small vesselの閉塞はさらに,「多発性ラクナ梗塞」および「Binswanger病(進行性皮質下血管性脳症)」に大別される(このあたりは日本認知症学会による
まず「Binswanger病」は,臨床的には歩行障害,平衡機能障害,局所神経症状,遂行機能障害,認知機能障害を呈する点が特徴である.バイオマーカーとして,髄液アルブミンの上昇の報告や,髄液matrix metalloproteinase(MMP)の上昇の報告がある.とくに後者については,「多発梗塞性認知症」ではMMP9およびMMP2の上昇を認めないが,「Binswanger病」では両者の上昇を認め,さらにその2つのMMPの上昇は,正の相関をするという報告がある(Stroke 2004; 35:e159-162).またpreliminaryな報告ではあるが,multiple timed graphical plots (Patlak plots)という方法にて,大脳白質における血液脳関門(BBB)破綻を示唆する所見が得られている.病理学的にはsmall vesselの障害が主体であるが,障害血管の近傍に脱髄と炎症細胞の浸潤を認める点が特徴である.白質は低酸素誘導因子1α(HIF1α)を発現している.活性化アストロサイト,マクロファージ,ミクログリアが見られるが,それらはmatrix metalloproteinase(MMP)を発現している.
以上を考え併せると,small vesselの障害による低灌流・低酸素により,転写因子HIF1αの誘導が生じ,反応性アストロサイトやミクログリアが動員され,フリーラジカルやサイトカインなどの組織障害因子を分泌する.また炎症に関わる低酸素誘導性遺伝子発現が生じ,この結果,障害血管周囲のミエリン近傍に蛋白分解酵素群(MMPやセリンプロテアーゼなど)が分泌され,脱髄が生じる.同時にBBBの破綻が生じ,血清成分が脳内に侵入しさらに脱髄が進行する.以上より,MRI上の白質の異常信号は虚血,脱髄,炎症を反映したものと考えられる.
現在,「Binswanger病」と診断確定できる,単一の検査法がないため,神経所見,神経心理学的検査,MRI,MRS,BBB透過性評価,髄液蛋白・MMPs測定などいくつかの検査を組み合わせて診断をする必要がある.しかしこれらの検査の蓄積で病態の解明が進み,例えば炎症が重要な役割を果たしていることが証明されれば,新しい治療法の開発につながる可能性も期待できる.また現時点における中核症状に対する治療としては,コリン系の障害が認知機能低下に関与している可能性が指摘されており(剖検脳で皮質・皮質下灰白質のアセチルコリン濃度の低下,および髄液アセチルコリン濃度の低下が報告されている),保健適応外ではなるがAchE阻害剤が有効である可能性がある.
Stroke 40; S20-23, 2009 (suppl 1)