山中敬一強制わいせつの罪の保護法益について研修817号
第2類型の行為は,接触を伴わない,人間の知覚.感覚(主として視覚)を通じて性的刺激を惹起する行為である。この類型の行為が完成するためには,被害者の「知覚・感覚」に作用することを要する。したがって,原則として, 1)被害者に知覚能力があることが必要である。知覚能力がある状態であっても,被害者が知らないうちに裸の姿を覗き見られていたといった場合は,それのみでは被害者の性的不可侵性の侵害はない。2) 13歳未満の者に対しても,(乳幼児は除いて)わいせつ行為の意味を理解することができる年齢であれば,このグループのわいせつ行為は可能である。3)植物状態に陥った者ないし就寝中の者については,抗拒不能に乗じるだけでは,性的不可侵性の侵害とはいえないであろう。1)の被害者に知覚能力がある場合,および3)の「ない」場合に共通するのは,現に「わいせつ」という知覚がないときは, ここにいうわいせつ行為とは言えないのが原則である(注30)が,加害者が被害者の性的不可侵な領域の侵害可能状態を創出してそれを利用した場合には,例外的に,それらの行為を一体として「わいせつ行為」と評価することができるということである。したがって,例えば,適法.違法を問わず,女性を裸にさせておいて気づかれずにビデオでそれを撮影する場合がこれにあたる。つまり,抗拒不能の状態に「乗じた」わいせつ行為は, これらの類型においては,被害者の性的領域の露出等の惹起に加害者が関与することが必要と解すべきである。
(注30) したがって,裸の姿をたんに覗き見る行為ないし裸の姿をひそかに写真に撮ることは, ここにいうわいせつ行為にはあたらない。
嘉門優法益論増補版
ただし、裁判例において、被害者が気づかないうちにその性的な姿態を盗撮する行為が、準強制わいせつ罪に当たるとされた裁判例は見当たらない238.このことから、裁判例において、必ずしも、「被撮影者の性的な行動や姿態の撮影=わいせつな行為」と評価されてきたわけではないと解される。しかも、撮影行為がわいせつな行為に当たるとされた裁判例の事案を見ても、服を脱がせる行為や性的姿態を取らせる行為の強制が先行しており、撮影行為はそれらの先行行為と一体的に評価されて、強制わいせつ罪が成立した事案ばかりである239.
本法成立以前は、撮影行為を強制わいせつ罪として評価せざるを得なかった側面もあったかもしれないが、なぜ、そのような撮影行為がわいせつな行為と言えるのかについて、必ずしも検討が深められてきたとは言い難い状況にあった240.
今次、新たに性的姿態等撮影罪が創設された以上、性的姿態等の撮影行為には本法の撮影罪が成立すると解するべきであって、本法2条3項は適用すべきではない。これまでの裁判例と同様に、撮影に先行して、被害者に性的な行動や姿態を強いるなどの行為がある場合に限って、撮影行為は、不同意わいせつ罪として包括的に一罪として評価すれば足りると考える。
そこで名古屋高裁r7みたいな判示がでるんだ
《書 誌》
提供 TKC
【文献番号】 25622430
【文献種別】 判決/名古屋高等裁判所(控訴審)
【裁判年月日】 令和 7年 2月26日
【事件番号】 令和6年(う)第295号
【事件名】 強制性交等(変更後の訴因 強制性交等致傷)、強制わいせつ、わいせつ誘拐、逮捕監禁、強制性交等未遂、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、準強制わいせつ被告事件
【審級関係】 第一審 25621142
名古屋地方裁判所 令和5年(わ)第645号
令和 6年 9月27日 判決
【裁判結果】 棄却
【裁判官】 山田耕司 大村泰平 入江恭子
【全文容量】 約19Kバイト(A4印刷:約11枚)
第4 原判示第2の罪に関する法令適用の誤りの主張について
1 弁護人の主張
論旨は、以下のように主張し、原判示第2の1と同2を併合罪とした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある旨主張する。
(1) 原判決は、①わいせつ誘拐罪と強制わいせつ罪・強制性交等未遂罪は牽連犯、②逮捕監禁罪と強制わいせつ罪・強制性交等未遂罪は観念的競合としながら、③わいせつ誘拐罪と児童ポルノ製造罪は併合罪、逮捕監禁罪と児童ポルノ製造罪は併合罪としている。
(2) しかし③につき、わいせつ誘拐罪と児童ポルノ製造罪は牽連犯であるから、結局、原判示第2の1と同2は科刑上一罪となる。
2 当裁判所の判断
(1) まず、原判決は、原判示第2の1の事実について、Cに対するわいせつ誘拐罪と逮捕監禁罪、Dに対するわいせつ誘拐罪と監禁罪、Cに対する強制性交等未遂罪とDに対する強制わいせつ罪を、それぞれ観念的競合とし、Cに対するわいせつ誘拐罪と強制性交等未遂罪、Dに対するわいせつ誘拐罪と強制わいせつ罪を牽連犯としたものであって、この点で前記1(1)の②の理解は誤りである。
(2) 前記1(2)の点については、わいせつ誘拐罪と児童ポルノ製造罪との間に、社会通念上、類型的に一体の犯罪といえるほどの牽連性があるとはいえないから、両者は併合罪と解すべきである。なお、所論は、他人を裸にして写真を撮る行為が刑法176条にいうわいせつな行為に当たることを根拠として挙げるが、それは、写真を撮られていることを被害者が認識している場合を前提とするものと考えられ、本件のようにひそかに撮影する場合が、わいせつ誘拐罪との間で社会通念上の牽連性があるとまではいえない。
したがって、原判決の罪数判断に誤りはなく、所論は採用できない。
裁判年月日 平成30年 1月30日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件番号 平28(う)1687号
事件名 保護責任者遺棄致傷、強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反、強制わいせつ(変更後の訴因わいせつ誘拐、強制わいせつ)、殺人、強制わいせつ致傷被告事件
裁判結果 控訴棄却 文献番号 2018WLJPCA01306002
第3 弁護人の法令適用の誤りの主張について
1 低年齢児に対する強制わいせつ罪,強制わいせつ致傷罪及びわいせつ目的誘拐罪(以下,単に「強制わいせつ罪等」ともいう。)の成否について
(1) 論旨は,6歳未満の児童に対して強制わいせつ罪等は成立しないのに,強制わいせつ罪等の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
(2) 刑法は,強制わいせつ罪等の対象について年齢の下限を設けておらず,むしろ13歳未満の児童に対しては保護を厚くしており,法文上,6歳未満の児童も強制わいせつ罪の対象となることは明らかである。
所論は,①低年齢児に対するわいせつ行為では一般人の性欲を興奮,刺激させない,②低年齢児には性的羞恥心がないので,法益侵害がないなどと主張する。
しかし,①については,6歳未満の低年齢児でも殊更に全裸又は下半身を裸にさせて性器を露出させてこれを撮影するならば,一般人の性欲を興奮,刺激させるもの,言い換えれば,一般人が性的な意味のある行為であると評価するものと解されるから,強制わいせつ行為に該当する。また,②については,強制わいせつ罪の保護法益は,個人の性的自由であると解されるが,所論のように性的羞恥心のみを重視するのは相当ではなく,一般人が性的な意味があると評価するような行為を意思に反してされたならば,性的自由が侵害されたものと解すべきである。そして,ここで意思に反しないとは,その意味を理解して自由な選択によりその行為を拒否していない場合をいうものと解されるから,そのような意味を理解しない乳幼児については,そもそもそのような意思に反しない状況は想定できない。このことは,精神の障害により性的意味を理解できない者に対しても準強制わいせつ罪(刑法178条1項)が成立することによっても明らかである。本件では,生後4か月から5歳までの乳幼児に対し,性器を露出させるなどして,これを撮影したものであるから,同人らの性的自由を侵害したものと認められる。
その余の主張を含め,所論は理由がなく,いずれも採用できない。