バタバタしたイスタンブール・イギリス出張から1週間空けて、今度は台湾へと出張することになった。自分は何かと予定を詰めたがるタイプで、特に海外出張などは機会があるととりあえずサインアップしてしまうのだが、前週の出張で風邪を引いたので、今回は詰め込んだことを少し後悔していた。だが結果としては、今回の台湾出張は体調も問題なく、非常にスムーズな出張となった。
なぜ台湾に行ったかというと、今年の前半に台湾の嘉義にある国立中正大学の先生方が東大の我々の研究ユニットを訪問され、私は当日祖母の葬儀などで行けなかったのだが、今度は私たちを台湾へと招待してくださったのである。ちょうどこの時期に台湾では国際関係の学会である中華民國國際關係學會の年次大会が開かれるということで、中正大学訪問と学会参加をセットとして出張することになった。参加したのは、ユニット長の先生と台湾出身の研究員と私の3名だった。
諸々の歴史的経緯があるから、無邪気に言うべきことではないのだが、やはり台湾というのは日本出身者にとって非常に快適で身近な、「ほどよい異国」なのだと思う。危険を感じることもなく、漢字で何となく意味がわかって、食事も美味しく、(少なくとも旅行者としては)諸々の手続きにもストレスが少ない。ヨーロッパも好きだが、やはり歩いていて感じる「自分がここでは異物である」という緊張感が少ないのは、アジアを旅することの大きな魅力だと思う。今度は研究と結びつけて月単位で滞在してみたいものだ。

お土産文化
同時に今回の出張のなかで、日台の興味深い相違点もいくつか見つけることができて面白かった。まずは、今回会った先生方の驚くほどのホスピタリティである。とりわけお土産文化がすごい。私たちも一応ちょっとしたお土産(東大グッズ)を持っていったのだが、中正大学の先生に会うとまず烏龍茶やらパイナップルケーキやらを持たせてくれ、大学の総長に表敬訪問すると、今度は大学の35周年記念のお酒を頂き、もっとこちらも色々持ってくるんだったと後悔した。
そして学会に行っても参加者それぞれに何やら大きな包みが渡され、何だろうと思って包装を開けると、なんと弁当箱だった。え、弁当箱?いまだかつて学会に行って弁当箱をもらったことがなかった私はかなり当惑したのだが、学会企画の過程で誰かが「参加者へのお土産は弁当箱がいい」と発言したのだと思うとちょっと面白い。
同行していた台湾出身の同僚によると、台湾(中華圏?)では「お土産は大きければ大きいほどいい」という価値観があるらしく、極端な話、小さくて高価なものよりも、大きくて安価なものの方が喜ばれるとのことである。どこまで一般に当てはまるのかわからないが、確かにパイナップルケーキもお酒も弁当箱も、包みとしてはかなり大きく、機内サイズのスーツケースとリュックだけで来た私は荷物を入れるスペースに苦労した。中正大学の先生方、ならびに中華民國國際關係學會の先生方は非常に歓待してくださり、頭が上がらない気持ちである。

学会文化
最終日には学会で討論者をやったのだが、そこでも日本とは違う(学会によっても異なるのだろうが)運営方式を見つけて興味深かった。まずパネルが始まる前に、パネリスト全員で記念撮影をするのである。日本や欧米では、終わった後に誰かが言い出して写真を撮ることはあるが、今回の学会では運営側が最初にパネリストを集めて写真を撮っていた。
もう1つ面白いのは、各部屋には2人の運営要員(たぶん学生)がいて、1人がスライド係、もう1人がタイムキーパーとして、何分前かになると、机に置いたベルを機械的に鳴らす。日本や欧米でよくあるのは、司会者が何分前という紙を掲げて合図をするとかだが、これもやるかやらないかは司会者次第である。だが今回の学会では、運営側が全員に対して機械的にベルを鳴らすのである。これを失礼と感じる人もいるのだろうが、学会というのは時間超過して喋り続ける人の展覧会みたいなもので、個人的にはこれに辟易しているところがあったから、この仕組みは気に入った。ただ、ベルを聞いたからといって話すのをやめるかというとそうではなく、依然として喋り続ける人もいたので、効果のほどは分からない。
ニッポンの異国
個人的に、一番日本とは違うなと思った点は、諸々の精算をすべて現金でやるということだった。今回は招待していただいたのだが、航空券や電車賃など、立て替えておいて現地で精算する、という手続きがあった。日本であれば後日振込み、というのが普通だと思うが、台湾では今でも全部現金で手渡しなのである。なので10万円以上の札束を日本に持って帰って、両替屋で両替して、銀行に預け入れるという、少しリスキーな行動をすることになったが、振込を何週間も待たなくていいという意味ではありがたい仕組みでもある。これとは対照的に、ケンブリッジの研究費から出るはずのイスタンブール出張の経費は、1ヶ月以上経つのに未だに支払われていない。イギリスの大学事務のひどさにはつくづく嫌気が差す。
そんなわけで楽しい出張を終えて帰国後に、事務の人と雑談していて「台湾では経費精算が全部現金でびっくりしました」という話をしたら、「向山さんが若いから知らないだけで、ちょっと前までは日本もそうでしたよ」と言われてまたびっくりした。海外だけではなく、自国の過去にも「異国」はあるのだ。
