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2025年映画ベスト10!…&よき映画まとめ byぬまがさワタリ

2025年も締めに入ってるということで、つまり21世紀も4分の1が終わりつつあります。 大丈夫ですか? >人類

今年は映画館にはわりと行きまくっていた(数えたら160本くらい観ていた)くせに、忙しさにかまけてほとんど(唯一の例外を除いて)映画感想ブログ記事とか書けなかったんですが、毎年恒例でなんとか続けてる年間ベスト10記事くらいは更新したいなと。

SNSには相変わらず感想を書いているので(マスク体制のXにうんざりしてしまい、昨今はBlueskyに軸足を移しつつあるけど…)、まとめてあげたい気持ちもあり。

過去3年分の年間ベスト記事はこちら↓ 読み返すと(自分だけは)けっこう面白い。

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さっそく語っていきます(マジで5万字くらいあって全文読もうとすると本当に長いので疲れたところでやめましょう)。昨年はもう諦めましたが、今年はあえてムリヤリ順位もつけてみました。すでに配信とか来てたらなるべく併記。

 

2025年映画ベスト10

1位『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』

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今年唯一まともな感想記事(2万字)を書いた映画なので、これが1位じゃないなら何なのという話である。

初見の感想↓ (X)

何がそんな良かったのかはブログに2万字も書いたので繰り返しは避けたいのだが、本当に一言にまとめるなら、Blueskyのほうで感動した勢いのまま書いたこと↓に尽きるかもしれない。

『羅小黒戦記2』、ここが良かった、あのキャラが良かったみたいのは、これからいろんな感想で言われるだろうけど、根本的には「あーなんだよ、凄いもの、新しいもの、面白いものってやっぱ作れるんじゃん」と証明してくれて本当にありがとう、という気持ち。調子いい中国アニメの中でもトップオブトップの超上澄みだし、よっぽど特殊な才能と恵まれた条件が揃わないと世界のどこでだってこんなエンタメ作品は作りえないことはわかっているが、もうそんな事情は全部おいといて、最高峰を一片の妥協もなく見せてくれてありがとう、としか言えない。 だからもう、アニメってか、ピラミッドだよね。万里の長城っていったほうがいいのか?しらんけど

ぬまがさワタリ@『いきものニュース図解』ほか3/19同時発売 (@numagasa.bsky.social) 2025-11-07T15:09:32.681Z

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何より「凄いものを作ってくれてありがとう」という、プリミティブな一言に尽きる。映画好き/アニメ好きとして、というよりは、(おこがましいとは思うが)自分も何か作ったり発信したりするクリエイターとして、青空のごとく澄んだ気持ちで「がんばろう!!」と思えるような、ぶっちぎりで凄い作品を届けてくれた、そのこと自体に感謝したい。

ちょうど今みたいに、日本と中国の関係が(トップの言動の迂闊さや幼稚さもあって)大変なことになっていて、人の精神の自由さを狭めるような文化的な壁も築かれようとしていて、それでも「ひたすら作品そのものが凄い」という一点で分厚い壁をぶち破ってくる作品がある、という事実だけでも勇気づけられる。

シャオヘイみたいにがんばろう。

luoxiaohei-movie.com

そしてまだ普通に劇場公開中なので観てくれ!

あとTVアニメ版(web版)もちょうどシーズン終わったのでぜひ。最終話とか完全に劇場版クオリティです。

video-share.unext.jp

 

2位『Flow』

flow-movie.com

黒猫ワンツーフィニッシュ!

イイ感じにまとまりすぎて逆に嘘くさく感じるかもだが、奇跡の黒猫アニメイヤーっぷりに私もびっくりだ。『羅小黒戦記2』さえなければ確実に『Flow』が1位だった。なんなら同率1位にまとめたかったが、さすがに語ってる物量が違うので自分に嘘はつかないことにする。

本当はブログ記事とかも書きたかったので口惜しいが、とはいえ公式の推薦コメントも寄せたし…

アトロクでも語らせてもらったので、そちらを聞いてもらってもいい。

【告知】3/10(月)TBSラジオ「アフター6ジャンクション2」特集コーナーにて、傑作『野生の島のロズ』の動物描写(特に鳥!)を中心に、今アツすぎる「動物アニメ映画」について語ります! アカデミー賞で大快挙を遂げた『Flow』についても話せれば!お楽しみにね #utamaru www.tbsradio.jp/a6j/

ぬまがさワタリ@『いきものニュース図解』ほか3/19同時発売 (@numagasa.bsky.social) 2025-03-04T03:18:29.095Z

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さんざんオススメしてきたが、やはり凄いアニメである。子どもが観ても(なんなら猫が観ても?)楽しめる、美しくカワイイ動物冒険ファンタジーであると同時に、世の中の激流に翻弄される現実社会の私たちを(まさに"水面"のごとく)映し出す寓話でもある、幅広く開かれた傑作だと思う。

ギンツ・ジルバロディス監督の前作『Away』は(『風ノ旅ビト』などを想起する)かなりインディゲーム的なルックや世界観で、今回の『Flow』もゲーム『Stray』(サイバーパンク世界を猫が探検)を連想したゲーマーは多いと思うが、同時に両作とも、映画でしか表現できない一方通行の時間/空間の"流れ"(Flow!)がテーマの根幹にある。

特にラストシーンは忘れがたい。気候変動のような巨大な危機にただ翻弄され、運命のごとく大きな流れ(Flow)に押し流された、てんでばらばらな動物たち。動物なのでそもそも相互理解も共存も難しいのかもしれないし、台詞が全くないため各々が何をどう思っているのかすら最後まではっきりとは明示されない。力をあわせて危機を乗り越えたけど、かといって問題の根本が消えたのかどうかもわからない。未来は相変わらず不透明で、旅路は全て徒労だったのかもしれない。それでも最後に水面にうつるのは、体を寄せ合う、ともに旅をした者たちだった…という絵で映画を締める。動物たちの旅路を観てきた私たち人類に、さて、あなたたちはどうするのか、と問いかけるような、忘れられない幕切れだった。

オマケ↓ これまで描いた動物の素材だけで表現した『Flow』

詳しくはまだ言えないが、『Flow』については、来年のどこかでまた公的な場所で語らせてもらうかも…?しれないので、お楽しみにね(におわせ)

  •  

 

3位『ウィキッド ふたりの魔女』

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3位といいつつ、これがもう全然1位で大丈夫です。今年マジでエンタメ系が豊作すぎる。

映画好きを名乗りつつ、実際に年間ベストとか発表するとアニメやミニシアター系が締めがちだったりして、私は実写ハリウッド大作は別にそこまで好きでもないタイプの映画好きなのかもな…と正直ちょっと思ってたのだが、久々に(洋邦問わず)実写エンタメ大作で「大満足」といえる作品に出会えたかもしれない。クライマックスとか「かっこよすぎて泣ける」経験も久々にした。

ミュージカル舞台を過去に2回(ロンドンで)観てるほど好きな作品だが、音楽の最高さは言うに及ばず、演劇→映画とメディアを変えるうえでの語り直しがめちゃくちゃ上手かったと思う。

『ウィキッド』は2003年初出の舞台を元にした映画で、当時の現実社会(湾岸戦争が着想源ともいわれる)を戯画化したファンタジーだが、昨今の現実(特にアメリカ、そして日本も)があんまりにもあんまりすぎて、どんぴしゃで2025年の現実を刺しちゃっているのは驚くべきことだなと。やはりこれがアカデミー作品賞とるべきだったんじゃないかな〜(『アノーラ』には何の文句もないんだけどね)

物語や楽曲や美術などの素晴らしさは語り尽くされてると思うので、ひとつだけ最高ポイントをあげると、やはりエルファバ/グリンダの関係性、通称グリファバである。

『ウィキッド』の数少ない欠点は、「正反対のあいつとうっかり同室に!? ほんとサイアク!でもどうして、こんなにあいつのことが気になるんだろう…?」という、この世で最も重要なテーマを歌ったミュージカルナンバーが、300分ではなく、3分なこととされる↓

www.youtube.com

グリファバ、ほんとに好きすぎてブルスカでずっとゼンデイヤと喋っていた思い出(なんでゼンデイヤなのかは話が複雑なので触れませんが『チャレンジャーズ』観れば少しわかる…かも)

自カプのミュージカルナンバーの話していいすか? ゼンデイヤ「いいよ」 この歌のいいところはね〜なんだかんだエルファバが楽しそうなとこなんだよね〜緑の肌をもつエルファバにとってはうっすら他人に避けられ、遠巻きにされることが日常茶飯事だったろうけど、ここにきて(いがみあいつつも)正面から「嫌い」をぶつけあえる相手に会って、自分でも知らなかった一面があらわになる過程を描いているわけ、歌のラストもエルファバの「ハハハハ」っていう魔女笑い(なんならこんな笑うの人生初めてかも?)で終わるのも最高〜、嫌い=愛、ゼンデイヤもそう思うでしょ? ゼンデイヤ「うん」 bsky.app/profile/numa...

ぬまがさワタリ@『いきものニュース図解』ほか3/19同時発売 (@numagasa.bsky.social) 2025-03-09T08:45:49.330Z

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グリファバどうなるかな、最後のフィエロの件とか今時どんな感じに処理するだろう…とかややハラハラするところもあるが、この制作陣のことは信頼しているので、とにかく3月公開『ウィキッド 永遠の約束』が楽しみで仕方ない。今どき本国から数カ月遅れでも…ゆるす!!

『ウィキッド』が良すぎて、いきもの図解にも影響を与えてしまった例↓

邪悪(ウィキッド)なモンスターとして恐れられてきた「アメリカドクトカゲ」の猛毒が、大勢の人の命を救う「魔法」を秘めていた…? 偏見に惑わされず、多様ないきものたちを守る大切さがわかる #いきものニュース図解 です。西の空を見よ! ㊗️書籍化!新刊『いきものニュース図解』も読んでみてね〜

ぬまがさワタリ@『いきものニュース図解』ほか3/19同時発売 (@numagasa.bsky.social) 2025-03-25T09:27:31.590Z

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  • Cynthia Erivo

 

4位『野生の島のロズ』

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これが1位でいいよ枠、その2。

『ヒックとドラゴン』など、大好きなクリス・サンダース監督なので期待はしていたが、期待以上にすばらしいわくわく動物ファンタジーアニメ映画だった、と動物好きからも太鼓判を押したい。世界で大ヒットした娯楽大作であることも鑑みれば、今後「アニメーションにおける動物描写」を語るうえで、重要なメルクマールとなる一本だと思う。

決して「夢の国」なんかではない、生と死が入り交じる豪快な大自然に降り立ったロボットの視点から物語る本作は、アンチディズニーな創作集団として始まったドリームワークスの源流に立ち戻る作品でもある。そしてそこを出発点に、ロボットと生命との優しい交流を描き、リアルの力によってファンタジーをさらに花開かせようとする果敢な傑作。

つくづく2025年は動物アニメ映画の惑星直列みたいな年で、特に『野生の島のロズ』と『Flow』という、超メジャー大作と超インディーの「どうぶつアニメ」が、実は両方とも動物に対してかなり通じ合う「思想」に基づいて作られていて、その上でそれぞれ全く異なる味わいに仕上がっており、どちらも素晴らしい作品、という状況がとても面白かった。

『野生の島のロズ』、堂々たる動物アニメであると同時に、主人公がロボットであることをフルに活かした「メタ動物アニメ」でもあった。つまり非生物の描写から逆説的に「動物とは/生命とは何か」を問う知的な刺激に満ちている。冒頭、ロズがある動物の動きを学習して崖を登るシーンからして、もう面白い。

最後まで高品質なエンタメ作品だが、特に冒頭〜前半のメタ動物アニメとしての知的な面白さは、もうこれだけで今年ベストに選びたくなる素晴らしさだった。ロズとキラリの関係を通じて、今度は逆に「動物を通じてロボットとは何かを示す」話になるのも本当うまい。ドラゴンや宇宙人を通じて「他者」を描いてきたクリス・サンダース節、ここに極まれりだった。

『野生の島のロズ』は超絶クオリティの動物アニメだけど、人間社会の寓話としてモロに擬人化はしていて、むしろ「擬人化」自体が作品のテーマといえる。
一方『Flow』は極限まで擬人化を削っているが、非常に重要なポイントに絞って「擬人化」していて、そこに核心がある。やはり対照的なんだよね。

映画『Flow』や『野生の島のロズ』で描かれた、過酷な状況に直面した動物たちの"共存"を、「人間視点の綺麗事」的に言う意見もあるみたいだけど、過去に図解したアカゲザルの件↓を見ても、「血で血を洗う自然界!」的なイメージも、それはそれで人間の固定観念ではないかと思ったりもする。

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人間、自分たちの「動物性」を色んな欠点の言い訳にしがちという傾向はあると思う
いやそれ「獣としての本性」とかじゃなくて、人間が勝手に人間社会で育んだ、ただの「ダメな人間性」だろっていう…。まぁ『ロズ』も『Flow』もファンタジーなのは確かだが、「大変な状況では争いよりも、とにかく生存を優先する」程度の合理性は、わりと動物に備わってるのではないかと。

「自分たちの生存を脅かすのに、わざわざお互いを傷つけ、世界を壊す」みたいな不合理な態度の方が、よほど「人間らしい」んじゃなかろうか。そんなことも改めて考えさせてくれた、すばらしい動物アニメたちにありがとうと言いたい。

  • Pedro Pascal

 

5位『FEMME フェム』

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クィア映画としての意義深さはもちろん、純粋な面白さ度数でいっても屈指の映画だった。

ヘイト暴力の被害にあったドラァグクイーンのジュールズは、心に深い傷を負うが、自分を襲った犯人とまさかの再会。実は自身も性的指向を隠したゲイだった犯人は(すっぴんの)ジュールズに気づかないまま彼に惹かれだす。

踏み躙られた尊厳のために復讐を決意するジュールズと、マッチョで凶暴だが脆さも抱えた犯人の「ラブストーリー」が幕を開ける!というクィアスリラー。

あらすじの時点でつまらなくなりようもないが、実際に圧巻の面白さ。スリリングな関係で強力に引っ張る98分の果てに、「男らしさ」の呪いに縛られた人間の姿を、"FEMME"の光で大胆に浮き彫りにし、貫いてみせる傑作。

真っ向勝負のクィア映画であり、かつスリラーとしても強力な牽引力をもつ映画を作りたい、という作り手の試みは完全に成功している。わずかな登場人数で、「有害な男らしさ」的マッチョイズムを筆頭に、現代の歪みや病理を解体する社会的な作品でもある。

R18作品であり、性描写や差別描写など注意点こそあれ、まず誰が観ても文句なしに面白いと思うので(18歳以上の)万人にオススメできるとさえ言えるかも。

『FEMME フェム』、テーマや作風からいって「まさかの」…というべきかわからないが、とあるゲームがかなり重要な役割を果たすのが面白かった。序盤、トラウマを負った主人公の引きこもり状態の表現として出てきて、また『アノーラ』みたいに単なる小道具なのかなと思いきや、話を飛躍させる重要アイテムとして活躍する。

その有名ゲーム自体には特にクィアなイメージはなかったが、こういう形で物語に活かされると「なるほどな…」という感じだし、ゲームがもつ性規範を超えた方に開かれた可能性を改めて考えたりもした。ゲーム好きにけっこう観てもらいたい映画だったという意外な展開。

個人的な思い出を語ると、今年10月に逝去したビニールタッキーさんと、春にお花見してる時にオススメしてもらって、その足で帰りに観に行った作品でもある。あまりの面白さに感動して「オススメありがとう!」とは伝えたが、もっと語りたかったなと思う。色々な意味で忘れることができない映画となった。

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もう配信にもきてるのでぜひ。

  • ネイサン・スチュワート=ジャレット

 

6位『無名の人生』

mumei-no-jinsei.jp

今年の日本アニメから1本なら、これでしょう…。

ほぼ棒立ちの人々がごく最小限の動きで繰り広げる、超省エネ作画のアニメでありながら(日本アニメ界のアンリ・ルソーとでも言おうか…)、率直に言ってそのへんの「ぬるぬる動く」アニメよりも格段に、「マジで人間が生きている」感じがするのはまさにアニメーションの魔術だと思った。

様々な「名前」を持つある男の生をユーモアと悲哀たっぷりに描きつつ、芸能界にまつわる深刻な問題(たとえばジャニーズの性加害)をド正面から扱うというインディーらしい果敢さも発揮。日本の病んだ今を斬る、いやボコボコに殴りつけるエッジィな現代アニメとして見応え抜群だった。

逆にこんなフィクションで批判的に描かれるにふさわしい深刻なテーマを、アニメはもちろん実写ですら、正面から扱ったメジャー作品がいまだにほぼ絶無というのは、日本のエンタメ業界がまだまだ全然「自由」でもなんでもないことの証明でもあるし、逆にいえば本作は存在するだけで批評的なアニメになっていたと思う。

そうしたわかりやすい「社会的な」テーマ性だけでなく、ある男の人生を壮大な視点から描いた一代記という点でも、遠くまで連れて行ってもらえた感覚になる。映画館とは、こういう作品にじっくり浸るための場所であるべきだと思う。

実家にこもってiPadを駆使して1人で作ったというマジモンのインディー作品でありながら、劇場で観るに値する凄みと奥行きを獲得した逸品だった。同じiPadを使う身として(?)、さぼっていられないなと襟を正される気持ちになる。もう配信にも来ているので、一度ぜひ観てみてほしい。

  • ACE COOL

 

7位『罪人たち』

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「これが映画の素晴らしさというものだよな」と心から思える作品だった。

ジム・クロウ法による人種差別も色濃く残る30年代、ギャングの兄弟が地元ミシシッピに帰郷し、音楽に溢れた店を開くため奮闘する。KKKも跋扈する苛烈な時代、音楽の力でなんとかひと時の自由を掴もうとするも、斜め上の脅威(一応伏せる)が彼らを襲う!
KKKの残党みたいな連中が国を牛耳っている現在、時代を代表する才能たちのカウンターパンチのような、2025年の至高のエンタメ作品として記憶されることだろう。

ジム・クロウ法時代のアメリカを背景にした音楽映画+まさかの○○○映画をかけあわせることで、ちょっと見たことのない勢いと熱気を獲得していた。

○○○はいったん置いといて、まず音楽映画(音楽とは何なのかを語る映画)として大変にシャープで、誰もが言うだろうけど中盤のあるシーンの熱気と多幸感と祝祭感と矜持が混ざりあった爆発力は本当に素晴らしく、映画の歴史の新たな1ページとして刻まれるはず。こういう場面を年にひとつでも見られたら満足だし、IMAXレーザーGTのようなめちゃデカスクリーンで観る価値が大いにあった。また再上映したら絶対行く!(『NOPE』のように定番化しないかな。)

一方、あの名場面の美しさがあるから○○○が不気味で多層的な存在に思えてくる、という作りも面白かった。不気味で恐ろしいとはいえ、単純な悪者としては描かれていなかった(単純な悪者=KKKは別個に出てくるからね)。

それにしてもホラー、今年は特にアツいジャンルだったようだ(あとで改めて振り返るが)。クーグラーはすでに有名監督だが、ホラーって無名の監督の出世チャンスみたいな側面もあるし、比較的低予算なのにヒットすれば本作みたいにけっこうな集客もありうるという点で、最近はホラーが(なにかとピンチな)映画館の希望の星っぽい扱いもされてるらしい。

さらに「恐怖」には、世の中の差別や搾取や加害の構造を暴き出す機能もあって、それがホラーのような「THE・ジャンル映画」の枠組みと噛み合えば、娯楽性と社会性を両立するシナジーが生まれる。
たとえばジョーダン・ピールの『ゲット・アウト』『NOPE』、ワネルの『透明人間』、そしてクーグラーの『罪人たち』。
こうしたシナジーを生むためには、ホラーという分野の原罪的な差別性/加害性を批評する知性も求められる。「ホラーはホラー、政治とか差別とか余計なもの混ぜるな!」みたいなことを言う人もよくいるけど、そういう意固地さはむしろホラーの可能性を狭めてしまうと思うし、本当の意味で怖いもの、スリリングなものを生み出すためには、現実の人や社会を見据える力は何より大事なんじゃないだろうか。

新時代ホラーの名作として長く語り継がれる作品になりそう。ぜひ観てほしい。

  • マイケル・B・ジョーダン

 

8位『テレビの中に入りたい』

a24jp.com

心に刺さった度合い、見終えてフラフラした度合いでは今年随一だった。観終わった後、しばらく映画の中から出られた感じがしなかった。

田舎町で暮らす孤独な少年が、「ピンク・オペーク」という不気味だが奇妙に奥深いティーン向け番組に心を囚われていく。

暗闇にギラリと輝くピンクをテーマカラーにしつつ、自身のアイデンティティに揺らぎと不安を抱える人々のクィアな物語として解釈できるが(監督はノンバイナリーの方)、低俗と高尚が入り混じるTV番組のようなポップカルチャーが、人の心の奥深くの闇にどのように根を張り、どのように「輝く(GLOW)」のかを語る作品としても、深く刺さるものがあった。

『テレビの中に入りたい』、90年代の作中ドラマ「ピンク・オペーク」は、語呂とか雰囲気的にやっぱ「ツイン・ピークス」的なことなんか、と思いながら見てたが、イメージとしては『バフィー 〜恋する十字架〜』らしい。

子どもの頃に夢中になり、あれほどシュールで不気味で奥深くリアルな何かに満ちていた「ピンク・オペーク」が、大人になって見返してみたら…という後半のシーンはとにかく鮮烈だった。

「思い出補正」で片付けるには作中の設定が不穏すぎるとはいえ、リアルでも、うわーこういうことあるよなぁと思うほかない。心の中には確かにある、あったのに!っていう。からの、あの強烈なラスト…。全フィクション好きに刺さるのではないだろうか。

『テレビの中に入りたい』、パンフとかでもそんなに言及なかったけど(こういうジャンルだと王道すぎて逆に、かな)、やっぱリンチ(特にツイン・ピークス)への愛と目配せは強く感じた。シーズン5でとんでもない終わり方をしてそれっきり、なドラマと現実が溶け合って、「シーズン6の第1話に辿り着こうとする」という苦闘が劇中人物の言葉で語られるんだけど、これって「ツイン・ピークス」と「The Return(リミテッド)」の関係も想起させるなって。

ファンの心の中で作品がずっと生き続けてしまう、「続き」が二度とないことも、ダメになることもあるし、本当の「続き」にたどり着くこともある…ということの恐ろしさと面白さ。フィクションを愛する身として、ちょっと忘れられない一本になった。

配信などに来たら映画ファンはぜひ。

 

9位『聖なるイチジクの種』

gaga.ne.jp

自国政府への批判的な視点のせいでイランで有罪判決くらった(しかし創作者の姿勢としては日本含む世界中で手本になるべき)モハマド・ラスロフ監督の新作。

憧れの判事の座についたが、日々の仕事といえば反政府の罪なき市民に重罪判決をくだすブルシットジョブ(どころではないが)じゃねーか…と煩悶しつつも、体制の外には出られない父親。そんな彼と、妻と娘姉妹の間に、街で加熱する反政府デモや、家庭に現れた「銃」を巡って亀裂が走る。

イランの現状を描く鋭い寓話としても、家父長制的な抑圧下で折れずに生きる女性たちの物語としても見応え抜群で、167分の長さがあっという間。

最近よく「上澄み論」について考えてて(海外の優れた作品はあくまで"上澄み"なので日本の平均値と比較しても仕方ない、みたいな意見)、その意味で『聖なるイチジクの種』は間違いなく正真正銘、イラン映画界の「上澄み」ではあるだろう。監督が有罪判決くらってるだけでなく、出演した俳優も出国禁止になったりしているし。

一方、じゃあ「言論の自由」があるはずの日本社会で、本作に匹敵するような、社会の問題への批判的視野をもつ作品が何か作られているか…?とも考える必要があると思う。「抑圧的な国で頑張った映画」として消費されるだけではもったいない、学ぶべき点だらけの映画。

しかし一方で、イラン映画って、『聖なるイチジクの種』に限らず、ごく最近でも『聖地には蜘蛛が巣を張る』も『白い牛のバラッド』もバッキバキの社会批評作品だったので、(政府の言論統制がヤバいにもかかわらず/だからこそ?)すでに社会派映画大国としての立ち位置を確立してるといえなくもない。

突き詰めれば、「その国独自の問題」なんてものはないんだよね。イランのように言論統制や性差別が過酷な国でも、そうした社会の歪みをとことん批判的に精緻に描くことで、日本だろうがアメリカだろうが「いやうちの国の話やんけ…」って思えるわけ。「イランって怖いね〜」で終わっちゃう人はその程度の解像度でしか世の中を見てないだけ。
『聖なるイチジクの種』といい、自分が属する国や文化圏をとことん批評的に描いた作品って、自国の強権的な政府とか保守主義者には嫌われるし、日本でもそうした作品が時々あると「反日」とか言われてるけど、全くしょうもないなと。自国の恥はどんどん晒すべきだと思う、それは同時に世界全体の恥でもあるんだから。

  • ソヘイラ・ゴレスターニ

 

10位『ワン・バトル・アフター・アナザー』

映画ファン界隈でのあまりの絶賛され方に逆張りモードに入りつつあるが、でもやっぱりこれをベスト10に入れないのは嘘だよな、的な…。凄い映画だった、本当に。

wwws.warnerbros.co.jp

PTアンダーソン監督の最新作と聞けば見逃せないので(『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』見返したりしつつ)多少身構えながら初日に駆けつけたが、うらぶれた革命家がファシズムに立ち向かうという、ものすごい明快かつ思いのほかポップな面白さに満ちた作品だった。特に中盤の逃亡劇シークエンスの異様なテンションの高まりは映像のバチバチっぷりや主演陣の演技も相まって、映画って最高だなぁ〜と思うほかなかった。

これや『罪人たち』が大ヒットしてるというアメリカ、凄いことだなとは思いつつ、ド直球に全体主義や白人至上主義と戦う作品がアクチュアリティを持ってしまう現実の切羽詰まりっぷりにも思いを馳せる。

『ワン・バトル・アフター・アナザー』、原作というかインスピレーション元がピンチョンの『ヴァインランド』らしく、当然(当然って言うな)読んではいないが、こんなポップな面白さの小説では多分ないだろ…笑と疑ってしまったが、紹介にも「超ポップな快作」とあるので、意外と忠実だったりするのか。読もう…いつかは…

ていうか『インヒアレント・ヴァイス』(原作は『LAヴァイス』)に続いてのピンチョン映画化だし、PTアンダーソンはピンチョンマスターとしての道を進むのだろうか、大変すぎそう。見返したがなんとも絶妙な味わいのノワール映画だった↓

  • ホアキン・フェニックス

ただ『ワン・バトル・アフター・アナザー』、めちゃめちゃ面白い一方で、意外とけっこう言いたいことが湧くタイプの作品でもあった。(そのへんはブルスカとかにもけっこう書いたので、興味あれば)

色々言いつつなんだかんだベスト10に入れちゃってるので「格」みたいなものがやはり凄い。アカデミー賞の総なめも硬いんじゃないかな、どうなるかな〜楽しみですね

  • Leonardo DiCaprio

 

というわけで2025年の映画ベスト10でした。

もうここで読むのやめてもいいが、ここからは各部門に分けて、よき映画たちをまとめていきたいと思います。(SNSに書いたことまとめ、的な感じなので超長いです。年末年始の空き時間とかにどうぞ)

 

縦横無尽!どうぶつ映画

『パフィンの小さな島』

鳥映画がアツすぎた2025年、この小さな映画も忘れちゃダメ。

child-film.com

『野生の島のロズ』や『Flow』など、今年はとにかく鳥にフィーチャーした海外の動物アニメの傑作が連発した年として(私に)記憶されるだろうが、まさに文字通り鳥を主役にしたアニメ『パフィンの小さな島』がこの流れを美しく締めくくるのだった。いや…真の鳥ブームは始まったばかりなのかもしれない。

気候変動による災害難民(と作中で明言される)の子どもが主人公であり、実は同スタジオの『ブレッドウィナー』とも通じる志がある。展開的に『ロズ』『Flow』とのシンクロっぷりに驚くが、いま世界の一流アニメ作家が動物ものを作ろう、となった時、やっぱ気候変動問題は避けて通れないでしょ、っていう共通意識があるんだろう。日本からもリスペクトすべき。

キャラクター造形も改めて良くて、野生動物(実際にアイルランドに生息してる種)をかなり大胆にデフォルメしながら、それぞれ特徴を押さえてオリジナリティある造形に落としてるのも強い。

『パフィンの小さな島』、今までのカートゥーン・サルーン作品の中でも最も明白に「子ども向け」を意識して作られている、ということだけは事前に言っておくけど、だからといって全く子どもをナメてないのが凄いし、むしろ(世界が今どうなってるか知っている)大人こそこの物語から多くを受け取るべきである、とも声を大にして言いたい!
「社会や環境の激変で家を追われた子ども」の心情を細やかに描いた作品です。

ルックと語り口がTHE子ども向けなので過去作より「おとなしめ」な印象を受けるかもだが、いま語るべきことを正面からしっかり語っている。やっぱさすがだよカートゥーン・サルーン。

実は公式のパンフのお仕事も引き受けていたので↓、ちょっと関係者なのだが、でも純粋にみんなに観てほしいなぁ、配信もきてほしい

カートゥーン・サルーン最新作『パフィンの小さな島』いよいよ本日公開です! 劇場パンフレットに、作中に登場するパフィンや鳥さんたちのスペシャル図解を寄稿しました。いきもの描写にも気を配った真摯なアニメ映画なので、お楽しみの一助になれば幸いです! ぜひゲットしてね〜 #パフィンの小さな島

ぬまがさワタリ@『いきものニュース図解』ほか3/19同時発売 (@numagasa.bsky.social) 2025-05-30T09:47:56.819Z

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『ウォレスとグルミット 仕返しなんてコワくない!』

www.netflix.com

鳥のアニメ(鳥…なのは間違いない)といえば、これも忘れてはいけない。

この世で一番おもしろい30分と(私に)大評判のド傑作『ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ! 』のまさかの続編。さらにスケールアップしたペンギンの悪辣さ、こんなにかわいいクレイアニメなのに現代社会を刺してくる風刺のシャープさ、大満足というほかない。

技術の行く末を案じるテーマ性もあり、もはや若干『オッペンハイマー』みたいになってるが、機械と人間の対立がアートの領域でもだんだん深刻になっていく今、手作りアニメの頂点に位置するアードマンがこの話を作ることに重みも感じた。

「ウォレスとグルミット」シリーズ、これが20年ぶりの新作らしいが、前のって『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』(2004)か。いやもう文句のつけようもない傑作エンタメですよ。他の「ウォレスとグルミット」シリーズ(それこそ『ペンギンに気をつけろ!』とか)もこれくらい見やすくなってほしいなぁ…

  •  

 

『ペンギン・レッスン』

ペンギンといえば忘れちゃいけないこの映画。今ちょうどやってるよ

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人生に疲れた中年教師がペンギンと出会ってさぁ大変、というドタバタどうぶつコメディ…と思いきや、舞台は1970年代の軍事政権のアルゼンチンで、大勢の抗議者が拉致されるようなヤバい状況。まるで地に堕ちた自由を象徴するかのように、重油まみれになったペンギン(南米なのでマゼランペンギン)をたまたま助けることで、自由も変化も諦めていた教師の心に変化が生じていく…というお話。

韓国映画の名作『タクシー運転手』に近いテーマの映画だが、名演技をみせる(けどあくまで動物な)ペンギンの圧倒的存在感が良い意味でのポップさと風通しの良さをもたらす。実話ベースなことに驚くが、今みるべき映画🐧

『ペンギン・レッスン』、鳥好きとして(?)ペンギンの描写はどんなもんかしら、と注目したが、過度な擬人化などはせず(まぁ実写なので無理っちゃ無理だが)、あくまでペンギンが実際にやる範囲のこと(ただ立ってるとか歩いてるとかフンをするとか)でコメディや感動的なシーンも成立させていて、物語面で何かペンギンに過大な役割を負わせるとかでもなく、良い塩梅のペンギン映画になっていたと思う。(まぁ教室とかに連れていくのは飼育的な意味では望ましくはないと思うけど…笑)

『ペンギン・レッスン』、はっきり言ってペンギンはいなくても成立する(南米の野生動物ならカピバラとかでも成り立つ)テーマなだけに、こんな『アイム・スティル・ヒア』とも重なる深刻な社会情勢を描いた重厚なはずの作品を、ここまでポップな絵面にしてしまうペンギン力(ぢから)を改めて実感するのだった。

スティーブ・クーガンは言うまでもなく達者だが、今回はコメディ感を抑え気味にしてたのは、圧倒的ペンギン力を信じたのも大きいだろう。ペンギン「フアン・サルバドール」の役は主に2羽のマゼランペンギンが演じたという(負担が大きそうなシーンでは人形なども活用)。パルム・ドッグ賞ならぬパルム・ペンギン賞をあげてほしい

『ペンギン・レッスン』、(国こそアルゼンチン/ブラジルと異なるものの)同時代の軍事政権の圧政という点で、奇しくも今年日本公開された『アイム・スティル・ヒア』や、アニメ映画の『ボサノヴァ~撃たれたピアニスト』とほぼ同様の題材を扱っている。
これらもぜひ(ペンギンは出ないけどね)

 

『おんどりの鳴く前に』

鳥映画(なのか…?)として強烈な印象を残した一作も。

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まず鳥映画(?)なので観なければならないのと、ルーマニアからヤバい映画が襲来!的な前評判で観に行ったのだが、思ったよりは地に足のついた泥臭い物語で、むしろなんて韓国映画っぽいヨーロッパ映画なんだ…!と変なことを思ったりした。中年のダメ警官を主役に、不穏でじっとりした空気の前半から、共同体の闇がじわじわ明かされていき、終盤でなかなか熱いジャンル的な飛躍を見せる流れも含めて、韓国映画っぽい。
「村」という閉じた世界の権力と腐敗について腰を据えて描くと、どんなに狭い社会の話でも、必ず普遍性を獲得してしまうものだなと世界情勢を見ても思う。ニワトリ演技(?)も期待通りイイ。

  • ユリアン・ポステルニク

 

『バード ここから羽ばたく』

鳥映画(というには特殊な鳥すぎるかもしれないが)といえば今年はこれもあった。

bird-film.jp

カエルの体液を売りさばく系のヤバい父親(バリー・コーガン!)に暮らしを振り回され、社会の底の方ですみっコぐらしを強いられる少女が、バードという謎の人に出会う。
手持ちカメラ風の親密な視線から、でこぼこした親子関係を映しとるという点で、さらにハードモードな境遇の『アフターサン』みたいな趣きが強いが、そこにバードという「他者」が降り立つことで、また全く違う飛躍をみせる映画。

このバードがなんとも味わい深いキャラなのだが、曲者(癖者?)を演じさせたら世界一のバリー・コーガンを(バードではなく)その役に当てるのか、という意外性も面白い。そしてタイトル通り…鳥映画!

『バード ここから羽ばたく』のアンドレア・アーノルド監督は、日本では過去作ほぼ未公開だし知らなかったが、イギリス本国や海外では名の知られた若手監督(なんとなくだが評価的にはケリー・ライカートあたりに近い感じ?)。

本作も「バード」という率直なタイトルに恥じず、カラスやウミネコなど鳥が随所で鍵を握る。ほかにも虫や小動物、馬なども印象的に登場するどうぶつ映画だったのだが、過去作でも動物が脚光を浴びがちなそうで、そのものズバリ「COW」という牛ドキュメンタリーも撮っている。そういやライカート監督も『ファースト・カウ』撮ってるし。気鋭の動物映画監督としても注目に値するかもしれない。

これも実はビニールタッキーさんに「ぬまがささんは観たほうが良いよ!」と強くオススメされて観たんだよな、と思うとまた少し寂しくなる。

 

『ヒックとドラゴン』(実写版)

寂しがってばかりもいられない、年末年始は元気よくいこう。そらとぶ動物といえば、鳥だけじゃない…。ドラゴンだ!!というわけで(?)、ぜひ今年よかった動物映画に『ヒックとドラゴン』を加えたい。

hic-dragon-movie.jp

もし15年前の元のアニメ映画の存在を知らなければ「何これめちゃくちゃ面白い、王道エンタメとして死ぬほど完成度が高いしファンタジー動物映画としても最高、絶対でっかいスクリーンで観たほうがいいよ」と大興奮していただろう。

…実際には実写リメイクだと知ってるのでそこまで大興奮はしないが、やはり15年たっても色褪せない傑作中の傑作というほかない。ただ本当に元のアニメをほぼそのまま再現している(細部は少し変えてる)ので、どこからを本作の功績とすべきか、みたいな迷いはある。でも逆に言えば、万が一未見ならこの実写版が初見で完全OKです、でかい画面でヒクドラに出会えた人は幸運と思え!!

『ヒックとドラゴン』(2010)は、基本的に21世紀のベストアニメ映画のひとつだと思っているが、改めて劇場で実写版を観て、まぁ〜とにかくエンタメとしての出来が良く、特に(最近よく話題にするが)シナリオの完成度が抜群に良いなと実感した。

とりわけ冒頭のドラゴンとの戦闘から、ヒックとトゥースの出会い、仲間との試練を織り交ぜつつ、初めての飛翔に至る中盤にかけては、全エンタメ作品が仰ぎ見るべき完成度で、「完璧な娯楽映画ってのはこの世にあるもんだな」と感動する。実写でほぼ(細部以外)何も変えなかったのわかるわ、変える必要なさすぎるもんな。

ディズニーを筆頭に、名作アニメ映画の実写リメイクは一大ブームだけど、今回の『ヒックとドラゴン』は中でもベスト級じゃないかな…?

ほぼそのままリメイクではありつつ、CG技術が段違いに上がった15年後の今あえて実写にしたことで、「現実世界にドラゴンがいたら!?」というワクワクと緊張感が、より重厚感と手触りを増して蘇ったと思う。

元のアニメ映画も色褪せない大傑作ではあるが、さすがに今みるとCGとかまぁ、ね…みたいなとこも散見されるし。最近見返して水中カメラシーンで「あっいうて当時のCG技術こんなだったか…」と思ったばかりなので、実写版で「オラッ進化を見ろ」って感じできっちり再現されてて少し面白かった。

『ヒックとドラゴン』、改めて思ったのは、実はセリフに頼らない作品なんだな!ということ。おしゃべりなキャラが多くて会話も面白いんだけど、特に素晴らしい中盤(訓練〜初飛翔)あたりは、思った以上にセリフが少ない。ヒックとトゥースの交流や仲間たちとのドラゴン試練を通じて、けっこう沢山のことが起きているんだけど、それらの出来事やキャラの感情の流れをほぼ全て絵とアクションで提示していて、全く退屈させないし、たぶん言葉がわからない人でも100%理解できるんじゃないかな。

最良の意味で「観客を信じた」作劇だと思うし、エンタメ作品の教科書があれば(『トイストーリー』とかと並べて)まず載せるべき作品のひとつと思う。

『ヒックとドラゴン』、中盤クライマックスの初飛翔シーン(まぁ全アニメ映画のベスト飛翔シーンのひとつでしょう)の素晴らしさは「もう観ろ」としか言えないが、飛行のビジュアルが大画面に映えて最高、というのは大前提として、これも実はシナリオの勝利なんだよね。この2人(1人+1頭)にとって、いがみあい憎み合ってきた人類とドラゴンにとって、この「飛行」は何を意味するのか、ということを、セリフではなく絵と動作で完璧に表現してきたからこそ、アクションとストーリーが完璧に噛み合い絶大な感動をもたらす。ビジュアルの良さだけでは到達し得ない高みなんだよね。極論をいえば全エンタメ作品はこのシーンを目指すべき(極論)。

『ヒックとドラゴン』、「暴力ではなく動物学が勝利する」物語としてもとても楽しく痛快で、良い意味で教育的である。ドラゴンを何のメタファーとして見るかは人それぞれだが、ストレートに「動物」の比喩として見ても、むやみに恐怖を煽ることや、「とにかく撃ち殺せばええんや!」みたいな(どこかで聞いたような)マッチョな単純化よりも、まず「複雑な生態をちゃんと知る」ことが共存と繁栄の鍵だ、と丁寧に語るエンタメは稀有。

実写『ヒックとドラゴン』、ヒックがトゥースを「殺せない」と気づいて縄を解く時にメインテーマが流れたのがなんかすごくグッときたんだけど、いま確認したら実写版での改変だね。ヒックが本作の主人公にふさわしい理由は、手先が器用なことより、飛行が上手いことよりも、まさに「ドラゴンを殺せない」ことだった、と強調するかのようで、とても良かった。「誰か/何かを殺す」ことが無条件の善とされる世界で、「自分には殺せない」と気づくという、かなりヘビーなテーマを扱った物語でもある。ドラゴン=動物のメタファーとして解釈すると、現実社会でいえばビーガニズム的な問題意識を感じさせる話でもあるよなと。

かように意外と複雑な社会問題のメタファーとしても観られつつ、年末年始に観るにもぴったりのファミリー映画なのでぜひ↓

  • Mason Thames

もちろんアニメ版を見返すのもアリ(大傑作)

  •  

 

『ジュラシック・ワールド/復活の大地』

最強のどうぶつ、それは……恐竜!!(断言)

www.jurassicworld.jp

けっこう映画ファンからは微妙な反応も見かけたんだけど、個人的には「いや全然おもしろかっただろ!!」と言いたくなる映画で、しかし後述するが微妙に公式仕事を受けてしまったので、逆に大声でオススメしづらいみたいな面もあった。

初代『ジュラシック・パーク』の精神をギャレス・エドワーズ監督がとてもうまく継承し、新時代の大作として蘇らせていたと思う。科学アプデも反映した恐竜/古生物を華々しく主役に据えて、『ジョーズ』や『インディ・ジョーンズ』などスピルバーグ行脚ライドとでも呼ぶべき、豪華で楽しい夏の大作だった。

歴代ジュラシックシリーズの美点は抑えつつ、反省点も踏まえて脚本も相当うまくブラッシュアップしてきたなと。「海陸空の3大恐竜(※モサは爬虫類だが)のDNAをゲットせよ」という非常に明白な縦軸ミッションもよく効いてたし、ワクワクさせられた。やっぱ娯楽映画たるもの、これくらい明快であるべきだ!

『ジュラシック・ワールド/復活の大地』、全体的に恐竜ファーストな姿勢が好感触で、海陸空のスター(恐竜)の雄大さをそれぞれの自然環境でじっくり魅せてくれる。
その上で芸達者なスター(人間)の表情や反応でしっかり恐竜アゲしてくれるのも大事。

冒頭の「恐竜がセンス・オブ・ワンダーを失った社会」の表現からもう良くて、前作までであれだけのことがあったのに…!?となる大胆なちゃぶ台返しではありつつ、人類の飽きっぽさを考えるとさもありなんで、恐竜好き/生物好きには染みるところだが、だからこそティタノサウルスの場面の博士の反応も刺さる。ジョナサン・ベイリー(『ウィキッド』も良かったが)ほんと良い役者だなと。

特に今回、恐竜ファン/シリーズファン的にやっぱスピノサウルスがアツいんだよね。科学を反映した大胆なリデザイン&満を持しての(3以来)再登場で、本シリーズのダイナミズムの象徴でもある。スピノサウルスは、2014年ごろ、体の特徴的に水棲恐竜だった!という学説が出て騒然となり、有名な恐竜の中では近年で最も激変があった例。その水棲説にも多くの反論が出て、まだ議論は全然続いてるが、今回のジュラワは水棲強めで大胆に再造形した。(今後また議論次第で変わるかもだが)

ジュラシックシリーズ、間違いなく恐竜/古生物をスターダムに押し上げる力をもつが(最近だとやっぱモササウルス)、あくまで「実物」は現存せず、現在進行で科学的議論が続く生物を扱った、独特の緊張感をもつ「いきものSF」でもある。今回だとスピノサウルスはアツイと同時に「荒れる」余地も大きいが、そこが面白さでもあり…。

それでいうと今回、ヴェロキラプトルがほぼ出なかったのはホッとした笑。シリーズを象徴する恐竜だが、実物(七面鳥サイズ)とあまりにかけ離れてることは(なんなら初期から)ずっと言われてたし、もうデイノニクスベースのオリキャラ恐竜ってことにするとか、さすがにいったん仕切り直さね?とは思ってたし…

あと今回、恐竜ファン/シリーズファン的に重要なのはやっぱティラノ渓流下り(マイケル・クライトン原作を満を持して映像化したシーン)だが、これも「どのくらい泳げたか」議論真っ最中で、ナショジオの記事が出ていた↓
超デカイ凶暴な犬みたいで恐ろしいけどかわいかったな

natgeo.nikkeibp.co.jp

さっき行った微妙に公式なお仕事↓

全国の恐竜/古代生物ファンよ、祭りの到来だ! 8月8日(金)公開『ジュラシック・ワールド/復活の大地』楽しみ!!という公式 #PR イラストです。 全国109シネマズ・ムービルの幕間で、「ぬまがさワタリのジュラシッククイズ」もまさかの上映中!(8/20まで。109シネマズプレミアム新宿 除く)

ぬまがさワタリ@『いきものニュース図解』ほか3/19同時発売 (@numagasa.bsky.social) 2025-08-01T03:05:28.891Z

bsky.app

イラストが映画館でかかるという、地味に貴重な実績を積めたのでよかった(自分では見に行かれなかったが…)

  • Scarlett Johansson

 

『私の親愛なるフーバオ』

他にもこんなどうぶつ映画があったよ、という話。

fubao-movie.com

韓国で初めて生まれたジャイアントパンダ、その名もフーバオ。韓国の人々に愛されまくりのフーバオだが、別れの日(中国への返還)が迫っていた。彼女と人間たちの日々を記録したドキュメンタリー映画となっている。

とにかくフーバオが、てかパンダが本当に可愛く、見てるだけで悔しいかなニコニコしてしまうし、意外と知らない隣国のパンダ愛を目の当たりにできる貴重な映像資料でもある。

個人的には(動物好きとしても)もうちょいドライな作りの方が好みだし、中国との政治的な関係の掘り下げもあれば社会派動物ドキュメンタリーとしての価値も高まったと思うが、時折挟まる悲哀に読み取れるものも多かった。日本からパンダ消える?みたいなニュースも流れる中、注目されるべきどうぶつ映画だろう。

  • フーバオ

 

『ズートピア2』

このセクションの最後を飾るにふさわしい、ちょうど今爆裂ヒット中のどうぶつアニメ映画といえば!(大御所すぎるが…)

www.disney.co.jp

何かと議論を呼びもしたがいまだに現代ディズニー屈指の名作として輝く前作をどう掘り下げてくるかな、と楽しみ不安半々で観たが、そうくるか!と面白かった。

アクションとギャグの連打できっちり万人を楽しませる(あらゆる全年齢エンタメはまずこのラインを目指すべきだ)手腕はおなじみながらお見事だし、爬虫類の新キャラで前作より明快に現実に根差した問題を語りつつ、世界の奥行きを深めてもいる。特にニューオーリンズ(ではないが)の街並みは素晴らしくて見入った。続編も…楽しみ!

ケモノワール(ケモノのノワール)としての前作の魅力を良い具合に発展させてて「これもうかわいい『ブラック・サッド』だな…」と思えてきた。

本家(?)『ブラック・サッド』もシリーズ重ねるにつれて、じわじわポップに寄せてる感もあるので、特に最新作↑とか「かっこいい超社会派ズートピア」みたくなってて好き。

『ズートピア2』、まずは(?)ヘビ映画として期待していたので、ゲイリーの出番はもうちょい多くても良かった気もするが(ニューオーリンズでの相棒ポジは普通にゲイリーで良かったのでは、ていうかビーバーとちょっと出番を食い合ってたような)、変にあざとカワイくして誤魔化さないヘビヘビしい造形とか好みだった。特に下顎のあたりがちゃんとガッツリとヘビなのがいいよね。

最近は『バッドガイズ』とかヘビのメインキャラも増えたけど、特にディズニーはやっぱ(それこそキツネ以上に)ヘビの悪役率高すぎだろって感じだったので、善良なヘビキャラをちゃんとメインにもってくるのは自己批評にもなっていたと思う(おまいうとも言うが)

草食vs肉食という対立軸で物語を駆動した前作『ズートピア』は、主に人種差別や女性差別のメタファーとして万人にわかりやすかった一方で、まぁやっぱ言うまでもなく食性と人種や性別は全然違うものだし、たとえば「女性vs男性」のメタファーで観ちゃった場合(メイン2人の性別から実際そう読めなくもない)この展開はどうなんだ、みたいな批判もあって、そこは隙もあると思う。

製作陣もそういう批判を踏まえつつ、それでもケモノワールで現代社会批評やろう!と気合い入れ直して、今回「爬虫類」という新基軸で、誤読の余地を減らすような人種差別のメタファーを入れてて、それはそれで批判もあるかもだが、その果敢さは素直に偉いなと。

ところで『ズートピア2』、若者が多いシネコンの大スクリーンで観たのだが、終わった後に男子高校生グループが「小ネタいっぱいあったな」「レミーのやつとかな」「あいつが持ってたのカールじいさんの杖でしょ」「そこに気づけるのすごいわ」とか喋ってて、良さがあった(ピクサーのそのへん今の子もちゃんと観てるのね、とも)

 

ゾクゾクわくわく!ホラー映画

『ファイナル・デッドブラッド』

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どんな殺人鬼よりも恐ろしく理不尽な、「死の運命」という不可避のメタ脅威に襲われるシリーズ最新作。思いのほか美しいレトロな冒頭(もちろん大惨劇に発展するのだが)から幕を開け、アリ・アスター的とも言える「血筋の呪い」につながるスケール感に慄く。

容赦ない残酷描写、不謹慎きわまるシニシズム、一周して映画を支配するユーモアといった魅力を発展させながら、死に抗う生の一瞬の燦めきを観客の目に焼き付ける。シリーズ最高傑作との評判も納得。

シリーズを象徴するトニー・トッドの遺作としての格も十分だし、真剣に作った不謹慎ボンクラ映画だからこそ、彼の最後のセリフも輝くのだった。

『ファイナル・デッドブラッド』、記事でも書いたがビニタキさんが亡くなる直前に(よりによって!)鑑賞されてたと思われる映画ということもあり、不謹慎なのは良いとしても(?)つまらなかったら許さんぞ!という気持ちではあったが、(確実に不謹慎ではあったものの)とても面白かったので許す。

テーマ的に「そ、そんな…」感が増すというのは確かにあるが、いわゆるボンクラ映画の中では間違いなくトップクラスの出来栄えと面白さだと思うので、(ビニタキさんの趣味的にも)これが映画人生の締めというのは悪くないかもしれないな、とも思うのだった。ある意味、大変さっぱりした、"平等な"死生観のシリーズではあるのよね。

『ファイナル・デッドブラッド』、限定上映なのと、ひょっとしたらビニタキさんの件でSNSで話題になったとかもあるかもだが、平日昼間の回でもほぼ満席で熱気が凄かったな。隣に座った方のリアクションも残酷シーンになるたび「ぎえ〜」って感じで良かった。(まぁ苦手な人は普通に注意なのだが、どちらかというと景気が良い方向性のバイオレンス/残酷表現ではある。)

過去シリーズは特に見てなくても大丈夫だが、1・2あたり見ておくとお約束な描写の味わいが増すと思う。真面目に丁寧に作った残酷ぼんくらスリラーであった。

  • ケイトリン・サンタ・フアナ

 

『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』

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じっとりした不安と緊張が全編を支配する、満足度の高い和製ホラー。不気味で面白かったドラマ『イシナガキクエを探しています』の監督さんだったと知り、納得。

かくれんぼをしていた子どもが失踪し…という大筋も、ビデオテープの粗い画質や手持ちカメラの不穏さも、ホラーとしてもはや王道というか陳腐になりかねない領域だが、実力ある役者陣や周到な脚本、丁寧に構築された画面のおかげで、フレッシュに感じるしちゃんと怖い。(主人公がたぶんゲイという設定だったり、意外にクィアな読み解きができることもフレッシュで良かったと思う。)

いちばんゾワッとするのが、単に部屋で会話してるだけのシーンというのもホラーの奥深さ、豊かさの現れと言える。

日本ホラーも(そこまで丁寧にチェックできてないが)面白い節目を迎えているのかもしれない。

  • 杉田雷麟

 

『THE MONKEY ザ・モンキー』

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呪いの猿人形がドラムを叩くと誰かが惨死!…という血みどろな引き寄せの法則が炸裂するホラーコメディサスペンス。こんなご時世にかような不謹慎デス映画みてニコニコしていて良いのかと脳裏をよぎらないこともないが、悪人も善人もランダムに襲う死や不幸や惨劇の理不尽さ、そして猿の瞳のように空虚な世界で私たちはどう生きるか、という問いに意外と真摯に向き合う映画でもある。

「色々言ってきたが結局のところ私はこんな映画がいちばん好きなのかもしれない」とちょっと思ってしまう、怖くてごきげんな一作であった。

本物のサル、ていうかチンパンジーのホラーももうすぐくるぞ↓

osaru-ben-movie.jp

 

『WEAPONS/ウェポンズ』

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教室(ほぼ)丸ごと行方不明になった子どもたちを巡る失踪ホラー…というあらすじやビジュアルから想像するよりも、なんというか、元気がいいホラーだった。
クライマックス以降の、元気のいい○○○・○○○○○(伏せるが名作現代ホラー)みたいなハイテンション展開にわろてまうのだが、ちゃんとカタルシス満載で決着させるのもエライ。
悪の正体など若干思うとこなくもないが、カルト化しそうな異常元気ホラーだった。
『バーバリアン』のザック・クレッガー監督だったと観た後に知り納得感。作風が確立されまくっとるね。

  • Georgina Campbell

『WEAPONS/ウェポンズ』、こんな変なホラーなのに本国でめちゃヒットしててスゴイのだが、SNSで考察も盛り上がってるのね。ただ(不条理な事態こそ起こりまくるけど)別に話の中に謎や未解決な事象が残されるタイプの作品でもないので、監督はひたすらキレが良くボンクラみもあるホラーを作りたいタイプの人なんだろうな、と思ったけど。でも「何の話なんだろう」と考える甲斐はありそう。
個人的にはソーシャルメディアを筆頭に、(ある意味で魔術的ともいえる)テックの害悪さの寓話として読みたい面はあるが、この記事の監督の幼少時の話みて、あー…と思った。

2025年のホラーの元気の良さを色んな意味で象徴する一作だった。

 

『フランケンシュタイン』

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これはもうギレルモ・デル・トロ監督にとっての『フェイブルマンズ』なのでは…?と思えてくるような自伝映画。いや自伝映画であろうはずもないが、ついそう錯覚してしまうほどのオリジンみにあふれた怪奇映画だった。

フランケンシュタイン博士(クリエイター)と彼が生み出した怪物(モンスター)の複雑怪奇な関係が織りなす、美しき造形と色彩に満ちた物語の中に、デル・トロのキャリアのエッセンスがぎゅうっと濃縮されていて、彼が今どうしても作りたかったという熱意にも頷ける。「絶対に自分が撮りたい」という矜持もあったはず。

『フランケンシュタイン』、Netflix制作にありがちな「劇場公開してくれただけでもありがとさん」案件ではあり、公開数も全然多くはないのだが、頼むから映画館で観ておくれ〜〜と作り手が叫んでいるような作品であった(フランケンシュタイン的な矛盾…?)。

画面のトーンも全体的にあえて暗い(だからこそ時折の炎や衣装がもたらす色彩が強烈に輝く)ので、明るいおうちで観るとやや入り込みづらいかも。テンポも一般的な配信作品に比べれば若干ゆったりめで、閉鎖空間で2時間半じっくり浸ってね〜という作りになっている(個人的には全然長く感じなかったけどね、むしろもう終わり?と思っちゃった)。

『フランケンシュタイン』、エリザベス役がミア・ゴスなのもさすがに今「これしかねぇ」案件すぎた。ミア・ゴス、『X』『パール』からの今年の『マキシーン』(感想書きそこねたけど面白かったよ!)三部作で完全にホラーアイコンに躍り出てくれて何よりである。ただ思ったより出番少なかったからスピンオフ『フランケンシュタインの花嫁』作ってほしい…(別に結婚しなくていいから)

映画を機に読み返した、『ピノッキオ』のアート本に書いてあったのだが、「フランケンシュタイン」と「ピノッキオ」の物語こそが、ギレルモ・デル・トロにとっての2つの「神話」であり、人生そのものだったと。

www.netflix.com

たしかに(あんまり並べる機会もないが)どちらも「造られしもの」の物語だよね。非人間、異端者、クリーチャーの心を描く話。フランケンシュタインはわかりやすく「造る側」の話でもあるけど、『ピノッキオ』のゼペット爺さんの描かれ方も、また見直したくなった。

しかし自分に最も影響を与えた二つの物語を連続で映画化するってのも凄い人生だな、デルトロ監督(まとめに入ってる的なニュアンスじゃないといいが…)。二本立て上映してほしい。

 

変わりゆく世界。フェミニズム/クィア映画

たとえば10年前とかに比べて、フェミニズムが題材だったり、性的マイノリティが主人公だったりする「クィアな」映画は本当に増えたなと思う。2025年も良作が沢山あったので、カテゴリーとして分けてみた。日本でも女性首相が誕生、という一見めでたいニュースの陰で苛烈なバックラッシュも巻き起こっているようだが、だからこそ広く観られるべき映画が沢山ある。

 

NTLive『インター・エイリア』

www.ntlive.jp

ちょうどこの年末年始、劇場でやっているのでトップバッターに紹介。

フェミニストの女性判事(ロザムンド・パイク)が主人公の演劇で、名作『プライマ・フェイシィ』の製作陣ならではの社会批評的な切れ味とユーモアに満ちている。主人公は男性中心の法曹界で性暴力事件を多く扱ってきて、仕事と母親業を苦労しながらも両立してきた。そんな彼女に、ある悪夢のような試練が襲いかかる…という筋書き。ドラマ『アドレセンス』が席巻した今年観るにもふさわしい。

2時間未満とNTLiveでは短く、辛い話ながらユーモアも満載なので(注意喚起事項がOKなら)大変オススメ。

NTLive『インター・エイリア』、まぁ製作陣の前作も観たので別に心配はしてなかったが、もし題材のセンシティブさにビビって下手に「バランスを取ろう」として加減を間違えれば、筋書き的にはいとも簡単にMeTooへのバックラッシュにも振れてしまいかねない話なところ、繊細な語り口とバランスでうまく仕上げていて感服してしまった。

公的な立場で正義を追い求める人が、私的な領域でも必ずしも正義を全うできるわけではない、という話を描こうとして、「正義」の方を相対化してしまう手つきもよく見かけるけど、そういう幼稚さには堕していなくて、そもそも正義がなぜ必要なのか、という悪しき構造自体に目が向くようになっている。

『インター・エイリア』、本国でも今年の7月に上映された新しい演劇とのことで(NTLiveの日本配給さんも迅速公開ありがとう!)、非常に近しいテーマ性のある『アドレセンス』とマジで同時代シンクロ起こしたんだなぁ…という感慨もある。

たまたまこの2作が、ということでもなくて、『アドレセンス』みたいに社会現象化する(若者のSNS制限とか現実の法的な事象への影響もあった、とさえ言われる)作品の背後には、すでに社会に広く知れ渡った社会問題への認識があるものなんだよね。
結局のところ、創作とは広場で交わされる言葉から始まるってことなんだと思う。どっちも必見。

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『女性の休日』

kinologue.com

「女性は軽んじられるべきでない」と示すための、最も有効なやり方とは何か?それは…一斉に「休む」こと。ちょうど半世紀前の1975年、アイスランドで全女性の90%が、仕事や家事や育児を一斉に「休んだ」…つまりストライキを決行した。

この歴史的な出来事は「女性の休日」と呼ばれ、今や世界で最もジェンダー平等な国といわれるアイスランドにおける、女性の権利運動のターニングポイントとなった。
わずか71分に運動の始まりや過程をギュッと凝縮し、彩り豊かなアニメを駆使してユーモアも混ぜつつ語る。社会は変えられるという希望と闘志に満ちた一作。

運動に参加した女性たちの創意工夫も見どころで、クリスマスの母親/主婦の仕事とか報われないのに大変すぎるだろ、という意味を込めた、クリスマスツリーに張り付けにされる女性の人形とか、ユーモラスだけど痛烈でもあってアートとしての威力も凄い。
いまだ道半ばとはいえ50年(半世紀)でこれだけ社会は変わりうるんだな、とも改めて思える

あと『女性の休日』、体感では場面の半分くらいアニメだった気がして、半アニメーション映画といっても過言ではないかも。というのも「女性の休日」に参加した圧倒的多数が普通の人だし、時代も50年前なので、個々の映像資料なんて残っているわけないからね。

主軸は確実にドキュメンタリーだが、「現実」の素材だけでは描写不可能な点をアニメが補完し、さらに現実を際立たせるという意味では、『FLEE』とも近接するアニメの意義深い活かされ方だと感じた。

numagasablog.com

映画パンフの専門家コラムでも書かれていたけど、1975年の「女性の休日」ストライキは一大事件として確かに重要だったのだが、当然ながらそれを機に社会が「よし、これからは女性を大事にしよう」と悔い改めてすぐに男女の不平等が解消したかといえば一切そんなことはなく、5年後も女性議員は大して増えなかったし、女性運動の活動家でさえ「『女性の休日』は失敗だった」と述べたりしていたと。

しかし「女性の休日」が重要なのは、全てを変えたからではなく、「始まり」だったから。地道に不断の努力を重ね社会変革を続けたことで、女性大統領が誕生し、女性議員も増え、今のアイスランドのジェンダー平等先進国としての立ち位置がある。

女性の権利だけでなく、ブラックライブズマターとか、気候アクションとか、ウォール街選挙とか、アラブの春とかなんでもそうだが、ある時ワッと盛り上がった潮流が、そのままストレートに社会を変えるということはまずないので、変化が行き詰まったり、テンションが下がったタイミングで「あれはなんだったのか」みたいに言い出す人が必ず現れて、マジョリティを安心させる物言いなので流行りやすいんだけど、みんな歴史を短いスパンで捉えすぎなんだよね。

一回ワッと盛り上がった、と思ったらしぼんだ、ああ無駄だった、は短絡的すぎるし、変化を望む人はその短絡さに屈するべきではない。変化の歴史について教えてくれる『女性の休日』のような映画は、それを学ぶうえでも大切だ。

 

『ドマーニ!愛のことづて』

www.sumomo-inc.com

すでにイタリア映画祭2024で観ていて(当時の邦題は『まだ明日がある』)、昨年のベスト映画に選んでしまったのだが、今年めでたく『ドマーニ!愛のことづて』のタイトルで日本公開されたので改めてオススメ。

これほんと面白いよ。昔懐かしい家族コメディ白黒映画のスタイルを逆手に取って、DVという深刻なトピックとフェミニズム的な主題を、広い射程を見据えつつ扱う。ほとんどの人は全く予想しなかったであろう、ラストの飛躍も素晴らしい。

サブタイトルにむりくり「愛」みたいなワード入れちゃって〜、まぁイタリア映画の日本公開あるあるだな〜とか思っていたのだが、劇中で最後にちゃんと「愛のことづて」の由来も出ていて、すんません…と思った。もちろん原題"C'e ancora domani"「まだ明日がある」が完璧とは思うけどね。社会が押し付けてくる「愛」よりも、時代の進歩を信じようぜという、社会的に開かれた視点をもった映画です。『女性の休日』と二本立てすべき。

  • パオラ・コルテッレージ

 

『ガール・ウィズ・ニードル』

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鋭い(針だけに)フェミニズム視点がある今年の映画として外せない逸品。

「子どもを産む」ことを巡って(母親でも母親ではなくても)あらゆる女性が晒されてきた抑圧や欺瞞を、針のごとく刺す。

第一次世界大戦後のデンマーク、薄暗い路地裏で何が起こっていようが誰も気に留めなかった時代に、ショッキングな「事件」が起こる。その再解釈を通じて、この世界が常に女性に押し付けてきた、そして今も押し付けている歪みを浮き彫りにする。

デンマーク本国では知らぬ者のいない事件のようで、ネタバレも何もないそうだが、日本の観客はせっかくなら何も知らずに観たほうが良いかも。路地裏でぽっかり口を開ける「闇」の深さに震えたし、その闇は社会が作りあげたものでもある。ヘビーだけど日本の状況にもぶっ刺さる話なのでぜひ。

  • ヴィクトーリア・カーメン・ソネ

 

『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』

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フェミニズム的な映画というカテゴリーに、ハイクオリティな日本アニメ映画を並べられることを、けっこう嬉しく感じる。

第一章の「唐傘」も面白かったが(昨年ベストにも選んだ)、頭がクラクラするド派手な色彩世界はそのままに、今回の「第二章 火鼠」は大奥の女性たちの、跡継ぎを巡る生々しい権力闘争に光が当たる。

一方で典型的な「女同士のドロドロ」では終わらない、ある意外な連帯と共鳴も描かれ、日笠陽子さん(好き)の演技も相まって心打たれた。

アクションやバトルも相変わらずキレがよく、70分という短さながらしっかり満足感がある。キャッチーな美術やキャラクター、日本の伝統や歴史の引用、そして社会構造への批評的視点を兼ね備えた、(いっけん異端なようで)かなり理想的な現代日本アニメの形であるように思った。

『劇場版モノノ怪』シリーズ(TV版も見ねばと思いつつ未見)、抑圧構造の中で苦しみながら生きる女性の心情を描く、という方向性が二作目でさらに明確になった感。声優交代の際の制作陣からの声明(本作のテーマに照らし合わせて…的な)も、日本アニメではけっこう珍しい感じだなと思ったけど、作品をみると「なるほどね…」と。

前の『唐傘』面白かったんだけど、このテーマを扱う上で権力者の男たちがほぼ透明化されてるのってどうなんやろ、とは少し思ったので、『火鼠』でそこがプラスで描かれるのも良かったと思う。それがあってこそフキとあの人との繋がりの意義も際立ってくるわけでね。(そして次の「第三章 白蛇」は天皇とかそのへんに踏み込む感じ…?ハラハラするが、楽しみだ。)

あと『劇場版 モノノ怪 火鼠』、そこは別に期待してなかったけどマジでけっこうネズミ映画だったので良かった。ネズミのネズミネスを(ちょっと言いづらいけどたぶん精子のメタファーも込みで)抽象化したみたいな怪異のデザインも好み。動物アニメ(広義)にはずれなし!

 

『The Summer あの夏』

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2025年を代表するクィアなアニメ映画であり、ギリ入らなかったほぼベスト10級。

韓国の新鋭アニメーション監督ハン・ジウォンが、小説家チェ・ウニョン『わたしに無害なひと』の表題作をアニメ化。2人の少女が出会い、恋に落ち、大人になり、そして…という甘くも苦い物語を、繊細なタッチで描く。

百合アニメといえば間違いなく百合アニメだが、正直そう呼ぶのがちょっと憚られるほど、「女の子どうしの、ひと夏の儚い恋…」的な都合の良い消費に留まらない、社会的な眼差しこそが本作の特徴。保守的な東アジア社会(舞台は韓国だが完全に日本とも地続き)で生きるレズビアン女性が直面する現実への、しっかりした目線がある。わずか61分だが、忘れがたい一本となった。

「百合アニメと呼ぶのは憚られる」的な言い回しを聞くとイラッとする百合ファンもいるかもしれないし、その気持ちもわかる。ただ同時に、日本のいわゆる百合アニメに分類される作品の中で、本当に作中で恋愛関係だとちゃんと明言されるとか(←これはそれなりにあると思うが)、「この国では同性婚ができない」と社会システムへの批判的な言及があるとか、同性愛者が直面する差別や抑圧が描かれるとか、大人のレズビアン女性が出てきて普通に社会生活を営んでいるとか、そういう描写のある作品がどれくらいあるのか?とかも真面目に考えるべきよなと。

『The Summer あの夏』はそこを全部やっている。

正直もう予告編を見た時点で、日本のこういう女の子が出てくる系のアニメを見慣れてる人こそ、「おお、これは…」と思うんじゃないだろうか(逆に見慣れてないと「あっさりめな絵柄なのね」くらいに感じるだけかもしれないが)。

実際、日本アニメの影響下には確実にあり、作画的には全然こってりしてない、省エネといえなくもないタッチなのだが、かえって記号としての「女の子」ではなく、(劇中の言葉をうろ覚えで借りるなら)「肉と皮と骨をもつ人間」としてこの子達を描こうとしているのだな、となぜか伝わってくる。本編をみると、実際その通りだった。

『The Summer/あの夏』、実は原作アリと知らずに見たのだが、本編ちょっと見ただけで「これもう日本の百合アニメの影響とかよりは、現代韓国女性文学とかそういう文脈やろ」と察しがついたのだが、モロにチェ・ウニョンだったという(ド真ん中すぎる)

『The Summer あの夏』、チェ・ウニョンの原作小説『わたしに無害なひと』も読み返したんだけど、アニメ化するにあたって情報の取捨選択や、かなり複雑な情緒を言葉でなく映像による表現に置き換える手腕がとても上手いのがよくわかったし、やっぱハン・ジウォン監督、これは才覚あるわ…と思った。

レズビアンバーにスイがやってきたときのイギョンのちょっとした表情の変化とかで、彼女の心情ぜんぶ説明しちゃってるの「うわっ…」てなるし臓腑にくるのだが、シンプル(省エネといってもいい)な絵柄でよくあんな的確に描くよなと。
マイノリティを描いた作品にこの言い方ほんとは良くないけど、すごく「普遍的」な話に思えるのは、演出の力だよね、やっぱ。

『The Summer あの夏』、アニメだとそこまでクローズアップされなかったけど、韓国社会における女性蔑視(ミソジニー)というか憎悪は、原作小説ではもっとズシンとくる感じ。というのもサッカーの場面でスイに向けられる暴力の背景が、原作だとさらにえげつないんだよね(中学生男子チームと高校生女子のチームの試合で、男子が体を触ったりしてきて、からの…という流れ)。そのへんはさすがに映像で描くとエグすぎるから削ったのかもだが、映画だとあの野郎のニヤけた面一発で、社会にはびこるミソジニー的な情念を表現していて、あそこも臓腑にくる重さだった。こういうのも従来的な「百合アニメ」で表現しづらかった話である。

公開規模も小さかったけど、日本のアニメファンの間でもっと話題になるべき作品なので、配信などでぜひ。

  • 内田真礼

 

『美しい夏』

夏がタイトルに入った、女性同士の恋愛を描く映画、実はもう一本あった。こちらも素敵な作品であった。

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イタリアの巨匠チェザーレ・パヴェーゼの1949年の小説を、クィアなロマンスとして映画化したもの。

原作↓(ちなみにパヴェーゼ本人も「レズビアンの娘たちの話」と明言しているよ)

服職人の少女ジーニアは、年上のモデル女性アメーリアに出会い、自分の性や欲望に揺らぎながらも彼女に惹かれていく。

美しい芸術都市トリノを舞台に、バチバチに決まり倒したショットの数々にじっくり浸れる贅沢な2時間だった。絵画を軸にして「見る/見られる」「描く/描かれる」関係に潜む男女の不均衡を批評しつつ、その視座から女性同士の恋愛関係をビビッドに描き出したという点で、傑作『燃える女の肖像』も思い出すが、「時代ゆえの悲恋劇」に終わらせない力強さも感じた。

『美しい夏』、ちょいネタバレご容赦だが、こういうビジュアルからして時代感あり、タイトルも耽美で儚い感じのクィアロマンスで、病気が発覚したりして、いかにも「bury your gay(ゲイを埋めろ=性的マイノリティのキャラが死にがち問題を批判する言葉)」的な雰囲気が濃厚になってからの「いやまぁべつにあれよ?埋まらなきゃいかん法もないからね」的な、意表をつくタフネスが妙に面白かったし、心打たれた。埋まらんが??みたいな。

それにしても、『The Summer/あの夏』と『美しい夏』が同時期公開とは、2025年はなかなかのレズビアンサマームービーイヤーであった。(どっちも公開数が少ないのが心苦しいが…)

結末(思ったよりビターだった前者、思ったよりパワフルだった後者)も含め、じつは対照的な作品なのも面白いところ。好みはあると思うが、どちらも今描く意義が大いにあると思った。

 

『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』

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これも忘れがたい映画。宣伝だけざっと観た感じ、なんかヘテロロマンスなのかと勘違いしていたが、細やかな誠意をもって作ったクィア&フェミニズム映画だった。ゲイ男性と型破りな女性の、大都会でのルームシェア(とそれぞれの複雑な恋模様)を通じて、2人の強固な友情を描く。

韓国社会(いや日本もだが)に蔓延するミソジニーやゲイフォビアの汚泥に足を取られながらも、なんとか自分の納得いく生き方を探す2人の姿は応援したくなる。

ラブコメのように恋愛を主軸に据えたジャンルこそ、現実社会の問題から目を逸らすわけにいかない、という真摯さは作品に奥行きを与えるし、倣うべき。今これを作れる韓国映画界、やはりさすが。

ちなみに『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』、食事した後(いつも一人で映画みてる私としては珍しいことに)お友達とT-JOY品川のレイトショーを観に行く流れになり、なんとなく品川はビッグシティみもあるので(?)、本作のバイブスに合っていたが、さらに劇中でとある(意外な)登場人物が有名なクィア映画をレイトショーで観に行くくだりがあって、微妙に入れ子構造(?)で面白かった。

クィアな作品が、この汚泥に満ちた世界を少しずつとはいえ良い方向に変えているという、希望と微かな自負を感じる、他作品の胸を打つ活かし方であった。

 

『愛はステロイド』

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今年のお気に入りスーパー爆裂クィア映画。

レズビアン筋肉暴力犯罪LOVEスリラーという、まさに脚本にステロイドを注射したかのような過剰なまでの面白さで(脳が疲れるけど)最高の映画であった。

80年代末のアトモスフィアがむんむんと汗臭く充満するアメリカを舞台に、クリステン・スチュワートと、(ミッション・インポッシブル最新作でも話題になった)ケイティ・オブライアンのロマンスが楽しめるクィア作品であると同時に、とある大事件をきっかけとして、とにかく強烈な面白さで物語を牽引していく。

愛と筋肉という魔物に取り憑かれた女性の物語として、ぶっ飛んだまま駆け抜けていくが、現代のレズビアン映画としての矜持とパワーを感じさせる一本。

ところでダガー賞で話題になった『ババヤガの夜』がもし実写化するようなら、作者の王谷先生は『愛はステロイド』のローズ・グラス監督に頼みたいとどこかで言っていたそうで、ああ〜〜〜バッチリっすねと思った。『ババヤガの夜』実写化にあたって依子(難役なのは間違いない)がどうしても見つからなかったら、ケイティ・オブライアンにお願いするのも一考だと思う。

 

『クィア/QUEER』

クィア映画といえばそのものズバリ、なこの映画も。

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バロウズの小説をルカ・グァダニーノが映画化した。性的少数者(クィア)として喜びを渇望しながら貪欲に生きる男の、人知れず抱えた繊細な迷いや苦しみを描きながら、50年代メキシコのうっとりするような美術とファッションで魅せる前半、色々ぶっとんだ展開や絵面が連なる後半(趣きは激変するが)、ともに楽しい。

ボンド卒業後のダニエル・クレイグは(『ナイブズ・アウト』筆頭に)実に素敵なキャリアを歩んでいるが、新たな代表作になるだろう。ドリュー・スターキーは初めて知ったがめちゃオム・ファタールで、クィアノワールとしての本作を美しく彩る。あと地味にジェイソン・シュワルツマンがとてもイイ。

ダニエル・クレイグといえば今年は『ナイブズ・アウト: ウェイク・アップ・デッドマン』も最高だったのでセットで紹介。

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ミステリーゆえに大体ネタバレになってしまうので早くネトフリで観てほしいが、豪華すぎるキャスト(アンドリュー・スコットの使い方は逆に唸った)、重厚な美術、宗教心をめぐる鋭い脚本と、とにかく最後まで楽しかった。

ダニエル・クレイグのポスト「007」シリーズとして完全に堂に入ったと思うので、永久に続けてほしい。

本シリーズらしいパロ/メタ/批評的視線も山盛りとは言え、わりと古典的な王道ミステリーで2時間半も思い切り引っ張ってくれる作品ってもう稀有だよなと思う。

『ナイブズ・アウト』のブノワ・ブラン、この10年くらいを代表する新時代の探偵キャラクターとしての風格はバッチリだな。クィアな主人公(公式でゲイの設定)としても魅力たっぷりで、今回の『ウェイク・アップ・デッドマン』でも彼のマイノリティ性が、今回のテーマである「宗教」への眼差しに鋭さを与えていた。クレイグも映画『クィア/QUEER』を経由したことでまた味わいが増しているし。

ちなみに『ナイブズ・アウト』一作目は『名探偵ピカチュウ』と公開年が同じだよ(ふたりの名探偵がうまれた2019年)

 

『教皇選挙』

『ウェイク・アップ・デッドマン』と並べて観るべき、今年の話題作といえばこれ。このセクションに入れようか、ちょっと迷ったが、もう…いいかな!

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公開当時は「面白かった!ネタバレ一切踏まずに観て」としか言えず、本作におけるクィア要素とかも若干語りづらかったが、もう大ヒットして皆(デカ主語)みたわけだし、いいよね。

バチカンという密室で繰り広げられる、思惑と陰謀の渦巻く教皇選挙「コンクラーベ」を描いた映画。無類に面白い権力バトルに、現代世界の根本的な対立と希望が透けて重なり合う、精緻なガラス細工のような作品だった。

そして重要なのが結末。カトリック教会を舞台にして、宗教がもつ保守性、女性やマイノリティへの抑圧も鋭く照らしながらも、宗教が根本的に何を目指すものなのか、という問題にも踏み込んでみせる。そのうえでもう一段、「最後に教皇の座を勝ち取った人」のとある秘密を明らかにするシーンは、マイノリティ性を単なる物語上のギミックとして消費するに留まらず、現在も教会(だけでなく私たちの社会そのものも)ガチガチに縛る規範を照射し、未来の可能性へと飛躍してみせる、見事なラストだったと思う。

TOHO日本橋の最大スクリーンで観たが(平日昼だったが)久々に満席を見たな。実際に教皇選挙があったという奇跡のタイムリーさにも助けられたと思うが、評判も納得というほかない。圧倒的なエンタメ性と、キレのある社会批評性をこうも兼ね備えた映画は洋画といえどなかなかない。今更だが、とてもオススメ

  • レイフ・ファインズ

 

『ブルーボーイ事件』

海外の作品の紹介が続いたが、日本にも性的マイノリティを題材にした良作があった。

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1960年代の日本を舞台に、性別適合手術を巡る裁判を描いた映画。特筆すべきは主演の中川未悠さん(演技初挑戦とは信じがたい素晴らしい説得力と奥行き)を筆頭にした役者陣や、監督の飯塚花笑さんも含め、トランスジェンダー当事者の方を中心に制作陣を固めていること。

劇中で示されるようにマイノリティの道のりは前途多難だし、60年代と変わらないこと言ってる人多すぎだろ問題とか見ると暗くもなるが、こうした真摯な映画の存在自体に、時代は変わるもんだなとも思わされるし、変えていかなければならない。性的マイノリティを題材に描いた日本映画の新しい基準となるだろう、誠実に撮られた良作だった。

『ブルーボーイ事件』、なんといっても主役サチを演じた中川未悠さんですね。身近な女性としてのリアリティ、「60年代の美人」としての絵的な佇まい、観客の心に触れる脆さと芯の強さの繊細な表現、まさに完璧だったと思う。

こういう時「さすがマイノリティ当事者が演じてるだけあって実在感が凄い」的に語られやすく、実際そうだし良いことなんだけど、でも当事者だからって皆こんなに「わぁすごい実在感!」って思わせられるわけじゃないから(当然だけど笑)、才能あってこそだよね。こういう天性の役者さんが"普通に"娯楽大作とかでもどんどん活躍してこそ、本当に映画業界が「進歩した」と言える。

『ブルーボーイ事件』、脇を固める当事者キャストの皆さんもほんと良くて、重要な脇役であるアー子を演じたイズミ・セクシーさんをはじめ、わざとらしい感じはないのに実在感があり作品に奥行きをもたらすし、語りの当事者性と作品クオリティを同時に向上させる当事者キャスティングの重要性を改めて認識するのだった。

「演技とは"他者"になれることだから…」みたいな変にエモい言い訳で当事者キャスティングの重要性にケチをつけようとする向きもあるけど、映画や創作物がもつ複合的な意義への見識が狭すぎるだろと思うし、実際に当事者をガッツリ起用して成功している本作のような作品が増えていくことで、減っていく「言い訳」だと思う。

フィクションの中で、マイノリティ属性をもつキャラクターが死ぬとか殺されるとか悲惨な目にあいがちな件、ひとつのクリシェ(例:Bury Your Gays)として批判されていて、必要な批判だと思う一方、難しいのが、事実としてマイノリティはよく死んだり殺されたりしているので、現実のシビアさから目を逸らさせないという意味では、そういう描写から逃げないことが必要でもある。

『ブルーボーイ事件』でも実際そういう作劇上の難しさを感じる局面はあったんだけど、ここでBury Your Gaysみを回避/緩和するためにも大切なのは、複数or沢山のマイノリティを(当事者性とともに)配置するということなんだなと思った

 

『ディックス!! ザ・ミュージカル』

このセクションの最後は景気よく、今年最もふざけ倒したクィア映画で締めくくろう。

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ほんとに超おもしろかった。本当にひどい下ネタが圧巻のテンポで繰り出される、お子様NGなミュージカル映画(オフ・ブロードウェイ発)。

2人の「女好き」なセールスマン(演じるのはゲイの役者)が、生き別れの双子だと判明し、離れ離れの両親を再婚させようと奮闘するが、それどころではない大変な事態に…。

下ネタは本当にひどいが、有害マッチョネスや「伝統的」な性のあり方など、一部の人がグレートアゲインしたがっている概念をとことん笑いのめす陽キャエナジーが炸裂していて元気をもらえるクィア劇。全人類(本当にひどい下ネタが大丈夫な全人類)がいま最も観るべき映画のひとつだと真面目に思う。

『ディックス!! ザ・ミュージカル』、可能であれば予告編とかポスターもなるべく見ずに臨んでほしい。特に、とある衝撃的なキャラクターの登場シーンでは、何も知らないほうが主人公と同じショックを味わえると思うので。今あの「NOOOOO!」の絶叫を思い返すだけで笑える。

ほんと最高の映画だったが、「映倫が定めた本作のレーティングはR15+ですが本編には大変不謹慎で過激なシーンがあるため、18歳以上の鑑賞を推奨します。」という注意書きが公式に出ていたりするので、万人にオススメすべき作品とはいえないのは確かであろう。そんな注意書きあるんだ…

そんな『ディックス!! ザ・ミュージカル』、全編に至って過激ではあるのだが、特に最後らへんの「過激さ」については、「こういうのやったら最近は怒られちゃうのかな〜(ちらっちらっ)」みたいな、よくあるヌルいやつではなく、マジで全方面を怒らせかねないので凄かった。

でも、たぶん現在の社会でも99%の人が「いくら"愛は愛"っていってもそれはこう、アカンのでは…!?」と言いそうではあるものの、なぜアカンのかの理屈を実はちゃんと説明できなさそうな"愛"という意味で、ドンピシャに絶妙なラインを突いてきたとも言えるので、実はすごいよく考えて作った知的な映画でもあると思う。下ネタは本当にひどいが…。

たとえばトランプとか極右が信奉している思想や価値観はちょっと考えれば本当にバカみたいで笑えるし、嘲笑されるにふさわしいものだと再確認できるのも、「笑い」の本質的な力であるなぁ…と『ディックス!! ザ・ミュージカル』見てつくづく思えて良かった。あと少しでベスト10に入れていたが、さすがに『ワン・バトル・アフター・アナザー』とかにも勝るだろうか、などと熟考の末、ギリで外れた。でも最高だった。大好き。

お正月に家族みんなで観よう↓(嘘、絶対やめとけ)

  • ジョシュ・シャープ

 

古いゆえに新しい!リバイバル映画

劇場の事情もあるのかもしれないが、名作のリバイバルもかなり盛んな年で、改めて観て素晴らしいなと思えた作品が沢山あったのでカテゴリーにしてみた。

『七人の侍』新4Kリマスター版

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1954年に撮られた207分の映画が今みてもこんなバキバキに面白いのは凄いことだ。マジモンの黄金クラシックでありながら、時代劇、サムライ映画としても実は相当に特殊な映画なんじゃないかと思う。

「侍」の廃れと死を描くビターな味わいに貫かれながらも(しかし完璧なラストだ)、『ローマの休日』のオードリー・ヘップバーンさながらの(?)三船敏郎の輝きを筆頭に、敗戦を経てアイデンティティを揺らがされながらも次の時代に移りゆく戦後日本に確かに存在した煌めきを映し取った、一世一代の青春映画のような趣きも感じた。

『七人の侍』をベースに、侍をガンマンに置き換えた西部劇が『荒野の七人』なのは有名で、リメイクしたフークワの『マグニフィセント・セブン』も好きなんだけど、やっぱ本作の肝って「侍」と「百姓」の関係性が全てみたいなとこあるから、他の国の何かでは根本的に置き換え不可能な気もするのよね。

もちろん用心棒ものの構造自体は王道だし、ガンマンと先住民、とか面白いリメイクやる余地はあるんだけど。「勝ったのはあの百姓たちだ、わしたちではない」というラストの名セリフの悲しさと力強さ、他の何を当てはめても出せないように思う。(『RRR』が何をどうしようと他の国で設定変えてリメイクできないだろうな、という感じに近いかもね)

『七人の侍』、映画館で観て本当に面白かったが、よく言われるようにセリフはかなり聞き取りづらいので、(せっかく左右にちょうどよさげなスペースあるし)もう字幕上映でいいんじゃないかとは思った。激昂した菊千代のセリフ(後述)とか聞き逃すには重要すぎるし。ただ多少なに言ってるかわかんなくても文脈から大体伝わるし、わからなくても別に面白さに支障ないというのはなかなか凄い気もする。セリフに頼りすぎない場面構築が上手いと70年後も観客が助かるという好例だ。

『七人の侍』、落ち武者の刀や鎧を百姓が盗んで集めてたという事実に直面して「えっ…」と引いてる侍たちに対して、激昂した菊千代が「おめーら百姓をなんだと思ってんだ、百姓は汚いこともなんだってやるんだ、だが百姓にそうさせてんのはおめーら侍だろうが!!」と言い放つくだり、まぁやっぱエバーグリーンな名作の「格」とはこのことだよなと思わざるをえない、多少のセリフの聞き取りづらさなんか薙ぎ倒すほどの真実味と普遍性、力強さがある。今の(特に自分をサムライになぞらえがちな)政治家とか全員このシーンみて自分たちの言動について良く考えるべきだし、それが弱者を叩く方向に向かっているなら、恥じるべきだと思う。

一回も観たことなければまぁ絶対一度は観るべき名作です。ぜひ4Kで。

  • ノーブランド品

 

『落下の王国 4Kデジタルリマスター』

rakkanooukoku4k.jp

リバイバル・オブ・ザ・イヤー2025、間違いなくこれでしょう(or『七人の侍』)。びっくりするほど人が入ったそうで何よりだ。みんなそんなに好きだったとは…!

きっと本当は映画関係者は全員こういう映画が作りたいけど金とか客とか色んな事情があって諦めているのだが時として全部ぶっちぎって作ってしまってしかも成功する伝説の一作が砂漠の蜃気楼のごとく現れる、しかも蜃気楼だけあって観る手段もなぜか極めて限られていたのだが今や映画館で4Kで観られるというわけなので本当にみんな観に行ったほうが良い。まだやってるので。

意外と、でもないが、お話は必ずしも万人向けではないどころかまぁまぁひどくてちょっと笑ってしまうのだが、全銀河映画連盟みたいなとこに地球代表の映画として1本だけ送れるならこれを選びたくなる美と力に溢れている。

『落下の王国』、バッキバキのアート映画だがわかりづらさや難解さがほとんど皆無なのも凄いというか、こんな(意地悪といってもいいような)凝った作りなのに観客の解釈が分かれづらそうなのも感心してしまう。良い意味で観客に委ねてない。

冒頭の一連の映像からしてもうあまりにカッコよくて笑えてくるのだが、ただでさえタイトルで直球に示している「落下(原題はThe Fall)」というアクションを最初から執拗に反復してくれるおかげで、ちゃんと劇中で何か「落下」が起こるたびに観客が「おっ」と思える親切設計。よく考えるとかなり「ひどい話」なのに最後はきっちり映画史に落とし込んでイイ感じに締めてくれるという点でも親切。

『落下の王国』、生成AIでいちばん作れなさそうなタイプの映画という意味でも今みるべき価値が大いにあるかもしれない。AIどころか、ロケとか衣装が必要なくて絵の自由度が格段に高いはずのアニメーションでさえ、このレベルで「絵が強い」作品はほとんど登場していないことを考えても、やっぱ真に「見たことない」、オリジナリティある創作の肝にあたる部分って結局は人間がやるしかないと思うんだよね今後も。二流のコピーなら機械学習で量産できると思うけど、『落下の王国』が到達しているような人間の無意識の深層に眠るものは、それこそ人間自身が「落下」してすくい取ってくるしかないのだ(うまいこと言ってみた)

 

『サウンド・オブ・ミュージック 4Kデジタルリマスター』

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おそらく世界一有名なミュージカル映画であり、世界一有名な曲が10曲くらい歌われる驚異の音楽映画だが、意外と作品そのものを観たことがない人も多いかもしれず、「あれでしょ?草原で歌うんでしょ?」くらいのイメージかもだが(草原で歌うくだりは間違いなく名シーンだが)、ナメてる人はマジで一回観た方がいい。

特に「私のお気に入り」→「ドレミの歌」の二大有名曲が連発する流れとか、ミュージカル映画としてまさに神がかっていて、本物の映画の奇跡が起きている。
ファシズムに踏み躙られた音楽の魂に捧げられた未来への祈りが、今の時代にもまっすぐ突き刺さる。

『サウンド・オブ・ミュージック』、いくら名作とはいえさすがにこんな全部?と笑ってしまうほど名曲オンパレードだが、どうしても1曲だけ選べと言われたら「My Favorite Things」かな。

ミュージカルシーンとして素晴らしく、ジュリー・アンドリュース&子どもたちの輝くような演技、外で雷の鳴る(迫りくるファシズムも象徴するような)寝室というシチュエーション、恐ろしい世界で「好きなもの」を歌って希望を灯す歌の内容が完璧に噛み合っている。これを途中で一回ぶったぎる贅沢さも凄い。

『サウンド・オブ・ミュージック』、音楽映画としての面白さは概ね前半に集中している、というかほぼ全て前半で片付けてしまうという今見ると大胆な構成。前半では短時間で名曲を怒涛のように繰り出して観客を圧倒しつつ、後半はそのリプライズによって時代や人間関係の移り変わりを繊細に提示していく。

後半はマリアとトラップの恋愛という、現代の視点で見ると若干つまらん方向に物語の流れが回収されてパワーダウンする点だけ惜しいのだが、終盤で「ファシズムvs音楽」の構図が明示されることで再び劇映画としてヒートアップし、同時に音楽映画として真に伝えたかったメッセージが前景化する作りは、さすがに名作だなと格の高さを感じた。どこもかしこもキナ臭すぎる今、見返したほうがいい傑作古典ミュージカル。

  • ジュリー・アンドリュース

 

『ヤンヤン 夏の想い出 4Kレストア版』

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エドワード・ヤン監督の遺作のリバイバル。台湾で生きる少年とその家族の悲喜交々な暮らしを、繊細かつ美しく構築されたショットの中に捉えながら、一度きりの人生と変わりゆく時代を映し取る。色んな国の20世紀ベスト映画に選ばれてるのもなるほどな、と思える風格だった。

「なぜ皆の後ろ頭ばっかり撮るの」と聞かれたヤンヤンが「だって自分では見えないでしょ」と答えるセリフ(とそれに続く葬式でのスピーチ)は、極めてシンプルながら、どうして人が映画を撮るのか、芸術を作るのかを、この上なく明快に表現していて見事。これが遺作なのは、残念であると同時に、凄い終わり方だ。

『ヤンヤン 夏の想い出 4Kレストア版』、イッセー尾形が演じる日本人ゲームデザイナーの太田が、じつに忘れ難いキャラで、「こんな"日本人キャラ"って初めて見たな…」と思った。明らかに「不思議な外国人」として描かれた日本人なのだが、なんか欧米の作品で描かれるステレオタイプ日本人とも全く違うし、かといって国内作品でこんな絶妙に奇妙だが変なリアリティもある「外国人」としての日本人を見ることもないし、太田が出てくるたびになんだかフラフラしてくるのだった。(ハトが苦手なイッセー尾形も戸惑ったらしい笑) 台湾だけでなく日本も制作に入ってる映画で、熱海とかけっこう日本ロケもあるのだが、それにしても絶妙なキャラだった。

『ヤンヤン 夏の想い出 4Kレストア版』パンフレットもちゃんと作ってる(最近はリバイバルもちゃんと凝ったパンフ作ってくれてエライね)。山中遥子監督とか真利子哲也監督とか岩井俊二監督とかコラムも豪華。専門家の当時の台湾の政治/経済事情などもあって読み応えある(よく知らんのでありがたい)。こうしてみると、とても限定的な視点を描いていたようできっちり社会の激動を背後で映し取っていたんだなと。

現代の気鋭の日本映画監督みんな好き、ロッテントマト100%フレッシュ、みたいな必見作なのでみんな観ようね。

  • ウー・ニエンジエン

 

『海がきこえる』

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今年のリバイバルで地味に良かった枠。

久々に見るな〜とか思ってたらまさかの初見だった(たぶん)。平穏な高知に転校してきた小さな嵐の如き女子・武藤が引き起こす人間関係のさざなみをじっくり描いた作品で、たった72分ながら満足度が高い。知る人ぞ知る逸品としての評価も納得。ジブリ作品としては異色オブ異色だが、いま見てこそフレッシュな感覚を与えてくれる。

登場人物が記号の組み合わせではない、こういうリアル寄りタッチの日本アニメってなんで(ほぼ)絶滅したん…?と無念になるほどだが、世界的にもいうほど類例は多くないと思うので、これが作れた90年代日本アニメ界の豊かさも思う(今はあらゆる意味で無理そう…)。

『海がきこえる』の武藤、「おもしれー女」ミームで片付けるのも粗雑すぎるとはいえ、実際おもしれーのはいかんともしがたく、影のある文武両道ミステリアス転校生の面持ち…からのまさかの借金の申し出、からの(アニメとかでは意外と描かれないラインの)絶妙に迷惑だがちょっとワクドキするトラブル(旅行の急な行き先変更・押しかけ飲酒&即寝など)を日常に巻き起こす。

それもいわゆる「迷惑系ヒロイン」的な記号の組み合わせにとどまってなくて(「生理重いんで…」的なセリフもあったり)、理不尽な言動や、告白の断り方とかもだいぶ酷くて笑ってしまったが、全体的に「こういう子、いたし、いるだろうな!」という実在感と重みがある。

『海がきこえる』の武藤の、たしかに理不尽でもあるけどまさに「他者性」を尊重された繊細な描かれ方にいっそう心打たれたのもある。作り手だけでなく、受け手の成熟度の問題でもあるんだろうな…と思ったり。

『海がきこえる』、恋愛ものと言って良いのかは正直よくわからなくて、むしろ主人公→松野の妙にデカい感情の方が目立つのでBLクィアリーディングしたくなる雰囲気だった。ラストで一応は武藤への恋愛感情としてまとめるんだけど、個人的には蛇足というか、ない方が深みが増したと思う(けどそれやると93年の作品としては野心的すぎたか…)。

終盤、主人公が武藤との思い出を振り返るシーン、冷静にみるとロクな思い出がなくてちょっと面白いのだが、でも人生や人間関係ってそうだよね…「良い思い出」だけで構成されてるわけじゃない、「あの時間、何…?」みたいなこともあるし、でもそれも含めて豊かなんだよな、みたいな解釈もできて。

『海がきこえる』、まぁ90年代だなという描写もちらほらあるし(盗撮写真を購入すな〜等)、ナチュラルに未成年飲酒キメてたりもするので、テレビ放映むずかしいのもわかるし視聴ハードルも高いが、当時のジブリの若手が作った「野心作」が今みても全然フレッシュに感じられるのはやっぱ凄いし「マジで野心あったんだな…」と感銘。このラインが潰えたのはほんと日本アニメ界、てか世界のアニメーションにとっても損失だと思う。今からでもどうにかなってほしい〜

 

『天国の日々 4K』

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テレンス・マリック監督の1979年の作品で、たまたまやってたのでよく知らずに観たのだが、あまりに美しい絵作りに陶然とした。マジックアワーの光にこだわりすぎて制作現場がガチで破綻しかけた(1日20分しか撮れないなら当然だが)甲斐もあり、画面の全てに「天国」の優しく哀しき光が満ちている。

純然たるアート映画と思いきや、けっこうド派手なスペクタクルがあるのも嬉しい。途中思いっきりフェルメールみたいになっていたが、まさにその場面が大厄災の前触れというのも凄い。

死ぬほど苦労して一滴ずつ集めた奇跡の甘露をがばがば飲ませてもらえるような、贅沢な体験に感謝。映画って本当にコスパ最高ですね(←ひどい淀川長治)

 

いぶし銀!日本映画

今年は『鬼滅』や『国宝』など日本映画がぶいぶい言わせていたようだが、そこまで派手なスポットライトを浴びずとも、いぶし銀な良作が色々あったので、まとめて紹介。

 

『どうすればよかったか?』

dosureba.com

統合失調症を発症した姉と、彼女を軟禁し続ける両親。その姿を監督が20年以上にわたって記録した壮絶なドキュメンタリー。特殊な地獄に陥った家族の、なぜか普遍的に感じられる泥沼に浸かった後、タイトルの問いが幾重もの意味をもち、吹き抜ける風のように響く。

タイトルと裏腹に、この家族が「どうすればよかったか」考えてね、という相対主義的な話でもない。どうすればよかったかは明白だ。両親は姉を閉じ込めたりせず、しかるべき医療を受けさせるべきだった、以上。明らかに監督はそう考えて撮っているし、大抵の観客はその「答え」に同意するはず。

だが、"にもかかわらず"、この「どうすればよかったか?」という問いが、重い意味を帯びてずっしり心に残るという事実が、本作の特異なところだし、「医学的資料」ではなく映画という芸術として特別な意義を持つのだと思う。唯一無二の作品というほかない。監督のお姉さんの人生が、唯一無二であるように。

題材的にも配信とかはしない感じかなぁと思ったが、とりあえず本はあった↓

 

『敵』

happinet-phantom.com

タイトルでもあらすじでもどんな話か全然わからないまま、『桐島』吉田大八監督の最新作なので観なきゃな〜と観に行ったが、日常侵食サスペンスとして楽しめた。

退職した大学教授の平和な生活に、彼の内面の混乱なのか、はたまた本当の「敵」なのか判然としない"何か"が忍び寄る。その過程をじっとりと描くモノクロ映像が冴えていたし、(主人公はmac使ってたり意外とハイテクなのだが)変に現代っぽい雰囲気を出さなかったのも正解だと思う。

彼に起こったことが何なのかは解釈分かれそうだが、この主人公みたいな感じの生活を送る人がこれから日本に増えていくであろうことを思うと、不穏で示唆的なことは間違いない。

辛いが面白いので2025年の実写邦画ではトップクラスにオススメ。

  • 長塚京三

 

『死に損なった男』

shinizokomovie.com

どうも映画ファンもあまり観ていなかった気配あったが、とても良い日本のエンタメ映画でしたよこれ。

駅のホームから飛び降りようとするも「死に損なった」構成作家のもとに、なぜかおっさんの幽霊が現れて、まさかの「殺人」を依頼され…!?という怖くも笑えるサスペンス。予告みて「なにこれ面白そう」と思ったら、監督/脚本がめちゃ面白い『メランコリック』(殺人銭湯のやつ)の田中征爾だった。

(おっさん幽霊という飛び道具はありつつ)スケールは小さく個人的な物語ながら、良くも悪くも「実際に人が生きてる」感じにあふれていて、結果として1本の映画にぎゅっと「社会」が詰まっているような作風、やはり好き。エンタメに徹してることも含め、こういう日本映画がいま一番ほしいラインかも。

ありがちな邦画の予告を立て続けに観て、ちょっとうんざりしていただけに、この『死に損なった男』の予告編はなかなか輝いて見えた。「サスペンスやコメディを強力に構築していることが伝わり、変にウェットな方向に流れず、きっちり面白そうだと思わせてくれる」という点で、こう言ってはなんだが珍しい気がする。実際みてみたら本編もきっちり面白かったし。みてね↓

  • 水川かたまり(空気階段)

 

『遠い山なみの光』

gaga.ne.jp

見ごたえある2025年の実写邦画がまたひとつ。カズオ・イシグロの長編を、美しく精緻な撮影や美術によって映画化。1950年代の長崎を主な舞台に、時空を交錯させながら、複雑な時代を生きた女性たちの秘密に迫る。

原爆被害者らが体現する犠牲者としての面と、断固として存在した加害者としての面の間で揺れる日本の姿を、人の姿で体現するかのような人物造形と脚本の妙が光る。
リアリズムを重視しながらも、良い意味で邦画離れした強力なビジュアルを構築できる石川慶監督(『蜜蜂と遠雷』『Arc アーク』『ある男』)の最新作としても充実してるし、国内でも色んな賞を取るんじゃないでしょうか。

『遠い山なみの光』、SNSでちょいちょい言及する「脚本が強い/弱い」の基準でいうなら、これはもう文句なしに「強い」脚本だと思う。日本で暮らした一個人の人生を端正に描くことを通じて、人と社会を巧みにリンクさせている。個人的には(大ヒットはめでたいが)『国宝』にこの成分がもっとほしかったと感じていたところ。

日本社会の後進性や歴史の暗部も踏まえつつ、それらを人々が時代の中で犯した具体的かつ致命的な失敗や過ちに重ねながらも、個人/社会どちらのスケールにおいても希望や可能性を提示してみせる。とある「意外な真実」も、実は原作と違って解釈に曖昧な余地を残さなかったというのも、物語の力強さにプラスに働いてると思う。

配信はまだだったけど原作は読めるよ↓

 

『旅と日々』

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『夜明けのすべて』『ケイコ 目を澄ませて』など、映画ファンの間でいま一番くらいに注目されている三宅唱監督の最新作。ドキリとするような鋭い批評性をもつ(河合優実のこんな活かし方が…)劇中映画を経て、脚本家の女性(シム・ウンギョンさん、『新聞記者』でもおなじみ)が旅に出る。

三宅監督の過去作以上に静かで、正方形の画面に収められた、雪の降る地方の美しい風景、そしてそこで繰り広げられる(形式だけはテンプレ旅映画っぽいが)「良い話」なのかわからない人間模様には可笑しみと緊張感があり、なぜか目が離せない。刀の一振りのようにすっぱり終わる映画だが、89分よりもっと短く感じた。さすがの業前。

シャープで渋くて良い映画だったが、公開初日『羅小黒戦記2』→『旅と日々』→『羅小黒戦記2』当日2回目、という『羅小黒戦記2』サンドイッチで観てしまったので、微妙に印象が薄れてしまっていた…。まだ劇場でやってるので観てね

 

『ひゃくえむ。』

hyakuemu-anime.com

今年の日本アニメ映画ではベスト級のひとつ。

100メートル走に全てを賭けるスポーツ選手たちを描いた漫画原作のアニメ映画。人気漫画家の中編を一本の映画にキレ良くまとめた点では『ルックバック』に、ロトスコープをリアル寄りなアニメーションに巧みに取り入れた点で『化け猫あんずちゃん』に連なる最前線っぷりを感じる。

本作のフレッシュな点は、スポーツを題材に扱いながら、熱血やエモから(少し冷徹なほど)距離をとることで、一流のアスリートが実際に見ていそうな、どこか寂しく無慈悲な世界を説得力をもって提示すること。

無骨なキャラデザや題材の地味さが人を選ぶ点はあるだろうが、特異であることを恐れない、こうした日本アニメは応援したい。

『ひゃくえむ。』、全体としてスポーツものにあるまじき温度と湿度の低さが個人的に好ましかったのだが、個人的に最も興味深かったのは「一流のプロフェッショナルの世界、意外と虚しい」ということをけっこうなリアルさと説得力をもって描写していたことで、大谷翔平とか藤井聡太とか米津玄師とかが見ている世界も意外とこれくらい荒涼としているのかもしれない(いや知らんけど)と思うのだった。

ものすごいハードな競争を勝ち抜いて、みごとトップに君臨したが、でもだからこそ何もかも本質的には無意味なのでは…?という恐ろしい真実を人よりも自覚せざるをえない。でもそこを描くからこそ、走ること自体の喜びが一瞬の輝きを放つという。

『ひゃくえむ。』、ロトスコープを用いたアニメ表現の新しい実例としても見どころがあり、もちろん走るシーン(レース前の準備運動から丁寧に見せていく)も良かったけど、日常芝居もなんか独特の面白さを生んでいた。リアル寄りのキャラデザも相まって、ちょっと今敏みたいな雰囲気になる瞬間がある。

近作『化け猫あんずちゃん』よりも、従来的なアニメ表現に寄せる度合いが少し低い(会話中の体のふらつきとかも逐一描写する)ので、そこを違和感と捉える人もいるかもだが、人間って実際はこんくらいフラフラしてるよなと思うし、逆に普段みてるアニメがいかに日常的な人間の挙動からかけ離れているか気付けるという意味での面白さもあった。

『ひゃくえむ。』、話が超面白かったかとか言われるとそういうことでもないのだが(わりと明白にアンチカタルシス的な映画なこともあり)、アニメーション表現を中心に、日本アニメの挑戦の最前線という文脈で興味深く鑑賞した。

原作も評判よいので読むべきかもしれない↓

 

 

窓を開けよう!ヨーロッパ映画

「ヨーロッパ映画」という括りはなんかデカすぎる気もするが、まぁ「日本映画」だってデカイし、いいか…と。なんだかんだベスト級に食い込んでくるのはアメリカよりヨーロッパが多い印象なので、相性もあるのかもしれない。閉塞の都会に窓を開けるかのように、貴重な欧州映画を上映してくれる劇場関係者の皆さん、ありがとう。

 

『ファンファーレ!ふたつの音』

movies.shochiku.co.jp

年間ベストに入れても全然いいくらい良かったフランス映画。若き天才指揮者が、病気をきっかけに生き別れの弟の存在を知る。ほんのわずかな運命の行き違いから、全く違う人生を送ってきた二人を、唯一結びつけるものが「音楽」だった。

富裕な文化人の最上層の兄と、炭鉱町で働く労働者の弟が、互いの埋め難い社会的断絶に圧倒される様も逃げずに丁寧に描く。

だからこそ最後の「演奏」は、今年の全映画のエンディングでも屈指の名シーン。「音楽の素晴らしさとは、異なる人々を結びつけることだ」という、言葉にすれば退屈きわまりないテーマを、一切のセリフなしでこれほど感動的に描くことができる。これぞ音楽映画が目指すべき境地だと思う。

『ファンファーレ!ふたつの音』、良い意味でフランスらしい、社会の格差をシビアに捉えた視線に満ちているのが見どころ。炭鉱会社に吹奏楽団があるとはさすがフランス…とか思いつつ、その音楽への眼差しも決して甘くなく、現実の問題(工場の労働問題など)が「音楽の力」で解決したりは全くしない。様々な人が色々な事情を抱えて生きているこの世界で、音楽はあくまで不平等に分配された芸術にすぎず、しょせんちっぽけな存在と言えばそうなのだ。

しかしだからこそ、かえって「音楽の力」が絶大なものに思える瞬間がある、というのが面白い。現実社会や人々のリアルをきっちり描くことで、エンタメの中で芸術の力と意義を力強く示した好例。

また引き合い御免だが、『ファンファーレ!ふたつの音』観ていて、『国宝』にまさにこの「社会」への視点が少しでもあればな…!とはやっぱ思ってしまった。『国宝』、歌舞伎がそもそもは大衆娯楽であり、「一般人」にこそ開かれたものだった、みたいな視点が皆無なのもなんだかな〜と思ってて(ドサ回りシーンは象徴的)。『ファンファーレ!』のクラシック音楽の開かれっぷりが成立するのは間違いなくフランスの固有背景もあるが、「普通の人」の視点を完全に廃して閉じるよりも、よほど古典芸術の深みや格、可能性を際立たせることに成功してたと思う。

2月に配信とか来たらぜひ観てほしい。

 

『ナイトコール』

cinema.starcat.co.jp

なぜか思い立って映画紹介イラストを描いていたので、こちら参考にしてね。

こういう映画が一番好きかもしれない(こういう映画が一番好き、多いな)

 

『ニーキャップ』

unpfilm.com

北アイルランド版『RRR』みたいなノリ(ただしふざけ倒してはいる)で面白かった! 「ベルファスト映画のオープニングといえば爆破テロだが…?」という冒頭から笑うのだが、波乱の地・北アイルランドのヒップホップグループのオリジンと、その政治性が爆発的なうねりを生む過程を描く。

字幕や文字装飾をギャグとして巧みに活かしているが、「ドードーのように絶滅寸前」のアイルランド語でラップしてやんぜ!という物語のスピリットを思うと必然性がある表現である。

アイルランド語を話す主人公に対する、警官の「俺が字幕なんざ読むと思うか?」という暴言とかメタで面白いが、同時にかなり本作の本質を突いている。

『KNEECAP ニーキャップ』、ラップグループのメンバーが基本的にいつも薬物かアルコールを摂取していたり、ライブ中も概ねトリップしていたりと(ポスターにもあるように)たしかに振る舞いとしてはカスでありつつ、しかし社会人としてはド底辺だが消えゆく地元の言語を使って一発かましてやんよオラッ!とぶちあげた音楽が、まさに「政治」ど真ん中な領域でダイレクトに爆炎をあげる様が、とりわけアーティストが政治性を忌避し脱臭しようとする(させられる)日本から見るとなおさら感動的なので、広く観られてほしい。

 

『ローズ家 〜崖っぷちの夫婦〜』

www.20thcenturystudios.jp

ひでー話だけど好き! イギリスを代表する2人の名優が、夫婦仲がえらいことになってるカップルを演じる、ダークだがいっそ明るいコメディ。超豪華キャスト陣がバカやってる姿を見てるだけでも楽しいが、「こんなはずじゃなかった人生」の深い悲しみを捉えた普遍的な悲喜劇でもある。

こういう軽妙洒脱な(いや起こることはマジでひどいけど…笑)コメディ、劇場で観るたび「もうこんな作品は映画館で観られないかも…」と哀しいが、なんとか生き延びてほしい。

冒頭からめちゃ笑えて脚本いいな〜と思ったら『哀れなるものたち』『女王陛下のお気に入り』のトニー・マクナマラだった。そりゃいいわ。

『ローズ家 〜崖っぷちの夫婦〜』、ベネディクト・カンバーバッチとオリビア・コールマンはそりゃ素晴らしいのだが(今知ったが誕生1976年/1974年で年近いのね)、アンディ・サムバーグ、チュティ・ガトゥ、ケイト・マッキノンなど(なんだよあの人…笑)、脇役もいちいち外せない感じで異様な見ごたえがあった…。

こういう超豪華キャストのコメディ映画、日本にはなかなか入ってこなくて…というより、本国でさえかなり珍しくなってしまっているのかもな。難しいのもわかるけど伝統芸能として年イチくらいでは作ってくれ〜

  • Benedict Cumberbatch

 

『入国審査』

movies.shochiku.co.jp

移民ビザを取得してアメリカにやってきた夫婦が、イチャモンみたいな入国審査に囚われ、極限状態に追い込まれる、タイムリーな密室サスペンス。

時間もわずか77分で舞台も極小、超低予算と思われるが、それでもここまでビビッドに「世界」の今を描き出せるという、映画の可能性を象徴する一作。

トランプ一期目の時代設定で撮られた映画が、全てがさらに悪化した二期目の今、またアクチュアリティを増したのは辛いことだが、時代を超えた権力と排除の寓話としても見応え抜群。
アメリカもたしかにおかしいが、日本もずっと海外からの移民や労働者に多かれ少なかれこれくらい理不尽な接し方をしてきたことを踏まえると…なかなか他所の国の話としては観られない。重要作です

  • アルベルト・アンマン

 

『ボサノヴァ~撃たれたピアニスト』

bossanova.2-meter.net

ボサノヴァとかたいして知らない音楽ジャンルながら、単純にアニメーションとしてかなり惹かれたので観に行ったのだが、とても良かった。音楽に愛された純粋な天才アーティストが、中南米の政治の激動によって、謎の疾走を遂げた。その生涯をジャーナリストが追う過程を、ほぼドキュメンタリーに近い作り方で描いたアニメーション(その意味で『FLEE フリー』を強く想起)。

一方、明らかにアニメにしか不可能な「音」の視覚的表現を存分に発揮し、見応え/聴き応え抜群。『ボサノヴァ~撃たれたピアニスト』、この予告編みて「うひょ〜」となるアニメ好き/音楽好きはほんと観てほしいな。

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スペインの監督による音楽的なアニメで、かつNYなどの町並みをシンプルな線と大胆な色使いで美しく表現…という点で直近の『ロボット・ドリームズ』も思い出す。
こんなに美しく彩られた世界と、そこから生まれる音楽が、全体主義的な政治の激化によって踏みにじられていく過程が辛いし、よく考えたら「歴史のひとコマ」じゃなくて、完全に「いま起こってること」じゃねーか…と思うと、絵と音の美しさに浸ってもいられないのだった。

今のところ配信とかも特にないが、期待したいところ…。

 

イタリア映画祭2025

わりと行ってるイタリア映画祭、2025年はほぼコンプするくらい観られたので記録。

「イタリア映画祭2025」 現在7作品鑑賞。 『戦場』 『ピンクのパンツを履いた少年』 『シシリアン・レターズ』 『隣り合わせの人生』 『ロミオはジュリエット』 『はじめての大切なもの』 『にもかかわらず』 どれも見応えあるけど、今のところベストは『隣り合わせの人生』かな(オチはあまり好みじゃないが)。画面の緊張感と強度が圧倒的でシンプルにカッコいい映画。 特別上映のパオロ・ヴィルズィ監督の『はじめての大切なもの』もさすがに良い。同監督の『乾いたローマ』年間ベストに入れたので観れて良かったな

ぬまがさワタリ@『いきものニュース図解』ほか3/19同時発売 (@numagasa.bsky.social) 2025-05-04T11:23:25.058Z

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どれも面白かったけど、特に良かったのは次の3点かな。

 

『動物誌、植物誌、鉱物誌』

今年の個人的メインディッシュだったが(こんなタイトルの映画をスルーできようか)期待以上に素晴らしかった。206分の長尺にもかかわらず、もっとずっと浸っていたかったほど。
動物、植物、鉱物の3部構成の博物学的ドキュメンタリーだが、対象が部ごとに「動」から「静」へ移り変わるにつれて、語り口もどんどん寡黙になっていく。と同時に、映像が物語るスケールは、より壮大になっていく。

動物、植物、鉱物がそれぞれ持つ「映像」との関わりに思考を促す、(人類/映画への)自己批評を経て、観た後に周囲が違って見える。今後、世界を見る上での指針にしたい作品だった。

 

『隣り合わせの人生』

芸術の街ヴィチェンツァの裕福な家庭に、顔に大きなアザをもった女の子が生まれる。母親の苦悩とは裏腹に、娘は健やかに成長し、ピアニストとしての才能を開花させていくのだが…。

周囲と異なるマイノリティである少女の成長譚から、かえって家族や親子関係や社会の歪みが浮き彫りになるという、ある意味では王道的な物語を、バキッと決まった画面作り(ヴィチェンツァの美観も巧みに織り込みつつ)やサスペンスフルな脚本、的確な演出によって見事に構築。

今回の映画祭でも(現在観た限りでは)頭ひとつ抜けた強度のある作品だったと思う。

 

『狂おしいマインド』

さすがの面白さと人間関係エンタメとしての完成度の高さ。観客アンケートとったら今年のベストではないでしょうか。

パオロ・ジェノヴェーゼ監督の最新作で、一言で言っちゃえば「おとなのインサイド・ヘッド」。とある男女が(はたから見ればただのおうちデートだが)奇妙な一夜を過ごすのだが、各々の脳内で起こっている葛藤やショックを、実写版インサイド・ヘッドの感情たちみたいな面々(みんな別の人が演じていて面白い)のリアクションで表現する。

脳内メン&ウーメンたちのツッコミやドタバタ劇に場内爆笑だったし、これは間違いなく日本でも一般公開すると思うので(いやわからんけど!)、お楽しみに〜。

 

もう5万字超えているようなので、いいかげんやめましょう。ここまで読んだ人はもう少数だと思うが、お疲れ様でした。今後はこういう死ぬほど長い記事は極力控えたいと思います(ほんとうです)。来年も沢山の良い映画に出会えますように。

 

終わり!といいつつ、本当はオススメしたかったが、どのセクションにも絶妙に属さなかった良作の感想を、<絶妙に分類不可能だった良き映画たち>という括りで、有料部分に一応(ほぼ自分用に)まとめておこうと思うので、奇特な方は投げ銭感覚でどうぞ。

 

この続きはcodocで購入



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