今年の夏はどうも出張を入れすぎたきらいがあって、7月にはシドニーで学会、8月はイギリスで資料収集、9月に入ってシンガポールで研究会があった。何だかんだと忙しかったために、進めたいと思っていた研究はあまり進められていない。来年度で科研が切れたり、とある節目があったりで、再来年度以降の準備をするために、今年度の後半から来年度にかけては、しばらくじっとして研究や執筆を進める必要性を感じている。
それはそうと、シンガポール出張では面白いことがあった。オーストラリアはなぜか3年連続で行っているし、イギリスは飽きるほど行っているので新鮮味はないが、シンガポールは8年ぶりである。その時はブルネイとセットで回り、はじめての「フィールドワーク」をやったわけだが、シンガポールは私にとって、本当はこの8年間に何度も来る可能性があった因縁の国である。
まずは2019年に博士論文のフィールドワークのために、シンガポール(NUS)に拠点を置いてブルネイやマレーシアに関する研究をやろうと思い、受け入れの承諾も得ていたのだが、その前のフィールドワーク先であるカタールで病気になったために、急遽キャンセルを余儀なくされた。そして今度は2020年にNUSのAsia Research Institute(ARI)とLee Kuan Yew Schoolのポスドクに応募したのだが、後者には最終で落とされ、前者は採択されたものの、研究ユニットの長だった人がセクハラで大学をクビになるということがあったりして、ケンブリッジでポスドクをやるためのフェローシップが確保できたこともあり、行くのをやめた。翌年の2021年に今度はNUSの政治学部のAssistant Professor職に応募して面接に呼んでもらったのだが、コロナ中だったためオンラインの面接だったため現地には行かなかった。
今回の研究会は、そのNUSのARIで行われ、地質学に関する諸々を社会科学・人文科学の視点から議論するというものだった。私のような資源関係のことをやっている歴史家や人類学者などがいたり、科学技術社会論的な専門の人がいたりと、かなり分野は多様であった。私がこの研究会に呼んでもらったのは、ARIでかつてユニット長がクビになった時代わりに受け入れてくれることになっていた先生がその後東大に移ってきて同僚になっており、その人が主催者に私の名前を教えてくれたのと、主催者が参加した別の研究会で、知り合いの先生が私の本について言及してくれたかららしい。人と人とのつながりを意識させられる出来事だが、話はここに留まらない。
久しぶりにシンガポールに行くということで、Nanyang Technological Universityにいる知り合いがNTUでもセミナー発表をやらないかと誘ってくれた。その人自体はケンブリッジで博士号を最近取得し、近々NTUで勤務を始めるという立場だが、セミナーには他にもオックスフォードの先輩で今Singapore Management Universityで職を得ている人や、ANUの博士課程でシンガポール人の友達などが来てくれ、リラックスした会になった。以前からオンラインでゆるやかに繋がっていたKei Koga先生が司会をしてくださった。

そしてセミナー後、学内のレストランでNTUの人たち+αと夜ご飯を食べていると、Instagramでオックスフォード時代のカレッジのインド人の友達がメッセージしてきて、今NTUで博士課程をしていて、NTUのメーリスかポスターか何かで私が来ていることを知ったと言うではないか。残念ながら今回は予定が合わず、会うことはできなかったが、彼がシンガポールにいるということを全然知らなかったので、これには驚いた。
さて、ディナーが終わって解散し、タクシーを待っている間飲み物でも買おうとキャンパス内のスーパーに入ると、すれ違った誰かが私を凝視している気配があった。数秒後、Nao?と呼ぶので振り向くと、なんとこれまた友達であった。博士時代にアメリカで参加した、IQMRという方法論のサマースクールで同じパネルで発表した韓国人の友人で、そういえば少し前にNTUで職を得たというポストをしていたような気がする。しかし忘れていて連絡をしていなかったので、向こうも相当驚いたらしい。あわててタクシーをキャンセルして、1時間ほどキャッチアップした。そして彼に「さっきNTUで博士を始めたというオックスフォードの友人がメッセージしてきたんだよ」と話すと、「それって〇〇のことじゃない?」と聞いてくるではないか。何と上記のインド人の友人は、今彼の授業を取っているらしい。
数年前に東大で教えていた授業を取ってくれていたエクアドル人の学生に、オックスフォードで会ったエクアドル人の友達がいるという話をしたら、2人が友達だったという出来事があったのだが、それ以来の「世界は狭い」を実感する出来事だった。
実は8年前にシンガポールに行った時には、ホテルで人生初の「金縛り」に遭ったりして、その後も行こうとするたびに何かが起きて行けなくなっていたので、私は前世でシンガポールで相当悪辣なことをやっていたのかな、などと心配していたのだが、今回のシンガポール出張は、若手研究者が多く刺激的だった研究会自体も含めて、非常に楽しかった。アジア人がマジョリティで、国際的で言語的な障壁がなく、生活水準が高い国というのはほとんどないので、こういった環境で働くのも良さそうだな、と思った出張であった。
