映画と本の雑感の回です。
相変わらず云々唸りながら観て唸りながら書いており、何と言うか悩む事が楽しいのかと思いつつ、ラランドがラジオで喋っていた「本当に美味しいものを食べた時(以下性的な内容だったので中略)は眉をひそめた、ちょっと苦しそうな顔にならない?」というエピソードが思い出され、要するにそれはそれで楽しんでいるんだと自分でも思う。
哲学は難しいけど、哲学の水割りもしくは炭酸割りを啜っているようなものなのかも知れない。
【セプテンバー5】(映画)
1972年のドイツでのオリンピック期間中、選手村で起きたパレスチナ武装組織によるイスラエル選手団を人質にした立て篭もりテロを生放送したアメリカの報道機関のスポーツ番組クルーを題材にした映画で、予告を観てから公開を楽しみにしていた。
報道機関としての使命感と成功への欲望みたいなものの線引きに皆が葛藤していて凄くスリリングだった。
情報を掻き集めて正しい情報を伝えたいという思いと他局より早く特ダネとして抜きたいという感情が静かにせめぎ合っていて、こういうのって外野から見れば何とでも言えるけど後出しジャンケン過ぎるし、その時に何かを決断するということの難しさを世の中が軽視しているよなと考えさせられた。
勿論、事実として報道しなかったら別の結末もあったはずで、でも報道したから明るみに出た政府の対応もあって、とどうすれば良かったかは人それぞれ違うかもなと思う。
ラストは人としての正しさとメディアをビジネスと捉えた時の正しさで思い切り挟み込まれて息苦しかった。
画面越し、通話でもたらされる情報をクルーが得て、それを観ている自分たちが知るという二重のフィルターで物事が進んでいくのでこちらの想像力が試されると感じた。好き好んで選んだ味の濃い派手な情報で受けた刺激を知識と勘違いしがちな自分を含む現代人がこれに緊張感を感じないんだったら完全に麻痺してるし、考えるという能力が衰えているんじゃなかろうかと疲れた頭でエンドロールを眺めていた。
当時の映像を上手く織り込んで知らない時代のオリンピックや人々の風景を観られて面白かったし、質感もとても良かった。
【童話物語/向山貴彦・著、宮山香里・絵】(小説)
親を亡くし、貧しい村の中で頼れる人もなく苦しい日々を生きていた主人公が、妖精との出会いを機に村を飛び出し、最終的に世界を救うために奮闘するという、ざっくり述べるとファンタジーとしてとても面白い(実際面白い)んだけど、環境に壊されてしまった人間の心の傷の深さというものをとにかく執拗に描いている作品だと思った。
お金も食べるものもなかって主人公が受けてきた仕打ちが彼女をいかに傷付けて壊してしまったか、正しさが生き延びる事になってしまう壮絶さから人は簡単に逃れる事が出来ないと、こちらが根を上げてしまいたくなるほど徹底的に描かれていて、読んでいて苦しくなると共に「助かってくれ」「幸せになってくれ」と祈りながら上下巻800ページ以上を一気に読んだ。
全く別の文化、環境に移り住んだ時に自分がこの平和な世界に居場所があるのか、これまで虐げられてきた事から何かを信用する事への恐怖とも戦い続ける少女に色んな移民の話や貧困の話を重ねてしまった。
滅茶苦茶キツいけど続きが気になって読むのがやめられない作品だったと思う。
【脳と貧困-「働かない」のではなく「働けない」-】/鈴木大介(新書)
鈴木さんは貧困について数々のルポを書かれていて、新書で刊行された作品は大体買って読んでいるのでタイトルが気になって購入した。
先天的か後天的かの違いはあれど脳にダメージを負うことでパフォーマンスが落ちてしまう又は発揮できないという状態がいかに生きる上で何気無く出来ていたことに支障をきたすか、その状態で暮らし続ける困難さが突き落とす貧困もあるのではと教えてくれる本だった。
今現在は健康に生活出来ているものの、病気や怪我で当たり前が当たり前でなくなってしまうかも知れないと常々考えてしまう性格なので、鈴木さん本人の経験やそれを通してルポの取材対象者の言動を振り返っていく中での気付きはとても大切な可能性の示唆だった。直視するのも怖いけれど、あるものとして見ることで自分だけでなくて、いつか誰かをちゃんとバイアス抜きに見られるかも知れないという希望もある。
世の中は善良なものほど複雑になってしまって、そのクイズの様な入口の開け方が解らないとそこにアクセスすら出来ないという、何とも社会というのは難しいなと考えさせられた一冊だった。
タイトルはGOOD DOG HAPPY MENの名曲の一節で、童話物語を読みながらずっと彼らを思い出していた。
またー。