どんな仕事でも、手を抜いていい理由なんて存在しないと思っています。
これは教える立場になってから、ずっと自分に言い聞かせてきたことです。
講義の報酬が高くても低くても、受講者の人数が多くても少なくても、関係ない。
目の前の人たちに全力を注ぐ。
それだけが、自分にできる唯一の誠実さだと感じています。
あなたは仕事をするとき、金額によって力の入れ方を変えてしまうことはありませんか?
きっと、心のどこかで「これくらいでいいか」と思った経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。
私自身も、そういう誘惑と戦ってきた一人です。
とはいえ、正直に言うと、最初からそんな考え方ができていたわけではありません。
プログラミング講師として活動し始めた頃、ある小規模な講義を担当したことがあります。
参加者はわずか数名で、主催側から提示された報酬もけっして高いものではありませんでした。
「これだけの準備が本当に必要なのだろうか」と自問した瞬間があったのは事実です。
それでも、手を動かしてスライドを作り、演習課題を一つひとつ丁寧に考え、受講者一人ひとりの理解度を想像しながら資料を整えていくうちに、あることに気づきました。
準備すればするほど、講義が楽しみになってくるのです。
これは正直、予想外の発見でした。
頑張ることが、こんなに自分を前向きにするとは思っていなかったのです。
努力が自分への報酬になる感覚、とでも言えばいいでしょうか。
さて、当日はどうだったか。
受講者のうちの一人が、演習課題でプログラムをはじめて動かした瞬間に「あ、動いた!」と声を上げました。
その表情が、今でも鮮明に残っています。
目が丸くなって、少し照れたように笑って、それからもう一度画面を見つめていました。
たったそれだけのことなのに、準備にかけた時間すべてが、まるできれいに溶けていくような感覚でした。
報酬の多寡なんて、その瞬間には完全に意味を失っていたと思います。
全力で臨んでよかったと、心の底から感じた瞬間でした。
あの笑顔は、どんな報酬よりも大きなものでした。
プログラミングには、他の分野にはない特有の喜びがあります。
書いたコードが意図通りに動く瞬間の、あの小さくも確かな達成感。
それは初心者でも経験者でも、基本的には変わりません。
「自分が作ったものが動いている」という事実は、何度繰り返しても新鮮で、どこか誇らしい気持ちをもたらしてくれます。
その感覚を、受講者と一緒に体験できる仕事はそうそうありません。
だからこそ、毎回の講義が楽しいのです。
受講者が「できた」という顔をする瞬間を、毎回心待ちにしています。
あなたも、そんな「ちょっとした達成感」を最近味わいましたか?
実のところ、この仕事に就く前には大きな挫折を経験しています。
エンジニアとして働いていた時期に体調を崩し、長い間うつ状態に近い日々を過ごしていました。
あの頃は、自分にとって「楽しい仕事」というものが存在するのかどうか、真剣に疑っていました。
毎朝、起き上がるのもつらい時期が続いたことがあります。
それが今、こうして受講者の笑顔を見るたびに「この仕事でよかった」と感じられているのは、あの経験があったからこそかもしれません。
しんどい時期がなければ、目の前の人の笑顔がこれほど嬉しいとは、きっと気づけなかったと思います。
辛い経験も、今となっては大切な財産です。
あの時期があったから、今がある。
人に何かを教えるとき、金額だけで力の入れ具合を変えるとどうなるか。
おそらく、受講者には伝わります。
準備の密度は、説明の細かさや、問いへの反応の速さ、その場での言葉の選び方に、じわりと滲み出てくるものです。
「この人はちゃんと考えてきてくれた」と感じてもらえるかどうかは、報酬ではなく、準備の質で決まると思っています。
それは教える仕事に限らず、あらゆる仕事に共通していることではないでしょうか。
手を抜いた仕事は、どこかに必ずその痕跡が残ってしまうものです。
受講者の目は、正直です。
もちろん、全力で準備することは体力も時間も使います。
神奈川の自宅で、前日の夜遅くまでスライドを見直すことは珍しくありません。
眠い目をこすりながら「もう少し、もう少し」とパソコンに向かっている夜があります。
それでも、講義当日に受講者が「わかった」「できた」という顔をしてくれる瞬間があれば、その疲れは次の準備へのエネルギーに変わります。
疲労がエネルギーに転換される、不思議な感覚です。
この繰り返しが、講師としての自分を少しずつ成長させてきたのだと思っています。
あなたは今、自分の仕事に全力を注げていますか?
ふと立ち止まって、そう自問してみることがあります。
報酬や条件に関わらず、目の前の相手に誠実であること。
それが積み重なって、気づいたときに「天職だ」と感じられる仕事になっていくのだと、今は信じています。
私自身も、その積み重ねの途中にいます。
完璧な講師なんて存在しないし、毎回の講義から何かを学んでいます。
うまくいかなかった講義ほど、次への学びが多いとも感じています。
金額に関係なく全力で取り組む。
その姿勢が、受講者の笑顔をつくり、自分の喜びにもなる。
そしてその循環の中に、プログラミングという素材の楽しさが加わったとき、講義は単なる作業ではなくなります。
それが、教える仕事を続けていられる理由であり、これからも変えたくない信念です。
全力でやれば、必ず何かが返ってくる。
そう信じて、今日も準備を続けています。