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痙性対麻痺の新たな遺伝子の同定(SPG11)

 家族性痙性対麻痺は緩徐に進行する両下肢の痙性(つっぱり)と筋力低下を主徴とする遺伝性疾患である.上位運動ニューロンの変性が原因であるが,臨床的にも遺伝学的にも不均一の疾患群である.臨床的には大きく純粋型(下肢痙性,筋力低下,腱反射亢進,病的反射.ときに凹足,排尿障害,深部覚障害を呈する)と,複合型(上記に加え,精神発達遅滞,視神経萎縮,軟調,小脳失調,認知症,網膜色素変性症などを合併する)に分類されてきた.遺伝学的には常染色体優性遺伝,常染色体劣性遺伝,伴性劣性遺伝に分類される(現在,36のタイプにまで分類されている;SPG1-36).本邦では常染色体優性遺伝形式のSPG4(spastin変異)の頻度が一番高く,次にSPG3A(atlastin変異)が多いと考えられている.

 一方,劣性遺伝形式の場合,臨床的には複合型であることが多いが,遺伝子診断ではほとんど既知の遺伝子変異を認めることがない(ただし一見劣性遺伝形式に思えるSPG4の報告あり).本邦では痙性対麻痺に加え精神発達遅滞を合併し,画像上,脳梁の菲薄化を認める複合型遺伝性痙性対麻痺が報告されていた(AR hereditary spastic paraplegia with thin corpus callosum;ARHSP-TCC;SPG11).本邦の劣性遺伝性痙性対麻痺のなかでは最も頻度が高いと考えられ,実際,本邦からの症例報告が多いが,欧米からの報告例もある.発症年齢は1歳から50歳と幅広いといわれている.この疾患は15番染色体に連鎖することが報告されていたが,原因遺伝子は不明であった.

 今回,フランスINSERMのBriceらのグループがこの原因遺伝子を同定した.ARHSP-TCC 12家系(フランス,アルジェリア,モロッコポルトガルチュニジアイスラエル,イタリアの家系)を連鎖解析し,15q21.1において今まで報告されていない遺伝子において遺伝子変異を見出した.この遺伝子は40エクソンを有し,転写産物は8 kbに及び,2443アミノ酸からなる蛋白質をコードする(遺伝子産物はspatacsinと名づけられた). mRNAはin situ hybridizationの結果,神経系に広範に発現することが判明したが,小脳,大脳皮質,海馬,松果体に強く発現しており,本症の多彩な臨床症状が理解できる.遺伝子変異はナンセンス変異か,もしくはフレームシフトを起こす挿入か欠失変異であるが(病態機序としてはloss of functionが考えられる),1家系では遺伝子変異を認めなかった.spatacsin蛋白の機能については不明であるが,細胞内分布は細胞質・核周囲が主体で,GFP- spatacsinキメラ蛋白をCOS細胞に強制発現させたものをアルコール固定しても染色性が消失しないことから,何らかの膜構造に結合しているものと考えられた.遺伝子変異を認めた家系の臨床像を振り返ってみてみると発症年齢は2歳から23歳,ほぼ全例で脳梁菲薄化を認め,膀胱直腸障害,構音障害,嚥下障害,振戦,視神経萎縮を合併する症例もあった.

 spatacsin蛋白の機能の解明は,錐体路変性の機序の解明に役立つものと考えられる.それにしても本邦例がこの報告に含まれていないことが何とも残念だが,いずれ本邦のARHSPにおける頻度や,SPG11の臨床像の多様性についても明らかになるであろう.また1家系で遺伝子変異を認めなかったことは,ARHSP-TCCは原因遺伝子が単一ではなくheterogeneousな疾患群であることを示唆するが,従来の報告でも脳梁の菲薄化はSPG11のみならず,SPG1(L1CAM; Xq28),SPG15(常染色体劣性14q22-q24),SPG21(常染色体劣性Maspardin; 15q22)でも報告されている.

Nat Genet 39; 366-372, 2007



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