抗てんかん薬(antiseizure medications;ASM)は,てんかんのほか気分障害,慢性疼痛,片頭痛などにも広く用いられていますが,一部の薬剤は胎児に奇形や神経発達障害をもたらすことが知られています.フランスのEPI-PHARE研究チームは,全国母子レジストリ「EPI-MERES」を用い,2013〜2021年に終了した約870万件の妊娠を解析し,抗てんかん薬の胎児曝露の推移を明らかにしました.
この期間に少なくとも1種類の抗てんかん薬に曝露された妊娠は55,801件で,全妊娠の0.64%にあたりました.薬剤を安全性に基づいて分類すると,「最も安全」とされるラモトリギンとレベチラセタムへの曝露が約半数,「リスク不明群」(プレガバリン,ガバペンチン,エトスクシミド,ラコサミド,ペランパネル,ゾニサミドなど)が約3分の1,「リスク既知群」(バルプロ酸,バルプロミド,カルバマゼピン,トピラマート,フェニトイン,フェノバールなど)が約4分の1を占めていました.
図に示されるように,2013年から2021年の間で薬剤の構成は劇的に変化しました.バルプロ酸とバルプロミド(バルプロ酸のプロドラッグ)への曝露妊娠はそれぞれ−84%,−89%と急減し,リスク軽減策が効果を上げていることが明らかになりました.代わって,ラモトリギンとレベチラセタムといった安全性の高い薬剤が大きく増加し,それぞれ+22%,+64%の上昇を示しました.ラモトリギンはもともとてんかんに多く使用されていましたが,この10年間で気分障害に対しても用いられる割合が増加したようで,2013〜2015年の15%から2019〜2021年には23%へと拡大しました.これは,ラモトリギンが「胎児への安全性が比較的高い薬」として,精神科領域でも選択される傾向を反映しています.私も良く認識していなかったのですが,日本でもその適応に「双極性障害における気分エピソードの再発・再燃抑制」があります.

一方,プレガバリンやガバペンチン,新規抗てんかん薬(ラコサミド,ゾニサミドなど)の使用は急増しました.とくにプレガバリンでは,妊娠全期間を通じての曝露が+171%に増加しており,胎児がより高用量・長期間曝露されていることが懸念されます.カルバマゼピンやトピラマートの使用も緩やかに減少したものの,依然として2019〜2021年の3年間だけでそれぞれ約600件の出産曝露がみられました.トピラマートは海外では片頭痛にも使用されています.
母体背景をみると,抗てんかん薬曝露妊娠の母親は非曝露群よりも高齢であり,また低所得層の割合が高い傾向にありました.とくにリスク既知薬および不明薬の使用群では,低所得層が約18%に達し,安全な薬剤群(約14%)よりも多く,社会的格差の影響が示唆されました.
著者らは,バルプロ酸曝露の劇的減少は,2015年以降に強化された欧州医薬品庁の妊娠回避プログラムの成果であるとしながらも,その一方で,安全性が十分に検証されていない薬剤の使用が拡大している現状を強調しています.特にプレガバリンや新規抗てんかん薬の使用増加は,今後のリスク評価が急務であると述べています.また,社会的に不利な立場にある女性ほどリスクの高い薬剤を使用している傾向があるため,妊娠前カウンセリング,避妊支援,医療アクセス改善の必要性が強調されています.日本においても同様の処方傾向が生じている可能性があります.妊娠可能年齢の女性への抗てんかん薬処方の在り方を見直す契機となる重要な論文です.
Shahriari P, et al. Trends in Prenatal Exposure to Antiseizure Medications Over the Past Decade: A Nationwide Study. Neurology. 2025;105:e213933. doi.org/10.1212/WNL.0000000000213933