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「ぶんぱく2011」にこっそり参加して、引用パビリオンを作る


 2010年春に世界文学の祭典「ワールド文学カップ」で海外文学ファンのお祭り騒ぎを巻き起こしたピクウィック・クラブが、4月から「文学博覧会2011」、略して「ぶんぱく'11」を開催している。
 例年どおり、249タイトルすべてに手書きポップをつけるという謎の気合いの入りぶりと、「入場制限」続出の週間ランキングがとても楽しい。残念ながら、去年のように全紹介文が掲載してあるリーフレットは作っていないようだけど、代わりにタイトル一覧は店頭&PDFで配布している(40パビリオン海外文学博覧会・日本文学博覧会)。

 ぶんぱくでは「天文パビリオン」「ハローワークパビリオン」「クソガキパビリオン」「欲望パビリオン」などなど、万博を模したゆかいなパビリオンが40ある。……40もあるんだったら、もう1こぐらい足しても怒られないんじゃないかな、と思う。ほら、「明日への神話」にもベニヤ板が1枚追加されたぐらいだし。
 というわけで、今年もこっそり勝手に祭りに参加。いちおう、職業は編集者のようなので、ここは「言葉の展覧会」といこう。というわけで、勝手に「引用パビリオン」。海外文学から、お気に入りの文章を集めてみることにする。

悪口

 世界が破滅するのと、このぼくが茶を飲めなくなるのと、どっちを取るかって? 聞かしてやろうか、世界なんか破滅したって、ぼくがいつも茶を飲めれば、それでいいのさ。

 誰もがなにかしら古傷をえぐられるという、伝説のひきこもり小説。痛いんだけど、つい読んでしまいたくなる。→感想


 頭を使えよ、うろうろ歩き回ってるだけの赤血球の吸入器だよ、お前は。

 口の悪さに定評のあるイギリス紳士だが、ジーヴスシリーズは中でも特筆すべきユーモアと罵倒ぶりを誇る。キュートで無能な主人バーティと、完璧執事ジーヴスのコンビはすばらしいね。


 なんとまばゆいばかりのご明察。いいかげんわかってほしいわね、わたしはいま遊んでいるんだと。それにこのまま遊びつづける気なんだけど。なにか文句でも?

 2人の女性芸術家たちの、かみあうようでかみあわない自由な日々。愛とも友情とも名づけがたい関係がすてきだ。 →感想

食べる

 魂には、どんな薬もいかさまだよ、タデウシュが言った。魂は腹を満たして癒すものだ。

 すでに死んでしまった友人と一緒に、きちんとごはんを食べる。普通に待ち合わせをしてからレストランに行くところがとても好き。→感想


 そしてまず十中八、九、これからはもう決して食物をとらないだろうね。これもまったく理解できることなんだ。なぜって、自分の身体で鰐の内臓全体を充たしたために、僕は永遠に鰐を満腹にしているんだからね。これからは数年間は餌をやらなくてもいいんだ。反面から言うと、僕で満腹した鰐は、当然のことながら、自分の体内からいっさいの生命のエキスを僕にも伝えているんだよ。

 鰐に食われた紳士が、得意顔で「僕はここに永遠に住める」と自慢するシーン。これぞ究極のエコシステム。というか、生命のエキスって何だ。二重の意味で人を食った話。 →感想

ぐうたら

 「駄目な人間だなあ、まるきり駄目な人間だ!」とタランチェフは言った。
 「なに、どうして駄目な人間なんだい?」
 「駄目な人間だとも。」
 「まあ、駄目な人間ならそれとしておいて、とにかくきみの意見をね、一体どうしたもんだろう?」

 すばらしいほど中身のない会話が満載の、究極のニート小説。ちなみに主人公は、400ページぐらいベッドから動かない。


 ビフテキ 一ポンド
 ビール 一パイント(六時間ごとに服用)
 散歩 十マイル(毎朝)
 終身 正十一時(毎晩)
 小難しいことはいっさい頭に詰めこむな。

 ありとあらゆる病に冒された半身不随の病人(自称)に与えられた究極の処方箋。結果は「すこぶる良好」とのこと。

人生の苦み

 もっと落ちるかもしれん、「これがどん底」などといえるあいだはほんとうのどん底ではないのだ。

 盲目の果てに狂気に陥った、哀れな王の悲劇。シェイクスピア作品の中でも、絶望に関する名言が多い。→感想


 人生のある時点で、ふたりの人間が同じことを望むことはまずない。人として生きるなかで、ときにそれはなによりもつらい。

 神父は、かつての恋人の結婚式で、花嫁を祝福する。真珠のネックレスがばらけたシーンと、人肌の暖かさに驚くシーンが秀逸。名短編のひとつ。→感想


 彼らは愛を抱きつつ、離れてゆき、お互いから立ち去った。未来は、今2人が思っているほど暗いものではないと気づかずに。

 アイルランドの作家は、どうしてこれほど愛の苦みを描くのがうまいのだろうか? トレヴァー作品では他「ローズは泣いた」もよい。→感想


 この世はすべて、たがいに反発しあう策略とからくりのせめぎ合い。

 正義の騎士ドン・キホーテには、田舎娘は絶世の美女に、風車は巨人兵に見える。人は主観で世界を見る。純粋な「客観」などというものはなく、時に主観同士は反発し、せめぎ合うものだと喝破した、名作中の名作。 →感想 前篇後篇

ナンセンス

ポッツォ:どうも……(ためらう)……立ち去りがたい。
エストラゴン:これが世の中ですよ。

 2人のおじさんが、ただひたすらゴドーを待つ、待ちぼうけの悲喜劇。まるで真夜中のファミレスでの会話みたいな、ぐだぐだぶりがシュールな笑いを誘う。→感想


 「お前は死んでいるのか、それとも生きているのか」

 「さて、どうだか……。そもそも生とか死とかいうものは、いったいどんなものやら……」

 世の中にあまた死体はあるが、人の恋路にこれほど協力的な死体は見たことがない。どろどろに腐った死体がしゃべったら驚くだろうが、だからといってその質問はないと思う。 →感想


 ブンタイというのは、異様な首の長さを特徴とする二足獣の一種で、S系統のバスなどに生息し、正午ごろ活発な活動を行う。「種の記述」

 昼のバスSにおいて、座っている乗客全体を集合Aとし、立っている乗客全体を集合Dとする。ある停留所において待っている人の集合はPである。「集合論」

 文体の超絶技巧。なんということはない日常の1コマを、99もの文体で描き切る。上記は同じシーンを書いたものだけど、とてもそうは見えないところがすばらしい。→感想


変態

 「お眠り」と怪物が言った。口のなかに血がいっぱい詰まっているので、怪物は耳でしゃべった。

 「熊人形」のこれ以上ないぐらい強烈な書き出し。初読時は思わず枕につっぷした。 →感想


 ちなみに、このブドウ、なぜ下痢便(フォワルー)ブドウなどと呼ばれるかと申しますと、食べると、まるで槍みたいに、ずぶずぶっとお通じがあるからなのです。おかげで、おならをしているつもりで、うんちをもらしてしまうこともよくあったりして、こうした連中のことを、「ブドウ収穫期のおなら男」なんて呼んでいるのですがね。

 小学生レベル並みに「うんち」「おなら」「おしっこ」などが連発される、盛大なほら話。主人公の放尿によりパリが浸水した逸話とかね。このひどさが大好き。


 「ベルグのことを。わしのベンベルグの全ベンベルグをこめてわしがわしのベンベルグをベンベルグしていることを!」

 まじめそうな家の老主人が、実はベルグをベルグム・ベルグ・ベルグムまで許し、ルルシア夫婦はルルしているらしい。もちろん創作ではなく、きちんと本文にこう書いてあるから始末に負えない。→感想


 ロリータ、我が命の光、我が腰の炎。我が罪、我が魂。ロ・リー・タ。下の先が口蓋を三歩下がって、三歩めにそっと歯を叩く。ロ。リー。タ。

 『高慢と偏見』『アンナ・カレーニナ』『雪国』など、文学史上で有名な書き出しはいくつもあるが、この変態全開な書き出しも相当なものだと思う。→感想


 礼儀をたっとぶ文明猿の世界にあって、傍若無人を清涼剤と考えているジョルジュは、はっとして男を眺めた。

 脳髄の裏をくぎでひっかかれているかのような錯覚を覚える、圧倒的な狂気のオンパレード。登場人物の中ではだんとつマトモな人でもこれだから、後は推して知るべし。→感想

 東風は西へヌンヌンヌー 西風は東へヌンヌンヌー
 南風は北へヌンヌンヌー 北風は南へヌンヌンヌー
 約束通りの風の道 東西南北正しい向きに ヌンヌンヌー ヌンヌンヌー

 北欧の少数民族が語り継ぐ、風を呼ぶ歌。帽子を振りながら歌えば、風がびゅうととおり抜けてゆく。ヌンヌンヌー →感想


 銀の滴降る降るまわりに
 金の滴降る降るまわりに

 アイヌ民族の世界では、神が美しい歌を歌う。ふくろうの神が歌った、言葉の宝石。 →感想


 「借りちゃった テント、あ テント、あ テント、. 借りちゃった テント、あ テント、あ テント、. 借りちゃった テント! 借りちゃった テント! 借りちゃった、借りちゃった テント!」

 思わず口ずさみたくなる、火星軍が行進する小太鼓のリズム。「Rented a tent, a tent, a tent,Rented a tent, a tent, a tent.Rented a tent! Rented a tent! Rented a, Rented a tent!」と英語で言っても楽しい。

激情

 もしこんなふうに永久に次々ただ入れ替わっていけるのなら 一瞬燃えあがる炎のように混じりあって それからきれいに吹き消されて冷たい永遠の闇にはいることができればよかった

 呪われた血縁、閉じた袋小路。どこにもいけないやるせなさが煮えたぎって、息のつまるようなこの激情! →感想


 愛しい友よいつかまた相会うことがあってくれ、
 酌み交わす酒にはおれを偲んでくれ。
 おれのいた座にもし盃がめぐって来たら、
 地に傾けてその酒をおれに注いでくれ。

 飲酒禁止なはずのイスラム圏で、今なお読み継がれるハイヤーム師の四行詩。とりあえず、酒を飲みたくなる。→感想


 そこで勝負はあった! 人間さまの勝ちだ。わしをひるますだって? わが確固不動の目的に通じる道には鉄路がしかれていて、わが魂はそのレールのうえをひたはしるのだ。千尋の谷をわたり、重畳たる山の懐をぬけ、川床をくぐり、ひたすら驀進する! 鉄路に邪魔者はない! 屈折もない!

 エイハブ船長はぶちまける。モービィ・ディックへのどす黒い恨みを、狂気じみた執着を。『白鯨』はあらゆる名言がほとばしるが、このセリフの熱さは特に好き。 →感想


 いわゆる名言とはほど遠いラインナップだが、読みたくなったらそれでいいのだ。ピクウィック・クラブの「役に立たないことが、本望です」という言葉に敬意を表して。




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