はい。
ポップン曲、へんな名前のものがありますね。
と言っても、いかにもネタ曲らしいもの*1・長過ぎるもの*2 ではありません。
今回取り上げたいのは、言語的にへんなものです。
やっていきましょう。
- ■ ピザ / ピッツァ・イタリアーノ
- ■ カフェパーティー / EURO PICCOLA
- ■ ジャズアリア / L'eternita
- ■ クラシック6 / maritare!
- ■ サイバーアラビアン / Arrabbiata
注意
※ 以下に挙げる楽曲については、ジャンル名が判明している・明らかである場合は「ジャンル名 / 曲名」、ジャンル名が不明である場合は「曲名」の形式で表記します。
※ 私はイタリア語をメインで学んでいましたので、イタリア語の曲名を中心に紹介します。他言語の曲名でも似たようなことが起きていると思いますが、そちらはその道の方にお任せします。
■ ピザ / ピッツァ・イタリアーノ
この記事を作ろうと思ったきっかけになった曲です。
この曲名は当然イタリア語なのですが、イタリア語では形容詞が名詞を修飾する場合にその形を名詞の性・数と合わせるというルールがあります。
…と言ってもややこしく感じると思うので、この記事では見た目でわかりやすいように単語の色を変えていきます。単語の色が一緒になっていないとおかしいと思ってくれればとりあえずOKです。
さて、この曲名に含まれるピッツァ(pizza)・イタリアーノ(italiano)という2つの単語ですが、 pizza は女性単数であるのに対し、それを修飾する形容詞 italiano は男性単数です。
並べてみると…
pizza italiano
色が違います。ということはイタリア語としては間違っています。
形容詞側が名詞の性・数(=色)に合わせるのが礼儀なので、italiano を女性単数の italiana に変えると正しくなります。
pizza italiana
…みたいな話をこの先やっていきます。
ところで、ピザのキャラクターの名前 ( Marge & Rita ) このままだとマルジェ&リタになりますがいいんでしょうか。今からでも Marghe & Rita にしませんか?*3

■ カフェパーティー / EURO PICCOLA
これも色違い(=性数不一致)ですね
euro piccola
直すなら
euro piccolo
が正しい
…のですが、実情としてはもう少しおもしろいことが起きています。
ユーロ(euro)導入以前のイタリアが使用していた通貨がなにかご存知でしょうか? 正解は lira です。こちら、見ての通り女性名詞(=赤色)です。
長年女性名詞の lira が使われていたところに、急に男性名詞の euro が現れると、何が起こるか。
それは、言い間違いが頻発するようになるということです。特に複数形で。
…複数形? はい、複数形です。
ここで軽くイタリア語の文法話をします。
イタリア語では、基本的に -o で終わる名詞は男性、 -a で終わる名詞は女性というように語尾を見れば性がわかるようにできています。*4
で、こいつらが複数形になると、語尾の -o は -i に、 -a は -e に変わります。
表にするとこんな感じ

これが基本ルールです。
さて、今回話題に上がっている euro という単語の複数形は何でしょうか。
↓
↓
↓
↓
↓
正解はeuro です。

はい。 euro の複数形は euro です。つまり無変化です。
こうなると困ったことが起こりまして、 複数形が -o の名詞はイタリア語母語話者的には女性名詞ぽく聞こえるんです。

事情を説明します。
例えば、 fotografia (写真)という女性名詞があります。英語で言うところの photograph です。
ところで英語の photograph は photo というふうに縮めて呼ばれることがありますね。イタリア語でも同様に fotografia は縮めて foto と呼ばれることがあります。*5
あれ? -o で終わってしまいましたね。こうやって長い女性名詞を短縮して前半だけにした結果 -o で終わる女性名詞が生まれてしまいます。
そして、こうして生まれた短縮版の名詞では複数形にした時の語尾変化が行われません。よって、 foto の複数形は foto です。
もう一度 euro > euro に戻ってみてください。 やってることめっちゃ同じに見えませんか?
この現象とイタリア人がこれまで使っていた通貨 lira が女性名詞だったのが恐らくマッチしてしまったのでしょう。母語話者の中には euro のことを女性名詞として扱う人が存在します。
そうだとすると、今回取り上げた euro piccola は(辞書的には正しくないけど)不自然には聞こえないとも言えるかもしれません。どうなんだろ
■ ジャズアリア / L'eternita
L'eternità です。*6
■ クラシック6 / maritare!
maritare は不定形で、訳すなら「結婚すること」、つまり結婚という行為について言及していることになります。*7
どういう意図で曲名をつけたのかは僕にはわかりませんが、曲名を matrimonio (「婚姻、結婚式」という意味の名詞)などに変えたほうがそれっぽい気がします。
■ サイバーアラビアン / Arrabbiata
なんですかこれは?
わりとどうでもいいんだけどサイバーアラビアンの文字のデザインはデーヴァナーガリー風で曲名はイタリア語でアラビア全く関係ないの情報量が多すぎる pic.twitter.com/TbmHNx76uH
— 🎹ZEKKI🎮 (@otoge_de_zekki) 2021年5月20日
4年以上ずっと擦ってるんですけど、これなにも辻褄合ってないです。
文字の上に線を引くこのデザインは、ヒンディー語やサンスクリットなどを書くときに使われるデーヴァナーガリーという文字を意識したものと思われます。つまり、サイバーインディアンですね。
曲名の Arrabbiata はイタリア語で「怒った」です。アラビアじゃありません。つまり、アングリーイタリアンですね。
アラビアどこいった?
さよなら
*2:例:LOVE² シュガ→♥ (かめりあ&ななひら's Over-Sweet-Dempa ♥LOVE² シュガ→♥な恋愛教室 Remix)
*3:イタリア語では ge は「ジェ」に近い発音です。例えば「ジェラート」は gelato と綴ります。「ゲ」の音を表したい場合は ghe と綴ります。英語でも「スパゲッティ」の綴りは spaghetti ですね。
*4:本当のことを言うとこれは少し嘘で、実際は語尾だけで性を判断できない -e で終わる名詞も存在します。
*5:このような例は他に、auto(車・automobileの短縮形), moto(オートバイ・motociclettaの短縮形), radio(無線送信機・ radiotrasmittenteの短縮形)などがあります
*6:このアクセント記号は省略できないので、どうしてもàが入力できないケースでは L'eternita' のように書きます。例えば ヴィヴァーチェ / Citta' del sole では città の à を a' と書いています。
*7:例:Maritare significa stare con lui per sempre. Sei davvero pronta per questo?(結婚するというのは彼といつまでも一緒にいるということだよ。その覚悟があなたにはあるの?)