世の中には2種類の本があります。
一つは、1時間くらいでサクッと読めて、読んだ後は気持ちが高ぶり、自分も成功できそうな気はするけど、後から振り返ると何も残らない本です。
読むと簡単に気持ちよくなれるけど、自分を変える力にまでは至らない本は、栄養ドリンクのようなものです。
最近は栄養ドリンク的な本が流行っているように感じます。
もう一つは、最後まで読むには多くの時間がかかるし、一読しただけではすぐに理解できない部分もあるけれど、時間が経ってから読み返すと新たな発見があったり、後になって頭の中で点と点がつながるような本です。
新たな視点を与えてくれて、価値観を揺さぶり、読み手の頭を鍛えてくれるような本を読む作業は、筋力トレーニングのようなものです。
即効性はありませんが、自分の芯の部分に残り、頭脳を鍛えてくれます。
ピーター・ドラッカーの『ネクスト・ソサエティ』は脳の筋トレ本です。
意識が高い大学生のときに一度読んでみたものの、何だかしっくりこなくて忘れてしまいました。
意識が高いが仕事のできない社会人初期にもう一度目を通したものの、やっぱりしっくりこなくて忘れてしまいました。
しかし仕事にも慣れて生意気になってきた30代になってもう一度読み返すと、
「ドラッカーの予言していたのはこういうことなんだな」
と納得できる部分がたしかに増えてきて、かつての自分にドラッカーの言葉が響かなかった理由は、単に自分の知識と経験が足りていなかったのだと気付きました。
話されている内容や本の内容が理解できないときは、発信者に問題があると考えるのではなく、自分の知識と経験が足りない可能性があります。
最近は落合陽一さんのテレビでの発言がわかりにくいと話題になっていますが、落合さんの知識レベルとの差がありすぎて、こちらが理解できないだけである可能性が高いです。
知識と経験にレベルの差がありすぎると、お互いに会話が成立しないのです。
2002年。
いまから17年前に経営学の巨人、ドラッカーが予言した「ネクスト・ソサエティ(次なる社会)」はどのようなものだったのか、見ていきましょう。
専門的な継続教育が成長分野となる
基本的な生産要素となるブレイン・パワー、つまり頭脳のコストが急速に上昇している。
これからは誰もが、高度な知識、しかも専門化した知識をもたなければならない。
その結果、高等教育の重心が、若者の教育から成人の継続教育へと移行していく。知識は急速に陳腐化する。したがって、専門的な継続教育が成長分野となる。
『ネクスト・ソサエティ』p.128〜129
最近は「プログラミング教育」なるものが流行っています。
プログラミング塾も多数できていて、社会人になってから学び直す人も増えてきているように感じています。
問題意識の高い若者がプログラミングを学び、新しい業種でチャレンジする姿はツイッターなどでよく見られます。
一方で、40代後半以降の高齢社員と30代以下の若手と言われる社員との生産性の格差が問題になっています。
なぜ生産性に差が出るかと言うと、「オッサン」と言われる高齢社員は新しい技術に疎く、現代のツールを使いこなすことができず、学ぶ意欲も少ないからです。
手を動かすことをせず、勉強もしてこなかった「オッサン」に突然チャットを送っても、
「よくわかんないからメールで送ってよ」
と言われるわけです。
新しいツールが次々と登場する今は、20年前に学んだ知識は役に立ちません。
定期的に自らを「再教育」する必要があります。
独学したり、会社に通いながらeラーニングで何かスキルを身に着けたり、大学に行ったり、あるいは転職によって新しい経験を積まなければ、知識労働者としての価値はどんどん下がっていってしまうのです。
知識労働者の生産性が競争力につながる
知識そのものを競争力要因とするわけにはいかない。
知識そのものは瞬時に伝播する。
したがって、先進社会が30年、40年にわたって手にすることのできる競争力要因は知識労働者しかない。『ネクスト・ソサエティ』p.145
ドラッカーは知識自体は競争力になりえないとしています。
差をつけるのは知識労働者の絶対数であり、生産性であると述べています。
GAFAを始めとする欧米巨大IT企業が国境を超えて、世界中から優秀な技術者を集めまくっています。
関連記事:日本の大企業に絶望してGoogleやスタートアップに転職する人が目立っている件
彼らは知識労働者こそが自分たちの競争力になることを理解しているため、世界中から知識労働者をかき集め、知識労働者が気持ちよく働ける環境を提供します。
一方で、ドラッカーは「知識労働者の生産性が低下していること」に警鐘を鳴らしていました。
アメリカの看護士を例に挙げて、以下のように述べています。
「看護士の仕事についてのあらゆるレポートが、彼らの時間の実に8割が看護以外の仕事に使われていることを明らかにしている。
特に誰も読みもしない書類作りである。
何の役に立つのかはわからない。それにもかかわらず書類は記入しなければならず、それは看護士がやらざるをえない」
日本の生産性は主要先進7カ国で最下位、OECD加盟国36カ国中21位となっています。
「誰も読まない、役に立つかもわからない資料作りに労働時間の8割を費やしている」
と言われて身に覚えのある人もいるはずです。
知識労働者の生産性が低いということは、競争力も低いということです。
ドラッカーが2002年に指摘していた課題を17年越しに見つめ直さなければならない時がきているのです。
文化は人口の伸びのもっとも大きな年代によって規定される
今日の若者文化が続かないことは明らかである。
昔から、文化というものは人口の伸びのもっとも大きな年代によって規定されてきた。
今日、人口の伸びのもっとも大きな世代は若年者ではない。『ネクスト・ソサエティ』p.99
僕はこれまで「文化は若者が作るものである」と思ってきました。
しかし実際は、人口が最も大きな世代が文化を作るのであって、今の若者は人口の大きな世代ではありません。
では誰が文化を作っていくのか。
日本の人口ピラミッドを見る限り、40〜44歳の世代や、60〜69歳の世代の人達が文化を担っていくことになりそうです。
まじかよ〜。
これはどうなんだろう。
40代の人がテレビとか見なくなったら文化そのものが変わるのかな。
以下の指摘になるほどと思いました。
『文化は人口の伸びのもっとも大きな年代によって規定される』先日の紅白歌合戦を見て感じた違和感が言語化された。ユーミンと桑田がまだ第一線にいるんだから。 https://t.co/QYUFHZZ0Dm
— ジャンガ👨🎓📚 (@watanabe_janga) 2019年1月2日
コンピューターが使えることは当たり前
コンピュータを使うことは最低限の能力にすぎない。
10年あるいは15年後には、コンピュータではなく情報を使うことが当たり前になっていなければならない。
今日のところ、そこまでいっている者はごくわずかである。『ネクスト・ソサエティ』p.106
2019年の今では、僕たちは手元で当たり前のようにコンピュータを操作しています。
スマートフォンです。
だれもがコンピュータを使うことができる時代に、コンピュータを使えることは差別化要因にはなりません。
一方で、情報を扱える人材の価値は未だに上がっています。
コンピュータサイエンスを学んだデータサイエンティストは年収1,000万以上で求人が出ていると話題です。
おそらくドラッカーが指した「情報」はソフトウェア的な意味だけではなく、多くの情報から必要な情報を取捨選択し、最適な戦略を判断する経営者的な意味も含まれていたのだと思います。
コンピュータを使えるだけでなく、情報を扱えるようになること。
本が書かれた2002年から17年が経っても、予言は色褪せることなく核心をついています。
知識労働者の時代
先進国社会でもっとも急速に増加している労働力は、サービス労働者ではなく知識労働者である。
知識労働者とは新種の資本家である。なぜならば、知識こそが知識社会と知識経済における主たる生産手段、すなわち資本だからである。
今日では、主たる生産手段の所有者は知識労働者である。組織とは、他分野の知識労働者を糾合し、彼らの専門知識を共通の目標に向けて動員するための人の集合体である。
『ネクスト・ソサエティ』p.21
2019年では知識労働者が労働人口の多くを占めていることに異論はないですが、ドラッカーがこの本を書いた2002年では知識労働者が増加し始めて間もない頃です。
おそらく今後も知識労働者の割合は増え続け、その一方で生産性の向上や機械化により、製造業の従事者やサービス業で働く人の割合は減ってくるのでしょう。
ドラッカーは知識労働者には2つのものが不可欠である、としています。
その一つが、知識労働者としての知識を身につけるための学校教育で、もう一つが知識労働者としての知識を最新に保つための継続教育です。
ドラッカーは2002年時点で明言しています。
「知識労働者のための継続教育がネクスト・ソサエティの成長産業となる」
と。
ドラッカーはそれを週末のセミナーであったり、自宅でのeラーニングであったりすると予想していましたが、今ではオンラインサロンを「継続教育」の場として活用している人も増えてきています。
今後は「大人の再教育」が伸びることを前提に、その周辺のビジネスを固めておくのが良さそうですね。
ブロガーならオンライン英会話やプログラミングスクールの情報を整理したり、
プログラマーならProgateやドットインストール的なサイトを作ったり、
田端大学や箕輪編集室のように、オンラインサロンでつながりを作りつつ一緒に学べる場を作ったり、あるいはYoutubeで専門知識を解説したり。
「大人の再教育の場」は既に過当競争になっている感が否めませんが、ドラッカーは2002年時点でこのような未来を予想していたのでしょうか。
- 作者: P・F・ドラッカー,上田惇生
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2002/05/24
- メディア: 単行本
- 購入: 25人 クリック: 148回
- この商品を含むブログ (188件) を見る