「臨床神経学」に声帯外転不全を呈したALS症例のケースレポートが聖隷三方原病院より報告されている.個人的にはとても意外に感じた報告であった.症例は75歳男性.発症から2年後,%努力肺活量60%,嚥下障害が軽度であった時点で誤嚥性肺炎を来した.痰の喀出障害,軽度の嗄声を認め,喉頭鏡にて高度の両側性声帯外転障害(吸気時における声帯の正中固定)を認めた.吸気性喘鳴はなし.窒息する危険を避けるため気管切開術が施行された.
多系統萎縮症(MSA)では声帯を外転させる後輪状披裂筋に限局した筋萎縮を呈することが声帯外転不全の一因と考えられている.一方,ALSでは内転に関与する声門閉鎖筋にも神経原性変化がみられるため,純粋な声帯外転不全は生じにくいと推測できる.しかし驚くべきことにALSにおいても,球麻痺を認める症例では声帯内転障害は認めないものの,両側性の声帯外転不全が約30%の症例にみられるという報告があり(Hillel AD et al. Neck 1989),ALSにおける声帯外転不全は稀ではない可能性もある.実際に既報において,高度の声帯開大不全を認めた症例が本論文を含めると10例あるそうで,うち8例は球麻痺発症であった(つまり球麻痺発症は声帯外転不全の予測因子となる可能性がある).著者らは高度の声帯開大不全は窒息による突然死に関与する可能性があるため,ALSでも球麻痺の程度に関わらず声帯機能の評価が必要であると考察している.
新潟大学でもMSAにおける上気道閉塞として,声帯外転不全(Arch Neurol. 2007 Jun;64(6):856-61)やfloppy epiglottis(Neurology. 2011 May 24;76(21):1841-2)について報告してきたが,ALSでも同様の所見を呈しうるということは意外であった(floppy epiglottisも報告があるらしい:伊藤ら.日耳鼻2009).病初期から球麻痺を認める症例や,夜間酸素飽和度モニターで上気道閉塞による無呼吸パターンを呈するような症例において,喉頭鏡検査を行うかどうかということになるのかもしれない.吸気性喘鳴も検査の適応を決めるのに役立つものと思われるが,MSAと異なり,ALSでは認められないことが多いそうで,吸気性喘鳴を認めないからといって声帯外転不全の存在を否定できないようだ.
臨床神経 51;765-769, 2011