヒト配列をもとに,ウイルス・細菌・真菌・寄生虫などの同定を行います.データ解析が複雑で,バイオインフォマティクスの専門知識が必要のようです.しかし将来的にはこのような検査が診断の難しい症例で行われていくのだろうと思いました.
Zheng X, et al. Isolated Hepatitis B Virus—A Rare Cause of Brain Damage. JAMA Neurology. 2025;82(10):1069–1070. doi.org/10.1001/jamaneurol.2025.2201