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『アムステルダム』イアン・マキューアン

[言い訳を武装して]

 イギリスの作家マキューアンによる、ブッカー賞受賞作。

 ロンドン社交界をにぎわせた一人の女性が、痴呆になって死ぬ。彼女が残した写真によって、彼女の愛人だった3人の男の人生の軸がゆがんでいく。


 「嫉妬は時に愛よりも強い」という。そんなものかと思っていたけれど、この物語を読んだ時に少しだけ納得した。タテマエとホンネを日本人はよく使うが、それらを分けていると自覚していないだけ、本当に倫理にもとづいていると思っている感情は、じつはけっこう厄介だ。本書にはジャーナリストの男が出てくるが、その台詞は彼らがいかにも言いそうなことだったので、笑ってしまった。なかなか、いじわるな物語だなあと思う。

 人は、社会を生きるうえで、本当の思いをモラルでコーティングすることを必要とする。 公共の利益のため、芸術のため、政治的健全さのため。ここに出てくる男たちは、新聞紙編集長、音楽家、外交官などの社会的地位が高い人ばかり。 彼らはそれぞれがそれぞれの倫理に従って行動する。

 だがその真ん中にあるものは、嫉妬、死んでいなくなった女をめぐる嫉妬の渦巻きである。 女性の死は、本書の中ではほとんど語られることがない。だけど実は、彼女が一番話の中心にいる。そこがおもしろい。

 ものすごく現代的で、辛辣な物語。 えせモラルを紳士の笑顔でぼこぼこにする、そんなビターテイストを味わいたい人に。


recommend:
J・ラヒリ「停電の夜に」……(現代的な辛辣さ。
綿谷りさ「蹴りたい背中」……いじわるな感情




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