
2026年3月26日、選抜高校野球大会2回戦、三重対大阪桐蔭戦で、審判団の協議により判定が覆る場面がありました。
スクイズを空振りした打者の身体にボールが当たり、三塁走者が一度は本塁生還が認められたものの、その後の協議で取り消されるという珍しい展開です。
「なぜ得点が認められないの?」「打者の身体に投球が当たったなら死球で打者は一塁に進めるのでは?」と疑問に思った方も多いのではないでしょうか。
この記事では、この場面に適用されたルールをわかりやすく解説します。
何が起きたのか
大阪桐蔭が5対4でリードして迎えた8回裏、三重は1死二、三塁の場面でスクイズを試みました。
打者はバントの構えから空振り。投球はバットには触れず、そのまま打者の身体に当たって前に転がりました。球審はストライクを宣告しました。
スタートを切っていた三塁走者は一度立ち止まったものの、本塁に突っ込みました。ボールを拾った投手が三塁走者にタッグを試みましたが、球審はセーフを宣告しました。
ここで審判団が協議。球審から場内アナウンスで「空振りと同時に身体にボールを当てた時点でボールデッド」と説明が行われ、走者を元の塁に戻してプレイが再開されました。
その直後、打者が中犠飛を放ち、三重が同点に追いつきました。
なぜ死球にならないのか
「バットに当たらず体に当たったなら、死球(デッドボール)で打者は一塁に進めるのではないか」と疑問に思うのは自然です。
まず、死球が成立する規則5.05(b)(2)を確認します。
公認野球規則5.05(b)
打者は、次の場合走者となり、アウトにされるおそれなく、安全に一塁が与えられる。(ただし、打者が一塁に進んで、これに触れることを条件とする)
(2) 打者が打とうとしなかった投球に触れた場合。
死球の前提条件は、「打者が打とうとしなかった投球」です。
今回は打者がバントを試みて空振りしています。この時点で「打とうとした」ので、死球の前提条件を満たしません。
さらに、公認野球規則の定義73「ストライク」では、次のように定められています。
定義73 STRIKE「ストライク」──次のような、投手の正規な投球で、審判員によって〝ストライク〟と宣告されたものをいう。
(e) 打者が打った(バントした場合も含む)が、投球がバットには触れないで打者の身体または着衣に触れたもの。
この定義のとおり、バントの場合も含めて、「空振り+投球が打者の身体に触れた」場合はストライクが宣告され、打者に一塁は与えられません。
ボールデッドになった後の走者の扱い
定義73(e) によってこのプレイはストライクとなりますが、同時に打者の身体にボールが触れたので、規則5.06(c)(1)により、その時点でボールデッドとなります。
公認野球規則5.06(c) 次の場合にはボールデッドとなり、走者は1個の進塁が許されるか、または帰塁する。その間に走者はアウトにされることはない。
(1) 投球が、正規に位置している打者の身体、または着衣に触れた場合──次塁に進むことが許された走者は進む。
投球が打者に当たってボールデッドになった場合の走者の扱いは、「打者に一塁が与えられるかどうか」によって決まります。今回はストライクとなり打者に一塁が与えられないため、走者には進塁権がなく、元の塁に戻されます。
また、規則5.05(b)(2)の【規則説明】には次のように明記されています。
公認野球規則 規則5.05(b)(2)【規則説明】
打者が投球に触れたが一塁を許されなかった場合も、ボールデッドとなり、各走者は進塁できない。
今回はバント空振りして打者の身体にボールが触れたので、ボールデッドとなり、三塁走者の本塁到達は認められません。打者には一塁が与えられず、スクイズのためスタートを切っていた三塁走者、二塁走者共に投球当時に占有していた塁に戻されます。
これが審判団の説明「空振りと同時に体にボールを当てた時点でボールデッド」の根拠です。
なお、このようにボールデッドが宣告された場合、審判員はプレイの進行にかかわらず、ボールデッドが発生した時点にさかのぼって処置を行います。
まとめ
| 疑問 | 答え |
|---|---|
| なぜ死球にならないのか | 「打とうとしなかった投球」が死球の条件(規則5.05(b)(2))。バント空振りは「打とうとした」ので、条件を満たさない。 |
| なぜストライクになるのか | 空振りした投球が身体に当たった場合はストライク(定義73(e))。バントも明示的に含まれる |
| なぜボールデッドになるのか | 投球が打者の身体に触れた場合はボールデッド(規則5.06(c)(1)) |
| なぜ得点が認められないのか | ボールデッドで、各走者は進塁できない。(規則5.05(b)(2)【規則説明】) |
球審の角度からは、スクイズを空振りした打者の身体にボールが当たった状況を見極めることが難しかったのでしょう。球審は一度得点を認めましたが、協議の上、正しい判定に修正することができました。
これは簡単なことではありません。
一度下した判定を変更すること自体、とても勇気のいることですが、適用する規則も含めて「完璧」に整えて試合再開することは非常に難しいことです。何が起きたのか把握し、どう処置するか(得点・アウトカウント・ボールカウント・走者の位置……)、チームや観客にそのことをどう伝えるか。
しかし、この審判団はそれを完璧に行いました。ぜひ、この難しい場面を適切に対処したことを称賛してほしいと思います。日曜日の某番組では、審判団に「アッパレ!」をお願いします。
参考文献
【センバツ】白熱の大阪桐蔭VS三重で審判も迷う珍事!? 両チーム選手がスクイズ空振り後に一瞬フリーズ… その間にランナー生還し同点と思いきや…(日テレニュース)