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投手交代のルールと投球義務——先発・救援・イニング途中の違いを解説

投手はいつでも自由に交代できるわけではありません。公認野球規則には、投手が「最低限これだけは投げなければならない」という投球義務が定められています。投球義務とは、「投手が最低限投げなければならない打者数・状況」を定めたルールです。

2026年3月のセンバツ(第98回選抜高校野球大会)では、この投球義務に関する規則適用の誤りが発生し、大会本部が試合後に謝罪するという異例の事態が起きました。

この記事では、投球義務に関するルール——先発投手・救援投手・イニング途中での交代——を公認野球規則に基づいて解説します。

投球義務の種類と発生タイミング

投球義務は状況によって異なります。まず全体像を表で確認してください。

義務の種類 発生タイミング 最低限投げる範囲 根拠規則
先発投手の義務 試合開始時 第1打者の打席終了まで 5.10(f)
救援投手の義務(日本国内) 登板時 そのときの打者の打席終了またはイニング終了まで 5.10(g)【注】
救援投手の義務(MLB等) 登板時 連続3人の打者の打席終了またはイニング終了まで 5.10(g)(1)
イニング頭の義務 ファウルラインを越えた瞬間 そのイニングの第1打者の打席終了まで 5.10(i)

以下、各規則について詳しく解説します。

 

5.10(f):先発投手の投球義務

先発投手には、試合開始後すぐに交代することを制限するルールがあります。

公認野球規則5.10(f)
4.03(a)、同(b)の手続きによって球審に手渡された打順表に記載されている投手は、第1打者またはその代打者がアウトになるかあるいは一塁に達するまで、投球する義務がある。ただし、その投手が負傷または病気のために、投球が不可能になったと球審が認めた場合を除く。

つまり先発投手は、第1打者(またはその代打者)がアウトになるか一塁に達するまでは交代できません。例外は負傷・病気のみです。

 

5.10(g):救援投手の投球義務

救援投手の投球義務については、日本国内と国外で適用される規則が異なります。MLBのルール(最低3人義務)が本則で、日本国内では例外的に1打者義務が採用されています。

日本国内(プロ・アマ共通):1打者義務

公認野球規則5.10(g)【注】
救援投手は、そのときの打者(またはその代打者)がアウトになるか一塁に達するか、あるいは攻守交代になるまで、投球する義務がある。先発投手については5.10(f)参照。

日本国内では本則に代えてこの【注】が適用されます。救援投手は登板した時点の打者への投球義務があり、その打者の打席が終わるまで(アウト・一塁到達・攻守交代)は交代できません。

MLB等(日本国外):スリーバッターミニマムルール(Three-batter minimum)

公認野球規則5.10(g)(1)
先発投手または救援投手は、打者がアウトになるか、一塁に達するかして、登板したときの打者(またはその代打者)から連続して最低3人の打者に投球するか、あるいは攻守交代になるまで、投球する義務がある。ただし、その投手が負傷または病気のために、それ以降投手としての競技続行が不可能になったと球審が認めた場合を除く。

これがスリーバッターミニマムルール(Three-batter minimum)です。頻繁な継投による試合の長時間化を防ぐ目的でMLBが2020年から導入し、現在も適用されています。日本国内では適用されません。

なお、イニングの初めに準備投球を行った投手にも同様の義務があります。

公認野球規則5.10(g)(2)
イニングの初めに準備投球を行った投手は、少なくともそのときの第1打者(またはその代打者)がアウトになるか一塁に達するまで投球する義務がある。ただし、その投手が負傷または病気のために、それ以降投手としての競技続行が不可能になったと球審が認めた場合を除く。

 

5.10(i):イニング頭にファウルラインを越えた投手の義務

すでに試合に出場している投手がイニングの初めにファウルラインを越えた場合、その投手にも投球義務が発生します。ファウルラインを越えた=そのイニングの投手として確定であり、監督が交代を申告していても、投手がすでにファウルラインを越えていれば球審はその交代を認めることができません。

公認野球規則5.10(i)
すでに試合に出場している投手がイニングの初めにファウルラインを越えてしまえば、その投手は、第1打者がアウトになるかあるいは一塁に達するまで、投球する義務がある。ただし、その打者に代打者が出た場合、またはその投手が負傷または病気のために、投球が不可能になったと球審が認めた場合を除く。
また、投手が塁上にいるとき、または投手の打席で前のイニングが終了して、投手がダッグアウトに戻らずにマウンドに向かった場合は、その投手は、準備投球のために投手板を踏まない限り、そのイニングの第一打者に投球する義務はない。

この規定は現場でも見落とされやすく、実際に公式戦でも適用ミスが発生することがあります。

2026年センバツでの事例

2026年3月22日の第98回センバツ、山梨学院対長崎日大戦でこの規則の適用誤りが発生しました。

7回裏の長崎日大の攻撃。先頭打者へのカウントが2ボールになった時点で山梨学院は投手交代を申告しました。しかし、渡部投手が7回のマウンドに上がるためファウルラインを越えた時点で5.10(i)による投球義務が発生していたため、この交代は認められないものでした。

球審はこの申告を認めて渡部瑛太投手から竹下翔太投手への交代を許可してしまいましたが、大会本部は試合後に「申告に対し、球審は交代できない旨を山梨学院側に伝える必要がありましたが、認めました」として規則適用の誤りを認め、謝罪しました。

なお、5.10(h)の規定により、この試合への影響はありませんでした(詳細は次のセクションで解説します)。

 

5.10(h):違反した場合の処置と正当化

規則で交代が認められていない投手に代わって他の投手が出場した場合、審判員は正規の投手を試合に戻すよう命じなければなりません。

公認野球規則5.10(h)
規則で代わることが許されていない投手に代わって他のプレーヤーが出場した場合には、審判員は、規則を正しく適用するために、正規の投手に試合に戻ることを命じなければならない。
万一、誤って出場した投手が、指摘されないまま打者へ1球を投げるか、または塁上の走者がアウトになった場合には、その投手は正当化されて以降のプレイはすべて有効となる。

【原注】
監督が規則に違反して投手を退かせようとしたときには、審判員はその監督に不可能である旨を通告しなければならない。たまたま、球審が看過して規則で許されていない投手の出場を発表してしまった場合でも、その投手が投球する前なら正しい状態に戻すことができる。万一、誤って出場した投手が1球を投じてしまえば、その投手は正規の投手となる。

つまり違反があっても、誤って出場した投手が1球投じた時点で正当化(=正式な投手として認められる)され、それ以降のプレイはすべて有効となります。そのため、前述の山梨学院対長崎日大戦の事象は、試合結果への影響はなかったとされています。

 

まとめ

  • 5.10(f):先発投手は第1打者がアウトになるか一塁に達するまで交代できない
  • 5.10(g)【注】(日本国内全カテゴリー):救援投手はそのときの打者の打席が終わるまで交代できない
  • 5.10(g)(1)(MLB等):スリーバッターミニマムルール——救援投手は最低3人の打者に投球する義務がある
  • 5.10(i):イニング頭にファウルラインを越えた投手は第1打者がアウトになるか一塁に達するまで交代できない
  • 5.10(h):違反があっても誤って出場した投手が1球投じた時点で正当化され、以降のプレイはすべて有効

試合中に「なぜ交代できないのか?」と感じた場面は、ほとんどがこの投球義務に関係しています。




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