2018-01-19 『人を食った話』芥川龍之介 芥川龍之介 二次創作 金沢の方言によれば「うまさうな」と云ふのは「肥った」と云ふことである。 例へば肥つた人を見ると、あの人はうまさうな人だなどとも云ふらしい。 この方言は一寸食人種の使ふ言葉じみてゐて愉快である。 僕はこの方言を思ひ出すたびに、自然と僕の友達を食物として、見るやうになつてゐる。 里見弴君などは皮造りの刺身にしたらば、きつと、うまいのに違ひない。 菊池君も、あの鼻などを椎茸と一緒に煮てくへば、 脂ぎつてゐて、うまいだらう。 谷崎潤一郎君は西洋酒で煮てくへば飛び切りに、うまいことは確である。 北原白秋君のビフテキも、やはり、うまいのに違ひない。 宇野浩二君がロオスト・ビフに適してゐることは、前にも何かの次手(ついで)に書いておいた。佐佐木茂索君は串に通して、白やきにするのに適してゐる。 室生犀星君はこれは――今僕の前に坐つてゐるから、甚だ相済まない気がするけれども――干物にして食ふより仕方がない。然し、室生君は、さだめしこの室生君自身の干物を珍重して食べることだらう。 芥川龍之介『食物として』 写真 工藤隆蔵