給料以外に、得られるものがあると気づいた瞬間の話をさせてください。
指導の仕事をしていると、ふと立ち止まって考えることがあります。
「自分がこの仕事を続けているのは、なぜだろう」と。
もちろん、働く以上は収入が必要です。
それは当然のことで、否定するつもりは一切ありません。
でも、長くこの仕事に関わってきた今、確信を持って言えることがあります。
報酬はお金だけじゃない、ということです。
それはきれいごとでも理想論でもなく、現場に立ち続けてきた中でじわじわと積み上がってきたリアルな実感です。
ある日の講義が終わったあと、一人の受講者がそっと近づいてきました。
「先生、今日のコードの意味がやっと分かりました」と、目を輝かせながら話してくれたのです。
その表情は、まるでずっと解けなかったパズルのピースがはまった瞬間のように、ぱっと晴れやかで。
思わず胸がじんとしました。
そのときに思ったのです。
「ああ、これだ」と。
教壇に立つことを選んでよかった、と心の底から感じた瞬間でした。
こういう瞬間が、次の講義を全力で準備しようというエネルギーになります。
もともと、この仕事に就く前は、IT企業でエンジニアをしていました。
技術的なことは好きだったのですが、どこかで「自分には向いていないかもしれない」という不安が膨らんでいきました。
気づけば気力が落ちて、うつ状態に近い日々が続いていたことも正直にお話しします。
毎朝、起き上がることすら億劫になる時期がありました。
仕事に向かう足が重くて、「なんでこんなに苦しいんだろう」と何度も自問したことを覚えています。
「自分はどこへ向かっているんだろう」という問いが、ずっと頭の中に引っかかっていました。
そんな経験を経て、ある縁で企業向けの研修講師という仕事に出会い、「自分はこれをやるために生まれてきたんじゃないか」と初めて思えました。
失敗も、遠回りも、全部今につながっていたんだと気づいたのは、あのとき出会った受講者の笑顔があったからかもしれません。
立ち止まっていた時間も、無駄ではなかったと今は思えています。
回り道があったからこそ、今の自分の言葉には少し重みが出てきたのかもしれません。
人に何かを教えるというのは、決して簡単ではありません。
最初の頃は、うまく説明できずに受講者を混乱させてしまったことも何度もありました。
「どうしてこんなにうまく伝えられないんだろう」と、帰り道に一人で落ち込んだ夜のことは今でも覚えています。
神奈川を走る電車の中で、ぼんやりと窓の外を眺めながら、自分の言葉の足りなさを悔やんでいました。
でも、そういう失敗を重ねるたびに、少しずつ「相手の理解に合わせた言葉」を選ぶ力がついてきたと思っています。
失敗は苦しいけれど、それが積み重なって今の自分になっているのだと感じます。
あの夜の落ち込みがなければ、今の自分にはなれていなかったとも思っています。
プログラミングは、小学校の頃から親しんできた世界です。
当時は遊び感覚で触れていた技術が、今では多くの人に伝えたいものになっている。
不思議な縁だなと感じます。
そして今、受講者の方がプログラムの仕組みを「分かった」と感じてくれる瞬間に立ち会えることは、どんな賞や評価よりも心に響くものがあります。
それは数字では測れない、本当の意味での報酬です。
あなたは今の仕事の中で、お金以外に「得られているもの」を感じたことはありますか。
Gallupのストレングスファインダーを通じて、多くの人の強みに向き合う仕事もしています。
その中で気づいたのは、「天職」というのは探すものではなく、日々の小さな喜びの積み重ねの先に見えてくるものだということです。
誰もが最初から天職を知っているわけではありません。
試行錯誤して、転んで、また立ち上がった先にそれが見えてくる。
受講者が一つの概念を理解するたびに見せてくれるあの表情が積み重なって、今の私自身の原動力になっています。
自分の強みがどこにあるのか分からないまま走り続けている人に、「あなたにはこういうところが輝いている」と伝えられる瞬間もまた、言葉にできないくらいうれしいものです。
指導の仕事は、教えながら自分も育てられる場所です。
受講者から学ぶことは、毎回必ずあります。
「なんでこうなるんですか」という素直な問いが、実はこちらの思い込みを崩してくれることもあります。
教える側が一番成長しているんじゃないかと、半分本気で思うことすらあります。
そうやって互いに影響し合いながら、講義という空間が成り立っているのだと感じます。
仕事が楽しいと感じている人は、どのくらいいるのでしょう。
少し立ち止まって、自分が今の仕事から得ているものを振り返ってみてください。
給料、スキル、人間関係。
それだけではなく、誰かの「分かった」に立ち会える感動。
そんなものが、毎日を豊かにしてくれると信じています。
日々の仕事の中に、まだ気づいていない宝があるかもしれません。
ITの面白さを知っている人が、もっと増えてほしい。
仕事を心から楽しめる人が、一人でも多くなってほしい。
それが私自身の、変わらない願いです。
どんな仕事にも、お金には換えられない「何か」がきっと眠っています。
あなたの仕事の中にも、探してみると必ずあるはずです。