昔、実家で猫を飼っていて、マンガ本に夢中になっていると気がつかないうちに隣に座っていたり、昼寝から目が覚めるとすぐ隣で寝ていたりと、何となく気が合う友達のような関係だった。猫好きだったかというとそうでもなく、近くに来れば話しかけたり触ったりするものの、居なければ居ないで平気だった。案外、猫の方もあまり構われない、そんな気楽な関係が心地よかったのかもしれない。今でも小さな鈴の音を聞くと、三毛の綺麗な模様と可愛い鳴き声など、当時のことを懐かしく思い出す。
真梨幸子さんが書かれた「」は、猫が絡んだ連作短編集だ。最初は著者の随筆かと見間違うような内容で、今回はミステリーではないのかなと思いながら読み進めていた。
しかし、猫の可愛さに魅入られた人々が、徐々に人生を惑わされて行く様子はまさにミステリー。住宅ローンを払えなくなっても可愛い猫には美味しいものを買ってみたり、借金をしてでも病気に連れていったりと、どこか常軌を逸した人々の話が猫からの視点も含めて描かれている。また、短編集ながら一貫して登場するのが、「まりも」という名の猫。ビロードのような深い灰色の毛並みの「まりも」と出会ったところから物語が始まるのだが、所々で「まりも」がキーとなって登場する。直接物語のなかに出てくることもあれば、名前や姿形が登場人物に語られるという形で登場することもある。
それぞれの短編が意外な結末を向かえつつ、最後はそれぞれの物語が猫を通じて「なるほどそういうことか」と思わされるこの作品は、秋の夜長に一気読みさせられるイヤミス好きにはたまらない一冊だ。
