対象を,飲酒歴に応じて,飲酒なし,適度な飲酒,大量飲酒,過去の大量飲酒に分類しました.ここで,適度な飲酒とは1週間に7ドーズ(98gのアルコール)以内,大量飲酒とは週に8ドーズ(112g以上)のアルコール摂取と定義されています.1ドーズはビール約350mL,ワイン約150mL,蒸留酒約45mLに相当しますので,適度な飲酒は1日缶ビール1本です.また病理学的検討では,アルツハイマー病関連病理(アミロイドβ沈着,神経原線維変化),レビー小体病理,TDP-43病理,ラクナ梗塞,硝子様小動脈硬化,脳アミロイドアンギオパチーについて評価しています.生前の認知機能はClinical Dementia Rating Scale Sum of Boxes(CDR-SB)で評価されました.
結果として,適度な飲酒,大量飲酒,過去の大量飲酒はいずれも「硝子様小動脈硬化」と有意に関連していました!(図上).これは硝子様(ガラスのように均質で透き通った)物質が血管壁に沈着して,動脈硬化が生じる変化で,硝子様物質には血漿タンパクやコラーゲンなどの基底膜成分が,血管内皮の障害を介して血管壁に染み出して沈着したものと考えられています.この硝子様小動脈硬化のリスクが,適度な飲酒ではオッズ比1.60,大量飲酒では2.33,過去の大量飲酒では1.89と,飲酒歴なし群に比べて明らかに上昇していました.また,大量飲酒と過去の大量飲酒では神経原線維変化(=タウ蛋白の凝集)との関連も認められ,大量飲酒ではオッズ比1.41,過去の大量飲酒では1.31となっていました.一方,アミロイドβ沈着,レビー小体病理,TDP-43病理については,飲酒との明確な関連は認めませんでした.さらに,過去の大量飲酒は脳重量比(体格補正するために,脳重を身長で割った値)の低下,すなわち脳萎縮(β=−4.45)および認知機能の悪化(CDR-SBスコア上昇,β=1.31)と相関していました.ちなみにβは回帰分析における回帰係数です.

図下では,飲酒が認知機能低下に及ぼす影響について,直接効果(direct effect)と間接効果(indirect effect)を分けて解析しています.この結果,飲酒と認知機能低下との間には直接的な影響は認められず,硝子様小動脈硬化を介した間接的な影響であることを示しています(間接効果:β 0.13,p = 0.012).
批判的に読むと横断研究であり,飲酒期間に関する情報が欠けているため,因果関係を断定することには慎重であるべきですが,それでも飲酒が脳の血管病変を通して認知機能に悪影響を与えることが強く示唆されました.注目すべき点は,適度な飲酒でも硝子様小動脈硬化のリスクが上昇することです.さらに日本人を含む東アジア系の人々では,アルコール代謝に関わるALDH2遺伝子の活性低下型を保有する割合が高く,アルコール摂取後にアセトアルデヒドが体内に蓄積しやすいことが知られています.アセトアルデヒドは血管内皮障害や神経細胞障害を引き起こす毒性を有しており,小動脈硬化をさらに促進する可能性があります.したがって,日本人では,飲酒による脳への影響がより高まる可能性があると考えられます.こうしてデータを前にすると,「適度な飲酒」という言葉の響きも,どこか心許なく感じられてきます.効果のほどはさておき,昨晩はノンアルコール・ビールで晩酌を済ませました.
Nogueira BV, et al. Association of Alcohol Consumption With Neuropathology in a Population-Based Study. Neurology. Published online 2024.(https://www.neurology.org/doi/10.1212/WNL.0000000000213555)