ワクチンの感染に対する防御能は経時的に徐々に低下していくようです.しかし重症化の防御能は保たれるという研究が複数出てきました.施設入所者などフレイル(脆弱)な高齢者では感染しうるものの,それでも重症化は防げているようです.ブースター接種の是非についてのエキスパートの主張を記した最後の論文はぜひチェックしていただきたいと思いますが,まずは未接種者へのワクチンを優先し,ブースター接種は感染のハイリスク者や,ハイリスク者に感染させうる医療者や施設勤務者などに限定して行うことが良い選択のようです.また最初の論文のアストラゼネカワクチンによる新しい副反応「pre-VITT症候群」は知っておくべき情報です.
◆アストラゼネカワクチン後,5~20日後の激しい頭痛では「pre-VITT症候群」を疑い,見逃さず免疫グロブリン静注療法を行う.
アストラゼネカワクチンの重篤な副反応として,ワクチン誘発性免疫性「血栓性」血小板減少症(VITT)が知られている.今回,ドイツから脳静脈洞血栓症(CVST)などの血栓症を伴わず,激しい頭痛を呈するワクチン誘発性血小板減少症(VIT)が,VITTの前段階として起こる可能性があるという報告がなされた.11名の患者が,ワクチン接種の5~18日後に,CVSTを伴わない重度の頭痛を呈した.すべての患者で血小板減少,Dダイマー高値,抗PF4-ヘパリンIgG抗体高値を認めた.その後,3人(患者1,2,3)に頭蓋内出血が発生し,患者2と3ではCVSTが確認された.またVITTの診断基準を満たす状態で最初に入院したのは2名(患者2,4)であった.血栓性合併症を認めなかった7名(患者5~11)のうち1名を除く全員が,頭痛発症後5日以内にIVIG,グルココルチコイド,抗凝固療法を受けた(図1;患者5).以上より,重度の頭痛,Dダイマー高値,抗PF4-ヘパリンIgG抗体陽性のVITが,VITTに先行する可能性が示唆された.この「pre-VITT症候群」とも呼べる病態の頭痛の機序として,著者はより細い皮質静脈レベルの微小血栓症が関連する可能性を指摘している.アストラゼネカワクチン接種後5~20日後に重度の頭痛を呈した患者は,直ちに血小板数とDダイマー値を測定し,可能であれば抗PF4-ヘパリンIgG抗体の検査も行うべきである.抗体が高力価の場合,患者にCVSTの危険性が差し迫っているが,IVIGなどの即時治療でこの状態を予防できる可能性が高い.
New Engl J Med. Sep 15, 2021.(doi.org/10.1056/NEJMc2112974)

◆重症COVID-19感染は膠原病に関連する自己抗原やサイトカインを標的とする自己抗体の産生を招く.
米国からCOVID-19の入院患者147名を対象に,膠原病に関連する血清中のIgG自己抗体,抗サイトカイン抗体,抗ウイルス抗体反応を測定するための3つのタンパク質マイクロアレイを開発した研究が報告された.この結果,自己抗体は対照群では15%未満であったが,COVID-19群では約50%に認められた!(図2)自己抗体は,筋炎・心筋炎(MDA5,Troponin 1,MYH6,PL-7,JO-1,MI-2),全身性硬化症(RPP25,Fibrillarin,U11/U12),血管炎(C1q,BPI,β2GP1),オーバーラップ症候群などに関連する自己抗原を標的とするものであった.これらはまれな膠原病で見られるもので,一部は病原性があるものと予測された.また非常に多数の抗サイトカイン抗体が同定された.さらにSARS-CoV-2ウイルスの非構造タンパク質を認識する抗体も同定され,かつ自己抗体と正の相関を示した.以上より,重症COVID-19感染は宿主の免疫寛容を破綻させ,膠原病関連自己抗原やサイトカインを標的とするIgG自己抗体を産生されることが示された.
Nat Commun. 2021 Sep 14;12(1):5417.(doi.org/10.1038/s41467-021-25509-3)

◆ファイザーワクチンの接種6か月後の評価で有効性は91.3%,重症例に限ると96.7%と持続した.
ファイザーワクチンはCOVID-19 に対して高い有効性を示すが,最初の認可の時点では,接種後2カ月を超えるデータはなかった.今回,6ヶ月後のデータが報告された.16歳以上の参加者4万4165人と12~15歳の参加者2264人を無作為に割り付け,ワクチン30μgまたは偽薬を21日間隔で2回接種した.主要評価項目は6ヶ月後の有効性と安全性である.結果として安全性は以前高く,有害事象も許容範囲内であった.有効性は6ヶ月間で 91.3%であったが,徐々に低下していた(図3).年齢,性別,人種,COVID-19の危険因子が異なる国や集団において,86~100%の有効性を示した.重症化防止に限定すると有効性は96.7%とより高かった.β株が優勢であった南アフリカでの有効性は100%であった.
New Engl J Med. Sep 15, 2021.(doi.org/10.1056/NEJMoa2110345)

◆介護施設におけるクラスターはワクチンのみでは防げない.
フランスから完全ワクチン状態の介護施設入所者に生じたクラスターが報告された.ファイザーワクチンが2021年1~2月に接種され,3~4月にかけてクラスターが生じた.入居者74名(男16名,平均年齢87.8歳)のうち17名(23.0%)が感染した(すべてα株).完全ワクチン状態14/70名(20%),部分ワクチン接種2/2名,未接種1/2名が感染した.8名が重症化し,2名が入院したが,ワクチン未接種の1名のみ死亡した.ワクチン接種者のうち7名が重症化したが,死亡はなかった.一方,医療従事者102名では12名(11.8%)が感染した.ワクチン接種者では3/34名(8.8%),未接種者では9/68名(13.2%)が感染した.症状が出たのは5名,すべて未接種者で,重症化した人はいなかった.以上より,ワクチンを完全に接種した介護施設入所者でもクラスターが生じうる.おそらく加齢による免疫能低下,栄養失調,糖尿病,がんなどの影響が推測される.しかし感染者でも重症化が少ないことは注目に値する.
JAMA Netw Open. 2021;4(9):e2125294.(doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2021.25294)
◆イスラエルで行われたブースター接種で,感染は11分の1に低下した.
2021年7月30日,イスラエルにて,60歳以上で5カ月以上前に2回目のワクチンを接種した人に対するファイザーワクチンの3回目接種(ブースター接種)が承認された.感染と重症化に対するブースター接種の効果に関する検討が報告された.イスラエル保健省のデータベースから,60歳以上で,少なくとも5カ月前に2回のワクチン接種を受けた113万7804人に関するデータを抽出した.主要解析では,12日以上前にブースター接種を受けた人と受けていない人の間で,感染が確認された割合と重症化した割合を比較した.この結果,感染の割合は,非ブースター群に比べてブースター接種群で11.3分の1と低く,重症化の割合はさらに低い19.5分の1であった.図4はブースター接種群が,非接種群と比較して,感染率を低下させた割合と接種後日数の関係を示している.ブースター接種後12日以上経過してから感染が確認された割合は,4~6日経過してからの割合よりも5.4分の1と低かった.以上よりブースター接種は,短期的には感染および重症化防止に有効であることが示唆された.
New Engl J Med. Sep 15, 2021.(doi.org/10.1056/NEJMoa2114255)

◆ブースター接種は政治的ではなく,科学的エビデンスに基づき,利益とリスクを考慮して決める.
Lancet誌のViewpoint欄にブースター接種をどう考えるかについて米国,英国,フランス,南ア,インド等のエキスパートによる意見論文が発表された.以下,要旨を箇条書きにする.
・中和抗体価の低下は必ずしもワクチン効果の低下を予測するものではない.
・感染に対する効果が低下してきたように見えても,重症化の抑制効果が大幅に低下しているというエビデンスはなく,一般集団においてブースター接種を行う必要性はない.
・ワクチンの種類によっては,早期のブースター接種は重大な副反応を引き起こす可能性がある.
・ブースター接種により効果が得られるとしても,ワクチン未接種の人に接種する利益を上回ることはない.変異株のさらなる進化を抑制し,パンデミックの終息を早めることができる.
・イスラエルのブースター接種の報告は非常に短期的な検討であり,長期的な利益を意味するとは限らない.
・しかしブースター接種は,ワクチンの効果が乏しい人(注;フレイルの高齢者,施設入所者)や免疫不全者などに適している可能性がある.
・エビデンスに基づき,個人や社会にとっての利益とリスクを判断する必要がある.WHOはワクチンが世界のより多くの人々に行き渡るまで,ブースター接種を取りやめるよう呼びかけている.
ちなみに図5は感染と重症化に対する効果を分けて推定している報告をまとめたものである.一貫して言えることは,重症化防止に対するワクチンの有効性は,感染防止に対する有効性よりもはるかに高いということである.ワクチンの有効性は,デルタ株ではアルファ株に比べてやや低いものの,有症状感染と重症化の双方に対して,依然として高い有効性を示す(B).ワクチンの種類が違っても重要化防止に有効であることに変わりはない(C).
Lancet. Sep 13, 2021.(doi.org/10.1016/S0140-6736(21)02046-8)
