多系統萎縮症(MSA)は,パーキンソニズム,小脳性運動失調,自律神経障害の多彩な組み合わせを呈する神経変性疾患です.以前はあまり診断が難しいとは思いませんでしたが,近年,MSAとしては進行が速かったり,非典型的な症候(ミオリズミア,水平方向眼球運動制限,線維束性収縮,筋痙攣)を合併する症例がいて,じつは治療可能なIgLON5抗体関連疾患であったり(当科が報告した文献1),それ以外にもMSAに類似する臨床・画像所見を呈する自己免疫性小脳炎が存在したり診断は容易ではなくなっています.
このためカンファレンスで主治医の先生に,「ちょっと進行速度が早い気がする.tissue-based assayで自己抗体は見ておきましょう」と言って,でも調べたら陰性だったという症例がいることにも気づき始めました.そのたび私は「おかしいな.何か違和感があるんだけど・・・」と言って主治医を困らせています.もしかしたらその原因はこれか!?という論文が報告されました.
ご紹介するBrain誌の論文は,MSAにおけるFGF14遺伝子イントロンに存在するGAAリピート伸長の頻度を明らかにし,かつMSAの進行や予後にどのような影響を与えるかを検討したものです.FGF14のGAAリピート伸長はSCA27Bの原因遺伝子変異として報告されています.GAAリピートが概ね300以上(GAA≥300)で明確な病的伸長とされる一方,250–299リピートは不完全浸透の中間域と考えられています.発症は50〜70歳代で,発作性の小脳性運動失調や下向き眼振などが特徴的ですが,パーキンソニズムや自律神経障害も変動して出現することが知られています.MSAとの表現型の重なりが報告されるようになり,両者の鑑別や関連が注目されていました.
対象は臨床診断例(Gilman分類Probable)193例,病理確定例464例の計657例の複数の国が参加した大規模コホートです.対照は健常者1003例でした.病理確定例は剖検脳から,臨床診断例は血液からDNAを抽出しました.FGF14リピート長はロングレンジPCRで測定し,200リピート以上のアレルに対しては両方向リピートプライムドPCR(RP-PCR)で確認しています.必要に応じてOxford Nanopore Technologiesを用いたロングリードシーケンスも行っています.
さて結果ですが,なんとMSA全体の2.89%(19/657)がGAA≥250リピートを保有し,対照群(1.40%)より有意に高頻度でした.病的域(GAA≥300)は7例(1.07%),中間域(GAA250–299)は12例(1.83%)であり,GAA≥300のうち5例は病理診断例でした.657例のMSA患者のFGF14リピート数分布は図Aに示されています.図Dでは,リピート長と生存期間との間に有意な負の相関(r=−0.67,P=0.02)があり,リピートが長いほど生存が短いことが分かります.
伸長アリルを有する患者は,MSA-C,MSA-Pのいずれにも認められ,発症時の初発症状は失調性歩行,自律神経障害,パーキンソニズムがそれぞれ約3分の1ずつを占めました.臨床的には小脳性運動失調,自律神経障害,パーキンソニズムを併せ持つ典型的MSA像でしたが,進行が速く,発症から転倒までの中央値が0.5年(非伸長例では2.7年),車椅子使用までの中央値が5年(非伸長例では7年)と有意に短縮していました.また嚥下障害はより多く認められ,発症年齢との関連は認められませんでした.
画像所見では,FGF14伸長を持つ症例も典型的なMSA所見を呈していました(上段がMSA-P,353リピート,下段がMSA-P+C,326リピート;矢印は被殻の低信号とhot cross bun sign).さらに剖検所見でも,αシヌクレイン陽性グリア細胞質封入体を伴う典型的MSA病理像が確認され,SCA27Bに特徴的とされる小脳皮質の高度な異常や変性像は認めませんでした.
つまりMSAにおけるFGF14リピート伸長は,病理学的には典型的なMSA像(αシヌクレイン陽性GCI)を保っており,SCA27B特有の小脳皮質異常は来さないものの,臨床像(小脳性運動失調や進行の速さ)を修飾するということがポイントのようです.予後を予測するという意味では,本邦の多数例でも検証する必要があるかもしれません.
Ono Y, et al. Anti-IgLON5 disease as a differential diagnosis of multiple system atrophy. Parkinsonism Relat Disord. 2024 Jul;124:106992.(doi.org/10.1016/j.parkreldis.2024.106992)
Viorica Chelban et al. Intronic FGF14 GAA repeat expansions impact progression and survival in multiple system atrophy. Brain. 2025;148:3252–3265. https://doi.org/10.1093/brain/awaf134