何の為にお金を稼ぐのかと言えば、生きていく為で。だとしたら、持ち家があり自分の畑があり、生き物をとれる海か川か山が近くにあって自給自足が出来れば、極端に言えばお金は要らないのでは、と考える人はいるかもしれない。
病気になっても医者にかからず、服は他人のお下がりをもらい、家が壊れたら自分で直す。そこまで肚をくくれば、お金はさほど要らないのでは、と。
これを地でいった小説が、はらだみずきさんの「山に抱かれた家」だ。端的に言えば、山に家を買って住んだ人のお話。
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主人公は、山に囲まれた、冬にはほとんど日のささない限界集落にある古家を、なけなしの200万円で買った。長年休耕地だった梅畑が少しついている。畳は朽ち網戸もなく、天井裏で死んだ狸か何かの死体から落ちる液で汚れた、害虫がうようよ出る家。トイレは汲み取りで風呂場は壊れて使えない。日が当たらない畑は耕作が難しい。とれる梅の収穫では生計はたたない。猪が畑を荒らし、家の前まで来ることに怯える。熊も出る。田舎の住人との付き合いも難しい。
こんな条件のもと、主人公はそこで暮らしていく。そんな事が可能なのか。
そのへんは本書を読んで頂くとして。
私がこの小説が面白いなと思ったのは、最初にも書いたが、「田舎で自給自足の生活をすれば、さほどお金を稼がなくても、無事に生きていく事は可能なのか」が描かれている点だ。
例えば、山に入り(家の後ろがすぐ山)マダニに噛まれた時、病院に行くという選択肢がない主人公はどうするのか。
例えば、収穫した梅のほとんどがB級品だと分かり、二束三文の値しかつかないと分かった主人公はどうするのか。
例えば、耕作について教えを乞うた隣りの農家の人が、盛大に農薬を使い、雑草を抜きまくって土地をカラッカラにしているのを見て、主人公はどうするのか。
例えば、自分の古家までの市道が狭く舗装もされていないので、軽トラ一台通るのも難しい為、役所に相談に行ったら「市長を通してくれ」と言われた主人公はどうするのか。ちなみに市長など個人的には知らないので頼みに行くことなどできない。
次から次へと、「え?そんな事も?」というような想定外の難問が日々出てくる。その中で、主人公がなんとかやっていけるのは、自給自足の生活がしたい、という本人の本心を貫いているからだと私は感じた。芯の部分が満足出来ているので、そこに降りかかる数々の難題も、なんとか乗り越えていこうと思えるのだと思う。簡単に言えば、嫌々やるのと、好きでやるのとの違い。
衣食住を自分の力で賄える、それは究極の安心の形なのかもしれない。自分が賄える家、自分が賄える食、誰かや何かに左右されない暮らし。自分が食べる分は自分で手に入れる。畑で作り、川で釣り、山で獲る。誰かに何かを期待する必要がない。全部自分でやれる。この気楽さ、気持ちの良さ、安定感。
本書を読んだ後、私は、私自身の生活って根本の部分で不安定なんだなと思った。いつもはその不安定さを気にしないようにして生活しているが、実はけっこう心の奥の部分では気にしていて、不安が心の表面に上がってこないように、大丈夫大丈夫と上から抑えつけて暮らしているなあ、と分かった。
にしても、普通の人間はこういう生活はできないと思わざるを得ない。例えば、浴室が壊れているので、お風呂は夏でも週に1回だけ、車で30分の距離にある温泉に行くだけなのだ。それ以外は毎日濡れタオルで体を拭くのみ。じっと屋内にいる生活ではなく、一日中外で土と埃にまみれて働いているのに。もうそれだけで、私は無理だなと思った。
でも、どうだろう。慣れればなんとなるのか。
ちなみにお風呂の件は、2巻目になる「山に抱かれた家 迷い道」で解決する。解決の仕方も、うわ~これは並の人間には無理!と思う方法なのだが。
文章は平易で読みやすく、ストーリー展開は素早いので、興味を削がれる事なく一気に読める。自給自足、限界集落、山の家、等のキーワードに興味のある方には、面白く感じる小節だと思う。
この小説はシリーズの一環で、実は先に「海が見える家」が出された。東京に住んでいた主人公が、海の近くの家で自給自足を始めた話が書かれている。後に同じ主人公がある理由で、山に居を移した。そして山で、又一から生活を立て直していくお話がこの「山に抱かれた家」だ。
「海」シリーズは計4巻ですでに完結。「山」のほうはまだ2巻までしか出ていない為、途中ではあるが、個人的には「山」のほうが面白いと感じたのでこちらをご紹介した。
シリーズの最初から読みたい方は「海が見える家」からどうぞ。
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