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芥川龍之介『蕗』

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Chris Morriss
     
 
 
 
 坂になった路の土が、砥(と)の粉のやうに乾いてゐる。
寂しい山間の町だから、路には石塊(いしころ)も少くない。
両側には古いこけら葺(ぶ)きの家が、ひつそりと日光を浴びてゐる。
僕等ふたりの中学生は、その路をせかせか上ぼつて行つた。
すると赤ん坊を背負つた少女が一人、濃い影を足もとに落しながら、
静に坂を下つて来た。少女は袖のまくれた手に、茎の長い蕗(ふき)をかざしてゐる。
何の為かと思つたら、それは真夏の日光が、すやすや寝入つた赤ん坊の顔へ、当らぬ為の蕗であつた。
僕等二人はすれ違ふ時に、そつと微笑を交換した。が、少女はそれも知らないやうに、やはり静に通りすぎた。
かすかに頬が日に焼けた、大様(おほやう)の顔だちの少女である。
その顔が未だにどうかすると、はつきり記憶に浮ぶ事がある。
里見君の所謂一目惚れとは、こんな心もちを云ふのかも知れない。
(大正十年)
 
 
 
 
 
 



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