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日本が翻訳者がたくさんいる国で良かった

 
おとといの続き。
 
おととい、「日本が好き」な理由なんてなんでもいいじゃないですか、と書いた。そうした後に、私にとって日本が好きな理由、日本で好きなもの、日本で助かっていることを色々と思い出してみた。
 
振り返ると、日本が好き・日本で良かった理由はたくさん思いつく。文学やサブカルチャーはもちろん、食生活、風土、制度、個別の要素はいくらでも挙がる。他国と比べて劣っている部分、不便な部分がないとは言えないけれども、「住めば都」とはよく言ったものだ。
 
 

私は日本の翻訳者にめちゃ助けられています

 
ところで、私の「日本が好き」のひとつに、優れた翻訳者がたくさんいて、海外の読み物を母国語で読めることを挙げたい。以下、幾つか例を挙げてみます
 

 
私が若かった頃にめちゃくちゃな影響を受けたフランスの社会学者・ボードリヤールの『消費社会の神話と構造』を訳したのは、ご自身も哲学者である今村仁司だ。この先生の翻訳のおかげで、私は社会学などの本に挑戦する勇気をもらったようなものだ。ここから今村先生の本にも関心が向かい、たとえば『近代の労働観』を読んだりもした(次に繋がる読書になりました!)。
 

 
今、調べてみたら、2024年には『資本論』を翻訳しているともいう。『資本論』はできれば近づきたくない本だけど、読むなら今村先生のこれで行くと思う。「難しい本でも、この翻訳者なら挑戦できるかもしれない」と思える翻訳者がいるのは、大変幸福なことだと思う。ありがたいです。
 
 
で、そういうのは学術方面ばかりでもない。
  
この、『イタリアワインがわかる』はマット・クレイマーというアメリカのワインライターの人が書いた本だけど、このマット・クレイマーの書籍を訳しているのは阿部秀司という翻訳者だ。ワインの翻訳本はアタリハズレがあるけれど、この先生が翻訳しているなら安心できる。
 
 
もっとカジュアルな文体の本も、翻訳者の人がすごく良い仕事をしていることがある。去年から再び話題になっているSF小説『プロジェクトヘイルメアリー』も、そういう本だ。
 

 
私は日本語版の『プロジェクトヘイルメアリー』を発売直後に購入したが、その決心がついたのは同じ作者の先行作品『火星の人』を、まったく同じ翻訳者・小野田和子が担当していると知っていたからだ。『火星の人』の翻訳は臨場感溢れる、良い意味でweb小説っぽい雰囲気のもので、これがすごく良かった。『プロジェクトヘイルメアリー』も親しみの持てる、肩に力の入ることのない文体で訳されていて嬉しい。「SFは格調高い翻訳でなければだめだ」なんて人には敬遠されるかもしれないけど、私はこの二作はこの翻訳こそが似合っていると思う。
 
 
カジュアルな文体の翻訳に助けられた! で思い出すのはこの翻訳者。
 

 
山形浩生という人は、いろんな本の書評を書いたりいきなり翻訳を作ったりする凄いインターネットの人というイメージだったけど、実は翻訳者だったのでした。山形先生の翻訳、ひらがなの使い方や段落から段落に移動する際の繋ぎとかめちゃくちゃうまくないです? ピケティの『21世紀の資本』をちゃんと最後まで読めたのは、山形先生のおかげだと思う。 
  
 

自国語でこんなに本がたくさん読める国ばかりではない

 
挙げていったらきりがない。
日本は翻訳者がたくさんいて、翻訳が盛んにされる国だ。日本に住んでいると当たり前のように感じられるけど、本当はそうではない。自国語にあまり翻訳が行われず、原著にあたるか英語訳をあたるしかない国も珍しくない。それは、専門家以外が外国書籍を読むにあたって敷居の高いことだ。
 
それと翻訳本のいいところは、頭を自国語のフォーマットにしたまま外国書籍が読めることだ。「翻訳者の力量に身を任せる限りにおいて」という条件付きではあるけれども、日本語に訳された本を読む際には、日本語でたやすく考えることができる。そのうえで、原著のニュアンスを伝えるために逐一元の単語や文章を併記してある翻訳書*1もあり、それはそれで大変に助かる。そうした気配りは、部分的とはいえ、原著のニュアンスについて想像する助けになる。今だったら、AIの助言を得ながら読む際のキーワード補助にもなるだろう。
 
雑食動物のように外国書籍を読む私のような人間にとって、日本に翻訳者がたくさんいるのは本当にありがたいことで、必要不可欠だった。私はある時期から外国語にリソースを割くのを割と諦めて、翻訳者の仕事に完全に身を委ねる代わりにできるだけ広く・できるだけ自分の身に引き寄せて外国書籍を読もうと決心してきた。そんな私にとって、信頼できる翻訳者との出会いは優れた著者に出会うのと同じぐらい値打ちのあることだ。私は、そういう翻訳者の力を借りられる国であることも、自分が「日本が好き」と言える理由のひとつだと思っている。
 
 

*1:例えばブルデュー『ディスタンクシオン』やコジェーヴ『ヘーゲル読解入門』の訳書には、そこらじゅうにフランス語やドイツ語のセンテンスや単語が併記されていて、これが原著の雰囲気を想像するうえでとても助けになった




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