睡眠時無呼吸症候群は,スタンフォード大学睡眠センターのGuilleminault教授らにより,1976年「7時間睡眠中に10秒以上つづく無呼吸が30回以上見られるもの」あるいは「non-REM睡眠1時間あたり5回以上認められるもの」と定義された.私はセンターに行って彼の研究室や外来を見せていただいたことがあるが,教授は「ポリソムノグラフィー(PSG)おたく(?)」の評判通り,ひたすらPSG所見を読んでおられた.その際,研究所で私が逆に質問されたのは「日本でKline-Levin症候群(KLS)を担当したことはあるか?」であった.私はひとりだけ担当した経験があると答えたが,今回,取り上げるNeurology論文を読んで合点が行った.
KLSは反復性過眠症とも呼ばれる疾患であり,10歳代の男性に好発する.1週間ほど持続する過眠状態(睡眠期)がときどき生じるのだが,その時期を過ぎればまったく無症状になること(無症候期)が特徴的である.特異的な検査所見はなく,診断は臨床症状に基づく.睡眠期の誘因として,感染,睡眠不足,アルコールが知られている.教科書的には傾眠期に過食や性欲亢進を呈すると記載されているが(いわゆる人間の「3つの欲」を呈する病気である),本邦の症例では過食や性欲亢進をきたすことは少なく,ほとんどの症例では反復性の過眠のみを特徴とするといわれる.性格変化(攻撃性,持続性の興奮性)や自律神経症状を呈することもある.ナルコレプシーで低下するヒポクレチン(オレキシン)は正常である.病態機序は不明であるが,以下のような説がある.
hypothalamic dysfunction説
中枢性セロトニン・ドパミン代謝異常説
自己免疫疾患説(HLA-DQB1*0201)(Neurology 59; 1739-1745, 2002)
局所的脳炎説
症候性KLSとして,外傷による「右視床下部と対側の側頭葉の障害」を来たした症例(Behav Neurol 11; 105-108, 1998)が報告されていたり,SPECTでは左側優位の前頭・側頭葉領域の著しい血流低下が報告されている(Acta Neurol Scand 105; 318-321, 2002).治療としては,リチウムやカルバマゼピン内服が有効と言われるが,有効性を疑問視する立場もある.
ポリソムノグラフィー(PSG)では,睡眠効率の低下とNREMステージ2からの頻回の覚醒(Sleep 23; 563-567, 2000; J Sleep Res 10; 337-341, 2001)が少数例で知られていたが,今回,Guilleminault教授らが多数例でのPSGとMSLT(※)所見に関する検討を報告した.対象は17例の男性で,10例で睡眠期と無症候期の両方でPSG検査を施行した.結果はこれまでとの報告とは異なるもので,①睡眠期の前半ではslow wave sleep(すなわちNREM期ステージ3-4)の頻度が有意に減少し,かつ睡眠期の後半になるとslow wave sleep頻度が無症候期と同程度まで回復する,逆に②REM期は睡眠期の前半では保たれていたが,後半では有意に減少した.MSLTでは睡眠潜時は平均9.5分で,2回以上sleep-onset REM(寝て間もなくREM期が出現するナルコレプシーで高頻度みみられる所見)が出現したのは7/17で,頻度は高くはなかった.睡眠効率の低下は見られなかった.
以上の結果から,睡眠期であっても時期により睡眠に変化が生じていること,MSLTは症状との関連が乏しく,KLSでは有用でないことがわかった.ただKLSの機序は不明のままであり,今後の検討が必要である.
Neurology 70; 795-801, 2008
※ MSLT(Multiple Sleep Latency Test)
他覚的眠気度検査で,被験者を暗く静かな記録室のベットの上に寝かせ,リラックスして眠るように指示し,記録開始時から入眠するまでの時間(睡眠潜時)やREM期が出現するまでの時間(REM潜時)を計測する.これを1日5~6回,記録する.