どんな時代にも通じる力、あなたはもう持っていますか。
AIが仕事を奪うとか、プログラミングができないと乗り遅れるとか、毎日のようにそんな言葉がSNSを流れていきます。
正直なところ、そういう情報を見るたびに少しだけ焦った気持ちになったことはないでしょうか。
かくいう自分も、エンジニアとして働いていたころ、新しいフレームワークが登場するたびに「これも覚えなきゃ」と追い立てられるような感覚がありました。
まるでランニングマシンの上を走り続けているみたいに、止まれない。
あの焦りは今でも妙にリアルに思い出せます。
でも、あるとき気づいたんです。
結局、一番大切なのはトレンドのスキルじゃない、と。
IT企業の研修講師という仕事に就いて、さまざまな職歴や年齢の受講者たちと向き合ってきた中で、はっきり見えてきたことがあります。
技術の習得が早い人と、そうでない人。
この差って、実はプログラミングの経験量だけじゃないんですよね。
むしろ決定的な違いは、コミュニケーションの質にあることが多い。
講義中に迷わず質問できる人、詰まったときに「わかりません」と素直に言える人、チームで何かを作るときに相手の意図をきちんと汲める人。
そういう受講者はほぼ例外なく、技術の習得スピードも早い。
これは偶然じゃないと思っています。
さて、少し立ち止まって考えてみてください。
この10年で消えた職業と、新しく生まれた職業を並べてみると、テクノロジーの進歩がいかに速いかよくわかります。
でも同時に、その変化の波をうまく乗りこなしてきた人たちに共通していることも見えてきます。
それは、新しい知識を吸収するスピードではなく、人と連携する力です。
たとえばプロジェクトが崩れかけたとき、技術力だけで立て直せることはほとんどない。
誰かに助けを求め、状況を言語化し、チームの空気を落ち着かせられる人が、修羅場をくぐり抜けていく。
これはIT業界に限った話ではないでしょう。
どんな職種であっても、人と人との間に生まれる摩擦を和らげる力は、成果に直結します。
正直に言うと、自分自身がそこを軽視していた時期がありました。
エンジニアとしてバリバリ動いていたころ、技術で勝負すると思い込んでいたんです。
コミュニケーションなんて、なんとなくやっていればいい、くらいに考えていた。
でも、それが原因のひとつになって、仕事でつまずき、精神的にもかなりきつい時期を過ごすことになります。
うつ状態になって、しばらく何もできなかった。
あのころを振り返ると、技術以前に自分の感情を言語化できていなかったし、誰かに頼ることも本当に苦手だった。
コミュニケーション力の欠如が、じわじわと自分を追い詰めていたんだと、今になって強く思います。
それでも、そこから立ち上がれたのは、周りの人たちのおかげです。
うまく言葉にできないまま助けを求めたとき、受け止めてくれた人がいた。
そのとき初めて、「伝える」という行為がどれほど人の関係を変えるかを体感しました。
それ以来、コミュニケーションを「なんとなくやるもの」から「意識して磨くもの」として捉えるようになっています。
ふと思うのですが、あなたが今一番頼りにしている人は、技術が優れている人ですか。
それとも、話していて安心できる人ですか。
だから今、講師として受講者に伝えたいことがあります。
プログラミングを学ぶことは大切です。
ITの知識は間違いなく武器になります。
でも、それと同じくらい、いや、もしかしたらそれ以上に、コミュニケーションという普遍的な力を磨いてほしい。
なぜなら、その力は20年後も、30年後も、今とはまったく違うテクノロジーの世界でも、絶対に役立ち続けるからです。
流行のプログラミング言語は、10年もすれば別のものに置き換わるかもしれない。
でも、相手の話を聴く力、自分の考えを伝える力、関係に摩擦が生まれたときに修復できる力は、時代がどう変わっても色褪せない。
これが、いわゆる「土台」の話です。
家を建てるとき、外壁や内装がどれだけ豪華でも、基礎がぐらついていたら意味がない。
スキルも同じで、コミュニケーション力という基礎がしっかりしているからこそ、その上に積み重ねた技術が初めて生きてくる。
講義を通じて多くの受講者を見てきた中で、この確信はどんどん強くなっています。
技術だけを磨いて伸び悩んでいる人が、コミュニケーションを意識するようになった途端にぐんと成長する。
そういう場面を、何度も目の当たりにしてきました。
あなたにとって、今の「土台」はどんな状態でしょうか。
トレンドを追うことに疲れを感じているなら、一度だけ立ち止まってみてください。
一時的な流行に振り回されるのではなく、どんな職業にも通用する力を育てること。
それが、長い目で見たときに一番の近道だと、経験を通じて感じています。
新しいツールや言語を覚えることを否定したいわけじゃない。
そうではなく、まず土台を固めた上で技術を積み上げていく、その順番を大切にしてほしいということです。
時代が急速に変わっていくからこそ、変わらない力が輝く。
そう思っています。