2024年も終わりに近づいている。記事のカテゴリを選んでいて、去年の同趣旨の記事と同様「帰国後の日常」というカテゴリを選択したのだが、自分はまだ帰国後の日常を生きているのだろうか、と少し考えてしまった。日本での教員生活も慣れたのだが、やはりイギリス時代というのは自分の人生にとってインパクトが大きく、今でもその余韻の中に生きているような気もする。「もはや帰国後ではない」と宣言するときはいつになるだろうか。まあそれは置いておいて、今年の仕事を振り返ってみたい。
著書
今年はなんといっても、初めての単著を出した年であり、それに尽きるといってもよい。長年の夢であったケンブリッジ大学出版局から本を出せたというのは、自分のキャリアにとっても大きいし、感情的にも今年一番の嬉しさだった。
学術書を出しても、悲しいほどに経済的な見返りというのは少ないのだが、1冊目の段階では何よりも学術的な評価こそが問題なので、それは構わない。「反響」というものが分かるにはまだ早すぎるのだが、とりあえずいくつか引用は付いたし、書評もInternational Affairs誌に出た。Cambridge Review of International Affairsにもいずれ書いてもらえるようだ。
今年は本のプロモーションもあって、スケジュール的にもかなりこれに規定された年だった。5-7月のオックスフォード滞在中もブックトークの開催に奔走していたし、10月にもイギリスでブックトークをして、日本でも東京外大・慶應・神戸大・東大法学部・東大先端研でトークをさせていただいた。
日本語版が1月末に慶應義塾大学出版会から出る予定で、既に私の手は離れている。これが出たら所属先でブックローンチをやりたいと思っている。
論文
今年は本のために捧げると決めていたので、その他の研究においては成果が少なく、今年出たのはブック・チャプターが1つだけということになった。『世界の岐路をよみとく基礎概念』という書籍に入っている「第12章 政治学における質的分析」というのがそれである。タイトルの通り政治学における質的方法論の発展というのが、これまでどのように進んできて、どういった課題があって、質的研究の強みはどこにあるのか、といったことを議論している。オリジナルな研究というよりはレビュー論文に近いものだが、これから研究を始めようとする院生や学部生が、周りに流されるのではなく自分のやりたい研究を選択できるために、それが質的研究である場合に方法論についてどのようなことを踏まえておけばよいか、ということを念頭にかなり力を入れて書いたつもりである。
ブック・チャプターというのはなかなか微妙なもので、手はかかる割に、編者でない限り(あるいは編者であっても)業績としての見返りは少ない。尊敬するイギリスの研究者は、割に合わないから自分はブック・チャプターは書かないと宣言していて、それは1つのやり方だろうなと思う。ただ、この論集は恩師の藤原帰一先生のご退職記念と絡めたものであるので、自分も参加したいという思いがあり、また上記のような内容は、オリジナルな研究成果というわけではないので、独立した論文としては出版しにくい。結果的には、ちょうどいい落ち着き先だったといえる。
実は他にも英語で3件ブック・チャプターを抱えていて、1つは既に手を離れたもの、あと2つはこれから書かないといけないものだが、これらが出た後は、ブック・チャプターについてはかなり慎重に参加するか否かを検討しなければと思う。軽々に引き受けると、本来やりたい研究ができなくなってしまう。
教育・学務
今年は海外長期滞在があったこともあって、授業は担当していなかったのだが、公共政策大学院の院生の修士論文の指導を2人ほどやっていた。1人は新入社員として働きながらの修士2年目で、イレギュラーな事例+初めての経験ということもあり、論文が仕上がるのかと心配だったが、頑張りを見せてくれて無事に書き上がった。もう1人は今年から担当の留学生で、今テーマ選びの最中。
その他に諸々の委員やら、部門コーディネーターなる役割やら、シンポジウムの企画やら、総長と学生の対話の調整役やら、色々と学務があった。今いるセンターは学生がいないので教育義務はないのだが、その代わりに私の想像していた大学教員の業務とはかなり性質の違う学務がけっこうある。
その他
去年書いた日本近世の「国境」についての論文で、アメリカ政治学会(APSA)のInternational History and Politics分科会から、Outstanding Article Award in International History and Politicsという論文賞を頂いた。ただ、残念ながらAPSAは行く予定ではなかったので、賞金と賞状だけを後日送ってもらうことにした。賞金はわりとすぐに振り込まれたのだが、賞状は今に至るまで送られて来ていない。テキトーである。やはり海外で何かを受賞した際には、実際に行って受け取らないと、せっかくの賞状をもらい損ねる場合が多いようだ。
最後に、著書に関連するブログ記事を2件ほど書いた。1つはオックスフォードの友人が運営に関係しているブログ。
もう1件は依頼を受けて今書いているところだが、驚くことに、私が著書の印税でこれまでに受け取った額よりかなり多い原稿料をくれるらしい。大きな財団がバックに付いているようなので、お金があるのだろうか。しかし、私の経験がたまたまそうだったのかもしれないが、どちらのブログも編集担当がめちゃくちゃ原稿に手を入れようとしてきたので、少しうんざりしている。
そんなこんなで、今年もあと1週間。良いお年を!


