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ALS 研究における失われた10年?

 1993年にRosenら(Nature 362: 59-62, 1993)は常染色体優性遺伝形式を示す家族性ALS(FALS)の原因遺伝子SOD1遺伝子を同定した(SOD1-positive FALS).SOD1遺伝子変異の発見は,ALSの分子病態研究を飛躍的に進展させた.これまでの孤発性ALS(SALS)研究は,SOD1-positive FALSを疾患モデルとして研究し,具体的には変異SOD1がどのような機序で神経毒性を発揮するのか,もしくはSOD1-positive FALSのモデル動物を作成し,治療効果を調べることが研究の中心であった.ただし,これらの研究の発展は,あくまでもSALSとSOD1-positive FALSが病態機序を共有するという仮説に基づいたものであるが,実はその根拠は乏しく,SOD1-positive FALSはSALSと臨床経過や病理所見が似ているという程度であったように思われる.このため,SOD1-positive FALSにおける研究成果が,どれだけSALSに応用できるのだろうかという懸念を持っている者は私以外にも少なからずいたのではないかと思われる.

 今回,SALSとSOD1-positive FALSの病態機序の異同を考える上で,とても重要な研究が報告された.最近,TDP43(TAR DNA-結合蛋白-43)がSALSの神経細胞に蓄積し,病態機序に関与する可能性が報告されたが(Science 314; 130-133, 2006),同グループからSALS以外のALSにおけるTDP43の検討が報告された.対象はALS 111例で,その内訳はSALS 59例,SOD1-positive FALS 15例,SOD1-negative FALS 11例,ALS with dementia 26例であった.これらのALS剖検脳(脊髄,脳幹)に対して,免疫組織および生化学的解析(immunoblot)を行っている.

 結果としては,SALS,SOD1-negative FALS,ALS with dementiaの全例で,神経細胞およびグリア細胞(オリゴデンドログリアらしい)にユビキチンおよびTDP43陽性の細胞質封入体(線維状,ないし球状)を認めた.SALSにおける既報と同様,封入体陽性細胞では,核蛋白であるTDP43の核における染色性が低下していた.一方,SOD1-positive FALSでは,ユビキチン陽性封入体を認めるもののその形態は他のALSとは異なり,不整形で,かつTDP43陰性であった.この結果は不溶性分画を試料に用いた生化学的解析でも確認された(SOD1-positive FALS以外では,43kDaのTDP43蛋白以外に,25kDaのC末断片と高分子スメアが認められるが,SOD1-positive FALSではそれが認められない).

 これら結果より,著者らはSALSの家族発症例がSOD1-positive FALSであるという単純な図式ではなく,全く別の疾患である可能性を考えている.よってこれまでSOD1-positive FALSに対して行われてきた研究は,あくまでもSOD1-positive FALSという少数例にのみに応用できるものであり,ALSの大部分を占めるSALSには全く応用できない可能性がでてきたというわけである.個人的にはTDP43の蓄積や蛋白分解の有無だけで病態機序が違うと断定してよいものか疑問も残るが,その一方で,本研究のインパクトは非常に大きく,タイトルのような議論もなされるだろう.今後の研究は,引き続きSALSとSOD1-positive FALSの病態機序の相違について検討がなされる一方,TDP43の持つ機能についての解析が培養細胞への発現実験などを用いて行われるものと思われる.この蛋白はRNA認識部位を2か所もち,転写調節やexon skippingに関与することが推定されている.細胞質に蓄積したことは,おそらくこの蛋白が細胞質と核内を往来するシャトル蛋白である可能性を示唆する.次の興味の一つはTDP43の核移行を核移行シグナルの変異導入や核移行阻害剤などを用いて阻害すると,細胞にどのような変化が生じるかということであろうか.TDP43研究がSALSのcurative/remissive therapy開発の糸口になることが切望される.

Ann Neurol 61; 427-434, 2007 



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