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神経恐怖症から神経不安へ:医学生・医療者に広がる「不安」を教育でいかに克服するか?

「neurophobia(神経恐怖症)」という言葉があります.1994年にJozefowiczが提唱した有名な言葉で(文献1),医学生が「神経学を複雑で難しい」と感じ,恐怖・不安・嫌悪・無関心を抱く現象を指します.約半数の医学生が経験し,基礎課程では神経科学への恐怖や退屈感,臨床実習では冷笑的・諦め的な態度をとるようになります.主な原因は基礎科学と臨床神経学の統合不足にあると言われています.対策としては,基礎・臨床統合型カリキュラムの導入が最も重要とされ,少人数ケースベース学習,脳神経内科レジデントやフェローによる指導,臨床実習中の基礎科学の再学習,基礎科学者の臨床カンファレンス参加などが推奨されています.こうした統合により基礎知識の臨床的意味づけが明確になり,神経学への興味・動機付けが高まって「neurophobia」を「neurophilia(神経学好き)」へ変える可能性があります.

今回,紹介するシンガポール総合病院脳神経内科のTanらの論文は,神経恐怖症というより,実は「neuroanxiety(神経不安)」が重要だと述べるものです(文献2).つまり恐怖は目の前にある明確な危険や刺激に対して瞬間的に起きる強い感情ですが,不安はまだ起きていないことや漠然とした状況に対して持続的に生じる緊張・心配であり,じわじわと行動に影響しやすいという特徴があります.

著者らは1994〜2024年に発表された119件の文献を調べ,最近の研究では「恐怖」よりも「不安」や「嫌悪」などの表現が増えていることを明らかにしました.さらにシンガポール総合病院で医師・看護師・学生103名を対象に調査したところ,回答者の81%が「神経恐怖症」にもっとも関連する感情は「不安」であると答え,「恐怖」と答えたのは42%にとどまりました.そして,不安が主な感情だと答えた人たちの中では,70%が「患者の症状や所見を正しく拾い上げ,整理し,重症度や緊急度を判断する見診断の力が弱いと感じている」,69%が「診療能力自体が低いと感じている」,63%が「神経症例を避けるようになると感じている」と申告していました.こうした否定的感情は医学生や研修医の段階だけでなく,プライマリケア医や非神経系の医師になってからも持続していることが示唆されました.

著者らはこのような結果を踏まえ,「neuroanxiety」を「神経科学に関わる臨床・非臨床の場面に対して,あらかじめ抱く否定的な感情のスペクトラムであり,その結果として患者さんを評価・診断する力や診療の質が損なわれ,神経科領域の症例や業務を避ける行動につながる可能性があるもの」と定義しました.そして「恐怖ではなく不安」というより広い視点から神経学教育を見直すとは,単にその場の恐怖体験を減らすだけの教育から,学生や若手医師が脳神経内科に対して抱く不安や緊張感そのものを軽減・予防する教育設計にシフトすることを意味します.その具体策として,実習の前に基礎知識を動画や資料で予習できるようにする,複雑な症例はまず簡単なケースから始める,学生が安心して質問できる環境を整える,先輩がついてフィードバックをするなどの工夫が挙げられます(表).また,基礎と臨床を統合する教育プログラムを重ねることで,基礎知識に臨床的意味づけが加わり,動機づけを高めて「ニューロフォビア」を「ニューロフィリア」に変えることが期待されます.

岐阜大学では当科に入局するかは別として(笑),「将来,神経学を専門医したい」という学生が徐々に増えています.教室メンバーが朗らかで真面目,教室の雰囲気が良いと学生に言われますが,それに加え,上述の「学生が安心して質問できる環境を整える,若手やベテラン医師がフィードバックをする」といった工夫をしてきた成果なのかもしれません.というかそもそも今後大きく発展する神経学自体が魅力的なのだと思います.ただし,学生が学ぶ内容(=国試レベル)と実際の臨床には大きなギャップがあって着いてこれない学生もいるので,もう少し最新知識を教えたり,実臨床を解説する必要性を感じます.基礎医学との統合は難しい印象ですが,「難しい神経解剖学は臨床医には必ずしも必要ない.その代わり臨床に必要な解剖はしっかり覚える」と強調してから,臨床に役立つ神経解剖学のおさらい講義をしています.先生方の工夫など教えていただけると嬉しいです.

Jozefowicz RF. Neurophobia: the fear of neurology among medical students. Arch Neurol. 1994 Apr;51(4):328-9.   doi.org/10.1001/archneur.1994.00540160018003


Tan YJ, Lin SZZ, Tan Z. From Neurophobia to Neuroanxiety: An Opportune Review of Its Definition and Impact on Neurology Educators and Learners. Neurology® Education. 2025;4:e200247.  doi.org/10.1212/NE9.0000000000200247




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