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本物の戦場をお見せしますよ。『ウォーフェア 戦地最前線』感想

アメリカ大統領が突然ベネズエラに軍事侵攻したと思ったら今度はグリーンランドの領有を主張し、ロシア大統領はそんな西側の体たらくを嘲笑いながら相変わらずウクライナ侵攻をやめる気配すらなく、日本でも存立危機事態というワードを巡って憲法解釈の雲行きが怪しいし、世界各地で戦争という「ストーリー」が為政者に利用されまくっていて嫌になる今日このごろだ。

そんな中、「何がストーリーだこのやろう、都合よく戦争って言葉ばっかり振り回しやがって、こっちはマジで戦争に行ってその場でとんでもねー目にあったんだぞ、全部そのまんま見せてやるよ」といわんばかりに、また凄い戦争映画が殴り込みをかけてきた。

それが本作『ウォーフェア 戦地最前線』である。

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2006年、イラクで実際に起きたアメリカ特殊部隊の地獄のような脱出劇を、本当にその場で地獄のような体験をした元兵士たちの徹底した監修と証言を織り交ぜながら、文字通り「完全再現」することを志した映画である。

結果、世界各地の声だけはデカいがその場しのぎの保身しか考えてないやたら好戦的な煽動家や、「よろしい、ならば戦争だ」みたいな漫画のコマを貼ってイキるのが大好きなネット民が黙るしかないような、「マジでその場にいた人」が本気プレゼンツする、戦争と戦場のイヤさが万人に伝わる映画に仕上がっていた。

監督はアレックス・ガーランドで、前作は日本でもヒットした『シビル・ウォー アメリカ最後の日』。

  • キルステン・ダンスト

前作と同様、本作『ウォーフェア 戦地最前線』も、明白な政治性みたいなものはほぼオミットされた作りで(そもそもごく限定された時間/空間で少人数の兵士の視点からの話なので)、そこは同じ戦争映画の巨匠でも、たとえばキャスリン・ビグローとも明らかに違うし、特に前作『シビル・ウォー』に関しては、そういう一種の曖昧さとともに抽象的な「分断」を語る手つきに危うさを覚えた向きはあるかもしれない(私もそう)。しかし今回は「だからこそ」というか、「にもかかわらず」というか、戦場で兵士が巻き込まれる圧倒的かつリアルな理不尽が、観客にダイレクトに伝わってくる。

戦場の兵士…っていうか、いっちゃえば現場の労働者(職務が戦争なだけで…)の視点から、徹底したリアリズムと当事者性をもって「戦場」を描くことで、大義名分の元で何かと美化されがち、ストーリー化されがちな「戦争」を、「いや、戦場のリアルってこれやぞお前」と暴露する作品となっている。

映画の最初に「この映画は彼らの記憶だけに基づいている」とわざわざ表示されて、何も知らないと「リアリズム重視じゃないよ」という言い訳みたいにも取れるんだけど、実際にはめちゃめちゃリアルを追求している、というのが面白いところ。

きっちり考証を積み重ねた上で、究極的にはその場にいた兵士たちの「記憶」こそが何よりもリアルやろがい、という敬意と決意表明とも取れる。徹底した現場志向と正しい意味での現実主義(リアリズム)によって、為政者が都合よく祭り上げて歪める「戦争というフィクション」を解体することが最大の狙いなんだろう。

リアリズムといえば、『ウォーフェア 戦地最前線』パンフレットの、音響監督の岩浪氏のコラムが面白かった。

たとえば「銃を構える時にカチャッという音なんか本当はしないが、映画ではそのほうが映えるので、カチャッとなる」みたいな、音響的な「映画の嘘」が一般的にはあるという。そういう必要悪ならぬ必要嘘を知り尽くしている岩浪氏が、『ウォーフェア』にはその手の「嘘」がおそらくひとつもなかったと語っている。

ガーランドの前作『シビル・ウォー アメリカ最後の日』では銃撃シーンでも、もっと「映画の嘘」を多用していたが、今回『ウォーフェア』では本物の銃声を使用しているそう。音のプロである岩浪氏に「非常に優れたサウンドデザイン」と言われるのは、本作が志向したプロフェッショナルなリアリズムに対する、最高の褒め言葉ではないだろうか。

兵士を演じたキャストも皆よかった。個人的に推したいのは、指揮官エリックを感じたウィル・ポールターである。敵の攻撃がもたらしたショックの大きさに、途中からほとんど役立たずと化してしまうという、ヒロイックさの正反対に位置するキャラだったし、ある意味では最も美味しくない役を引き受けているのだが、その「美味しくなさ」こそが本作の核心といえる。

特殊な訓練を受けた兵士だからって、爆発を間近で受ければフラッフラになるし(エリックの場合は脳震盪と思われる)、すぐフルパワーで行動できるはずもない。体へのダメージは精神にも当然ながら及ぶ。

アダム・マッケイの『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』で、眼の前で爆発に巻き込まれた刑事コンビが、あまりのショックにしばらくのたうち回り、「映画だと皆なんで爆発に巻き込まれても平気なんだよ、あんなもん嘘だ!」と叫び続けるという爆笑シーンがあるのだが、これを大真面目にやったのが『ウォーフェア 戦地最前線』だと言えなくもない

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そういえば本作『ウォーフェア 戦地最前線』のような現実再現系の映画のお約束として、エンドロールで役者と本人写真が並ぶのだが、ウィル・ポールターが演じた指揮官のエリックは、本人の顔にボカシがかかっていた。顔出し許可が出なかったのかなと。本人からしてみると不名誉に感じているのかもしれない。

ただ一方、あの局面で「俺はもうダメだ」とちゃんと口に出して言えることって実はけっこう偉くないかな…?とも思った。あそこで変に意地はって、新しく来た人に任せられてなかったら、指揮系統が混乱して全滅ENDもあったかもだし。強さや有能さを全く発揮せずにそういう奥行きを出せているのもポールターの演技力のおかげなんだよな、マジで良い役者だと思う。

それにしてもウィル・ポールターの作品選びからは目が離せない。近年ではNetflixの『ブラック・ミラー:バンダースナッチ』での(この俳優をこんな活かし方する!?という)飛躍がひとつの大きな転機だったと思うけど、『ミッドサマー』とか『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』とかヒット作も経て、最近ではやっぱりドラマ『一流シェフのファミリーレストラン』(原題のThe Bearで統一したいものだ…)のゲスト出演回がとにかく素晴らしかった。

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まさかウィル・ポールターが現代の俳優で最も好きな一人となるとは『デトロイト』の最低レイシスト役の時点で誰に予想できようか(あの時も役のイヤさっぷりについ現場で嗚咽してしまった、という良い人エピソードも聴いているが…)。今後の活躍も楽しみだ。

あと『ウォーフェア 戦地最前線』のキャストでいうと、新参の兵士がキット・コナーくんだったのも「お〜今っぽい」と思った。もちろん『ハートストッパー』と、最近だと海外アニメファン的には『野生の島のロズ』のキラリも。バイセクシャルであることを(本人的にはなかなか気の毒な形で)公言されてる俳優で、こういう映画での活躍を見るのはけっこう嬉しい。話題の『ロミオとジュリエット』もぜひ日本で観たいもんだな。

本作、戦場再現系の映画やドラマの俳優の年齢層が高くなりがちなことを懸念して作ったというだけあって、彼みたいなマジの若手(21歳!!)もきっちり入れてくるの偉いね。実際、概ね20〜30代の若者に地獄をみせるってことだからね、戦争…。

『ウォーフェア 戦地最前線』みたいな、本物の兵士にめっちゃガッツリ話きいて作ったよ!系の映画、たしかにリアリズムは担保されるだろうけど、内部に全面協力してもらうことで、その組織そのものが有する問題への作り手の批評的視線は薄れるのでは…?と懸念することも多い。

でもその点『ウォーフェア』は(軍人への敬意は払ったうえで)ちゃんと鋭い切り込み方をしてるのも偉かったな。良い意味で、軍隊PRに使いようがなくて、何重もの意味で「よく作ったな」という映画である。『シビル・ウォー』の成功あってこそなんだろうけど。

コンセプトや撮り方(ある兵士たちの地獄のような体験をあくまで個人的な視点から演劇みたいな限定空間/時間で撮る)を考えれば、冒頭のワンシーンは明らかに「浮いて」いるはずだが、振り返るとちゃんと大事な場面だったと感じられるのもけっこうスゴイ。

いわゆる「ホモソーシャル」の極みなシーンではあって、実際ホモソ感に満ちた軍隊を批評する意味合いも強く感じるんだけど、同時にこの瞬間は、これから地獄を味わうことになる若者たちの一瞬の「普通の青春」の輝きでもある…というシニカルな悲哀。先述したキット・コナーくんの起用も含め、このへんホモソ肯定にも陥らないようバランス取れてると感じた。

元軍人の全面協力を得ながらも批評性を失ってないという美点の最たるが、やはりラスト。こんだけドッタンバッタン大騒ぎして、自分たちにも現地の人々にもものすごい被害をもたらして、結局何が残ったというんだ…という悲壮な虚無感は、まさに多くの軍人が共感できることなのだろう、ということも観客にちゃんと伝わる。

大怪我を負った退役軍人への優しさとリスペクトにあふれたエンドロールを見ても、やっぱ当事者への敬意と批評性って両立できるんじゃんと思ったし、ここは(批評性に関してはヌルくなりがちな)日本映画/エンタメ界も見習うべき点だなと感じる。

自分が闘うわけでもないのに、権力の誇示のためだけに戦争や軍事侵攻をやらかす/チラつかせる愚か者が国のトップにいる今、この映画が公開されたことはアメリカでも日本でも意味が大きいと思った。音が本当に大事なので(爆音や残酷描写に耐性ある人は)ぜひ劇場で。

 




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