COVID-19における大きな問題として,重症化や死亡を防止する薬剤がなかなか開発できないことが挙げられます.しかしいよいよ光明が見えて来たかもしれません.昨年末,英国から重症者のゲノムワイド関連解析がNature誌に報告され,重症化に関わる5つの遺伝子が同定されました(Nature 591, 92–98 ,2021).そのひとつがサイトカイン・シグナル伝達で活性化する酵素チロシンキナーゼ2(TYK2)ですが,これを抑制するヤヌスキナーゼ阻害剤バリシチニブが,デキサメサゾンを使用する標準治療群と比較して,入院患者死亡率を38%低下させました.バリシチニブは本邦でもオルミエント®として関節リウマチに使用される経口薬です.また炎症性サイトカインであるIL-1αとIL-1βを阻害するアナキンラ(本邦未承認)も重症化が予測される患者の死亡率を抑制しました.いずれも第3相試験です.久しぶりに嬉しい論文を読みました.
◆ワクチン2回接種はlong COVID(28日以上の症状持続)の出現を半減させる.
ブレイクスルー感染の危険因子を明らかにすることを目的とした研究.スマホアプリにて英国成人から得た自己申告データを用いて,前方視的症例対照研究として行った.124万9人が1回目のワクチン接種(ファイザー,モデルナ,アストラゼネカ)し,うち6030人(0.5%)がその後PCR陽性となった.また97万1504人が2回目のワクチン接種をしたが,うち2370人(0.2%)がその後PCR陽性となった(つまりブレイクスルー感染率は0.2%と低い).危険因子分析では,高齢者(60歳以上)の場合,1回目接種後の感染と関連したのはフレイル(OR 1.93),および貧困度の高い地域での居住(OR 1.11)であった.肥満のない人(BMI 30未満)では感染は少なかった(OR 0.84).ワクチン接種は,未接種と比較し,入院または発病1週間以内に5つ以上の症状が出る確率を減らし,また2回目接種後のlong COVID(28日以上の症状持続)の頻度を半減させた(図1).接種した感染者では,未接種の感染者に比べてほぼすべての症状が出現する頻度が低く,特に60歳以上の場合,無症状感染となる可能性が高かった(図1).以上より,特にフレイルの高齢者や貧困地域に住む人々はブレイクスルー感染しやすく,ワクチン接種に加えて,感染防御の継続を推奨すべきである.
Lancet Infect Dis. 2021 Sep 1:S1473-3099(21)00460-6.(doi.org/10.1016/S1473-3099(21)00460-6)

◆ブースター接種は感染リスクを大幅に低下させるが,正しい戦略と言い切るには長期的なデータが必要である.
Science News欄が,ファイザー・ワクチンを3回接種すると,感染リスクが大幅に低下するという2つの研究を紹介している.1つ目はイスラエル保健省の報告.60歳以上のイスラエル人110万人以上を分析し,ブースター接種(3回目の接種)を受けた12日後には,感染リスクは10倍以上減少し,2回目の接種直後の95%の範囲にまで感染防御力が回復した.重症化を防ぐ効果はさらに強く,リスクを15倍に減少させた.しかし研究期間が短いことから結果は不確実と著者は述べている.
2つ目はイスラエルからのプレプリント論文で,250万人(人口の1/4 強)の健康記録から,ブースター接種の早期効果を調べた.18万2076件のPCRを分析し,ブースター接種後7日~13日経過した人では,2回接種のみの人と比べて,PCR陽性率が48%低下し,14日~21日経過すると70%低下した.
しかしNews記事では「ブースター接種を広く普及させることが賢明であるかは不明」と述べている.つまりあくまでも短期的な効果であり,数ヶ月にわたって長期的な免疫力の向上につながるかが重要と述べている.ブースター接種による追加免疫がすぐに効果を失っては意味がない.またブースター接種の適切な間隔も不明である.ブースター接種が正しい戦略と言い切るには,より長期的なデータが必要である.
Science News. Sep 1. 2021(https://bit.ly/3yYRWnI)
medRxiv. Aug 31, 2021.(doi.org/10.1101/2021.08.27.21262679)
◆11ヶ月までの経過観察で多くの人の嗅覚障害は改善するが,嗅覚錯誤や幻嗅は時間経過とともに増加する.
COVID-19感染後11か月までの嗅覚障害とその回復について検討した国際共同研究が報告された(プレプリント論文).対象はCOVID-19と診断され,発症当初より嗅覚・味覚障害を呈した1468名であった.中央値約200日の追跡調査を行った.女性の60%,男性の48%が,病気になる前の嗅覚の80%以下になったと報告した.味覚の回復は嗅覚よりも早く,嗅覚が回復したにも関わらず,味覚障害が持続することはほとんどなかった.嗅覚錯誤(これまでと匂いが違う;parosmia)と幻嗅( 実際にはない臭いを感じる;phantosmia)の有病率は,2020年4月~9月ではともに約10%であったが,2020年9月~2021年2月では大幅に増加し,嗅覚錯誤は47%,幻嗅は25%になった(嗅覚錯誤は嗅覚低下が回復しない患者でより多い;図2).嗅覚障害の持続は,COVID-19の重症度と関連し,long COVIDの重要なマーカーとなる可能性が示唆された.以上より,多くの人は嗅覚障害が改善する一方,嗅覚錯誤や幻嗅の有病率は時間経過とともに大幅に増加した.嗅覚障害に対する治療研究が強く望まれる.
medRxiv. Aug 31, 2021.(doi.org/10.1101/2021.08.28.21262763)

◆ワクチン誘発性免疫性血栓性血小板減少症の発症後12週経過すればmRNAワクチン接種が可能.
日本でも接種が開始されたアストラゼネカワクチンでは,副反応としてワクチン誘発性免疫性血栓性血小板減少症(VITT)が報告されている.VITTは抗血小板因子4(PF4)IgG抗体によって引き起こされるが,抗体産生の持続期間については不明である.ドイツからVITT患者35名(女性27名,中央値53歳)についての検討が報告された.中央値11週間の観察期間中,血小板活性化試験が35例中23例(66%)で陰性になった.12週間以上の追跡調査を行った15名のうち14名(93%)は,中央値で12週間以内に血小板活性化試験が陰性となった(図3).抗PF4-ヘパリンIgG ELISAのODは,最初と最後の試料の比較で53%低下した(P<0.001).しかし,ELISAが陰性(OD 0.5未満)となるのはわずか3名のみであった(つまり検査として鋭敏ではない).残り1名は,12週間以上,血小板活性化試験陽性,かつELISAのOD 3.0以上が持続し,血小板減少症も再発した.5名は抗凝固療法を受けつつ,初回接種から10~18週間後に,2回目の接種としてファイザー・ワクチンを受けたが,新規の血栓性合併症やELISAのODが再上昇した者はいなかった.以上よりVITTにおける抗PF4抗体の上昇はほとんどの患者で一過性であることが示された.また血小板活性化試験が陰性になったあとに,mRNAワクチンによる2回目接種を行うことは安全である.上記検査が困難な場合,2回目のワクチン接種はVITTのエピソードから少なくとも12週間待つことが実際的なアプローチと思われる.しかし一部の患者(1/35名)では12週間以上抗体産生が持続した.このような患者では長期の抗凝固療法や追加治療が必要になる可能性がある.
New Engl J Med, Sep 8, 2021.(doi.org/10.1056/NEJMc2112760)

◆IL-1α/β阻害剤アナキンラは呼吸不全ハイリスク患者の予後を改善する.
可溶性ウロキナーゼプラスミノゲンアクチベーター受容体(suPAR)の血清レベルの早期上昇は,COVID-19の呼吸不全への進行リスクの増加を示唆することが知られている.ギリシアから,血漿中のsuPAR≧6 ng/ml以上により選定した患者594名を対象とし,炎症性サイトカインであるIL-1αとIL-1βの活性を阻害するアナキンラの効果を検証する第3相試験(SAVE-MORE)が報告された(偽薬群189名,アナキンラ群405名).うち510名(85.9%)でデキサメタゾンが使用されていた.28日目の時点で,偽薬と比較して,アナキンラは,臨床状態(11段階のWHO臨床進行スケール(WHO-CPS)で評価)が悪化する調整比例オッズは0.36(95%信頼区間0.26-0.50)であった(図4).28日目のWHO-CPSのベースラインからの低下は,偽薬群が3ポイント,アナキンラ群が4ポイント(OR=0.40,P<0.0001),7日目のSequential Organ Failure Assessment(SOFA)スコアのベースラインからの低下は,それぞれ0ポイントと1ポイント(OR=0.63,P=0.004)であった.28日目の死亡率は減少し(4%対9%;ハザード比=0.45,P=0.045),入院期間も短くなった.
Nat Med. Sep 3, 20212(doi.org/10.1038/s41591-021-01499-z)

◆JAK阻害剤バリシチニブ(オルミエント®)で入院患者死亡率が38%低下する.
バリシチニブは経口の選択的ヤヌスキナーゼ(JAK)1/2阻害剤で,抗炎症作用があり,本邦でも関節リウマチに適応がある.米国から入院中の成人患者を対象として,標準治療との併用によるバリシチニブの有効性と安全性を評価した第3相試験が報告された.アジア,欧州,北米,南米の12カ国の101施設から参加者が登録された.標準治療を受けている入院患者を,1日1回バリシチニブ(4 mg;リウマチでの常用量)または偽薬群に無作為に割り付けた(1:1).標準治療にはデキサメタゾンとレムデシビルが含まれた.複合的主要評価項目は,28日目までに高流量酸素,非侵襲的/侵襲的機械的人工呼吸,または死亡に進行した割合とした.1525名が参加し,バリシチニブ群764名,偽薬群761名となった.データが得られた患者の91.3%にデキサメタゾンが,18.9%にレムデシビルが使用されていた.28日目の全死亡率は,バリシチニブ投与群で8%,偽薬群で13%であり(ハザード比0.57,p=0.0018),死亡率が38.2%に減少した(図5).60日間の全死亡率は,バリシチニブ群で10%,偽薬群で15%であった(HR 0.62,p=0.0050).重篤な有害事象としての重篤な感染症,静脈血栓塞栓症の頻度は両群で同程度であった.
Lancet Respir Med. 2021 Aug 31:S2213-2600(21)00331-3. (doi.org/10.1016/S2213-2600(21)00331-3)
