第19回パーキンソン病・運動障害疾患コングレスが終了しました.当科からは以下の5演題を報告しました.大野陽哉先生は優秀演題臨床部門に選出され,安藤知秀先生は初参加でイブニングビデオセッションのトップバッターでしたが,ともにとても立派なプレゼンでした.当科のメインテーマの一つ,自己免疫性小脳失調症の吉倉延亮先生,森泰子先生の発表も質疑が盛り上がっていました.
◆吉倉延亮ら.本邦における代謝型グルタミン酸受容体1型抗体脳炎の臨床的特徴の検討
◆大野陽哉ら.非定型パーキンソニズム患者における脳脊髄液中の抗神経抗体の検討(優秀演題臨床部門・ジュニア)
◆森泰子ら.自己免疫性小脳失調症の診断におけるFDG-PETの有用性の検証
◆安藤知秀ら.食事が摂取できないことを主訴に入院した65歳女性(イブニングビデオセッション)
◆下畑享良.シャルコー生誕200年記念シンポジウムに参加して(シンポジウム)

あと学会のメインイベント,イブニングビデオセッションの症例メモです.毎年のことですが,セミナー終了後,自分の正答率の低さに落ち込みます.ただ冷静に振り返ると,稀な病態や,全ゲノム解析でわかる遺伝子変異,小児の神経疾患の即答は難しいと思いました.あと宇川義一先生もおっしゃっていましたが,表面筋電図の提示がもっとあると良いと思います.個人的に教育的で良いと思ったのはEV-1,EV-2(優勝),EV-6,EV-7です.
【イブニングビデオセッション 14演題のメモ】
EV-1「食事が摂取できないことを主訴に入院した65歳女性」
当科安藤知秀先生の提示.水は飲めるものの,お粥のような固形物は下顎が上下,軽度左右に震えてしまい,飲み込むまでに士官がかかってしまう.背景疾患はMSA-C.★下顎の不随意運動はtask-specific masticatory tremorと考えた.パーキンソン病や本態性振戦,家族性geniospasmなどで報告があるがMSA-Cでは初めての報告.感覚トリックなし.軽く顎を下から支えるだけで,飲み込みがしやすくなった.振戦はtask-specificか,positionalかという議論があった.
EV-2「L-ドパの内服で歩行障害が増悪したパーキンソン病の1例」
進行期パーキンソン病の72歳男性.レボドパを内服すると運動緩慢,左下肢のジストニアが出現し歩行が増悪した.★レボドパ血中濃度を測定すると高値で,ON時のpeak dose dystoniaと考えられた.急激に血中濃度が上昇する場合,レボドパにより症状が増悪しうるという非常に教育的な症例.
EV-3「歩行障害と左上肢の運動拙劣を呈した80歳代女性」
2年間の経過で運動緩慢,すくみ足,記憶障害,転倒,前頭葉機能障害,左半側空間無視,臥位での傾眠傾向が出現した.肢節運動失行,ベッドからの起き上がり困難あり.特発性正常圧水頭症・CBSが疑われたが,DATスキャン,MIBG正常.左小脳橋角部腫瘍を認め,これに伴う水頭症であった.T4-5にも腫瘤.★多発Schwannomaであり,神経線維腫症2型が疑われた.VPシャントで改善した.
EV-4「髄液排除試験により歩行障害の著しい改善を認めた62歳男性」
2ヶ月の経過で急速に歩行障害が出現・進行した.Broad basedで,すり足気味で,右手arm swingの低下を認めた,MRIでは軽度の水頭症が疑われた.脳表面の異常信号が疑われた.脳脊髄液細胞増多と全身のリンパ節腫脹を認めた.★Waldenström マクログロブリン血症(IgM の単クローナルな産生と骨髄への小リンパ球浸潤・形質細胞への分化傾向を特徴とするB細胞性リンパ増殖性疾患)に伴う中枢神経障害であるBing-Neel症候群と診断された.
EV-5「膝関節の進展を伴う両下肢のふるえをきたした1例」
2年の経過で下肢の震えと歩行障害が出現した.腱反射あり.膝関節が徐々に進展する所見が認められた.下肢の安静時振戦.膝を伸ばすと再現性振戦?が出現する.★パーキンソン病に伴う下肢振戦で,レボドパ200mgで改善した.(うとうとしてしまい,議論をよく理解できず)
EV-6「経過6年の歩行障害に緩徐進行性の下肢異常感覚が加わった60代女性」
6年の経過で歩行障害が進行.経過中寝言あり.運動緩慢,Romberg徴候陽性,姿勢保持障害,上方視制限,square wave jerkあり.CANVASやSCA2が鑑別診断に挙がったが,MJD/SCA3であった(27/64リピート).★MJD/SCAのIII型と考えられた.発症年齢が高く,小脳性運動失調と多発性末梢神経障害を呈するタイプである.
EV-7「1週間前からの発熱後に急性発症した上肢優位の不随意運動と意識障害を呈した56歳男性」
6日前からの発熱,意識障害,残尿にて入院.上肢の姿勢時に目立つミオクローヌス.F波異常.髄膜造影効果あり,脊髄の長大病変.脳脊髄液蛋白↑OCB陽性.当科で依頼され測定したGFAPα抗体陽性.★GFAPアストロサイトパチ―の診断.本症の一部で末梢神経障害を合併することが知られている.日本では稀だが(臨床神経 2024;64:403-407),海外では8~24%の頻度で報告されており,運動神経優位の軸索型多発神経障害が多く,感覚神経のみの障害は稀.障害部位は神経根や近位部が中心で,F波消失や潜時延長,神経根の造影効果が認められることがある.病態は典型的なCIDPとは異なり,「atypical CIDP-like」と表現される.GFAPは末梢のnon-myelinating Schwann cellにも発現するため,末梢神経障害の一因と考えられていますが,詳細な機序は不明.
EV-8「難聴と進行性の歩行障害を呈した60歳台女性例」
30歳代からの難聴と進行性の歩行障害を認め,3年で10キロの体重減少.母に小脳性運動失調の疾患.失調歩行,筋トーヌス低下,末梢神経障害(CMAP,SNAPとも低下).MRIで小脳萎縮.★遺伝子解析でDNA methyltransferase 1 (DNMT1)-complex disorderと判明.DNMT1遺伝子によりコードされるDNAメチルトランスフェラーゼ1は,DNA複製およびDNA修復の過程でメチル化を維持する唯一のメチルトランスフェラーゼである.この遺伝子の変異は,成人発症の常染色体顕性遺伝性神経変性症候群である2つの疾患において確認されている:(1)認知症と難聴を伴う遺伝性感覚自律神経ニューロパチー(HSAN1E),(2)常染色体顕性小脳性運動失調・難聴・ナルコレプシー(ADCA-DN).
EV-9「亜急性に歩行障害を来した1歳男児」
生後1ヶ月で足を引きずる,起立困難,バランス不良,体幹のジストニア,失調性歩行,スプーンを持つ手もジストニア.2年後に上肢・体幹のミオクローヌス出現.★DYT11の診断(ミオクローヌス・ジストニア症候群).ミオクローヌスとジストニアを主症状とする常染色体顕性遺伝性疾患であり,SGCE遺伝子(7q21)変異によって発症する.父親由来の遺伝子のみが発現するmaternal imprintingが特徴である.発症は小児期〜青年期(典型的には20歳まで)で,ミオクローヌスは上肢や体幹に多く,アルコールで顕著に改善する.ジストニアは頸部や上肢に軽度に出現し,書痙や痙性斜頸として現れる.精神症状(強迫性障害,パニック発作など)やアルコール依存傾向を伴うことが多く,てんかん発作や脳波異常がみられることもあるが,てんかんの存在は本症を否定する所見ではない.
EV-10「10代で発症、経過17年の非進行性右上肢不随意運動と構音障害を呈した一例」
4歳で喋りにくさ,以後,顔面・眼瞼→右上下肢の動かしにくさ・突っ張る感じ.29歳で上肢と喋りにくさのため精査.喋りはジストニアによるもので感覚トリックにより改善.パーキンソニズムとして運動緩慢もあり.★診断はDYT12(ATP1A3 遺伝子変異).急性発症ジストニア・パーキンソニズム(rapid onset dystonia-parkinsonism;RDP)タイプか.RDPは当初から知られてきた典型的病型で,急性に発症するジストニアとパーキンソニズムを示す.早期に症状は完成し以後ほとんど進行しない.ジストニアは顔面口部に強い.パーキンソニズムは運動緩慢,姿勢保持障害を示す.精神症状を伴うことが多い.
EV-11「STN-DBS施行中のParkinson病患者の右上肢に出現した有痛性筋収縮」
60歳代男性.発症16年後のPD.両側DBS後.4年前から右上肢の有痛性筋痙攣(外見上,筋の膨隆が分かる).DBSが壊れているとか,ON時のpainful dystoniaでは等の意見が出たが,DBSスイッチオフにしても改善せず,服薬にも関連せずに生じた.しかしジアゼパムにて顕著に改善.GAD,アンフィフィシン,グリシン受容体等に対する抗体は陰性で腫瘍もないが,★臨床的にStiff-person症候群と診断した.一側下肢から始まる場合,Stiff-limb症候群として知られているが,一側上肢から始まるものは珍しい?腱反射の弛緩相の遅延など腱反射の左右差を見たかった.
EV-12「緩徐に倒れるエピソードを繰り返す3歳女児」
ベッドに坐位から,感情の高ぶりで10秒程度時間をかけてゆっくり転倒するエピソードを繰り返す.当然,カタプレキシーを思わせるがPSGでSOREMPなし・脳脊髄液オレキシン正常,Niemann-Pick病関連の検査異常・遺伝子変異なし.Episodic ataxiaも疑い,失調性運動障害・容易に引き起こされる笑いなどの行動異常を呈するAngelman症候群も検討したが遺伝子変異なし.★最終的にKCNMA1遺伝子変異が判明し,paroxysmal non-kinesigenic dyskinesia(PNKD)と診断.この遺伝子は,Potassium Calcium-Activated Channel Subfamily M Alpha 1をコードする.細胞内のCaイオン濃度の上昇に応じて開き,Kイオンを細胞外に流出させることで,細胞の過興奮を防ぐ.
EV-13「ドパ反応性ジストニアの治療中に、溶連菌感染に伴い動けなくなった9歳女性」
2歳で発達遅延,6歳で左下肢ジストニア,8歳で風邪の後に左痙性.9歳で溶連菌感染後両下肢のジストニア.運動失調もあり.MRIで右小脳半球の腫脹.横山和正先生も発言されていたが,自分も溶連菌感染→「PANDAS」的機序→抗小脳抗体による片側小脳炎を疑い,GAD65やmGluR1などのチェックかなと思った.★驚いたことにEV-10でも出てきたATP1A3 -related disorderのひとつで,relapsing encephalopathy with cerebellar ataxia(RECA)という小脳失調症を示す病型とのこと.
EV-14「レム睡眠中の頭部の運動がPSGにて明らかになった20歳台女性」
朝起きられない睡眠相後退症候群の精査で行ったPSGで,REM睡眠中に頭頸部が左上方に引っ張られるようなjerkyな短時間の運動あり.ミオクローヌスらしいがREM期において認められる.顎部のRWA(REM without atonia)はなし.Abnormal PLMSなし.RBDらしくもない.★機序不明のsleep-related head jerks(neck myoclonus).