
今回は、2025年5月17日の明治安田J1リーグ第17節 浦和vsFC東京 80分のシーンを取り上げます。VARによるチェックは2回に分けて介入し、合計8分に及びましたが、最終的には松本のゴールとなりました。非常に難しい判定となったこのゴールを振り返ります。
- まずはリプレイを見てみましょう
- 松本はオフサイドか?
- 何ともう一回VARチェック!松本のシュートはハンドか?
- 今回の事象でのリプレイ検証は適切といえるか
- 「FC東京の1点目のPK判定と帳尻を合わせた」?
まずはリプレイを見てみましょう
明治安田J1リーグ第17節 浦和vsFC東京 80分のシーンです。
CKのクリアを繋いで
— DAZN Japan (@DAZN_JPN) 2025年5月17日
体で押し込んだのは #松本泰志
※長いVARチェックの結果ゴールが認められる
明治安田J1第17節
🆚浦和×FC東京
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金子のクロスにダニーロ・ボザと松本が飛び込み、町本が体に当てててゴールに押し込んでいます。
松本はオフサイドか?
中継映像でリプレイが何度も流れましたが、ボザが触れたかどうかを確認することができません。
例えばこの角度の映像、ボザが頭で合わせようとした瞬間がちょうどゴールポストの陰に入ってしまって、ボザの頭にクロスボールが当たっているのかどうか分かりません。

別の角度の映像からも、ボールの軌道が変化したかどうかを見取ることができません。
そうなると、松本が「はっきりとした、明白な」オフサイドポジションであるという証拠を映像から見出すことができないので、「分からないので、現場の判定を尊重する」として「オフサイドなし」の結論になったのではないかと推察します。
何ともう一回VARチェック!松本のシュートはハンドか?
一度「オフサイド無し」でチェック終了となり、主審がゴールを認めるジャッジをしたにもかかわらず、何ともう一回VARチェックが入りました。この展開は私としては初めてです。一度主審がVARのチェックを受けてジャッジをした後に再チェックをする流れに、X上で浦和サポーターから不満のポストが増えたのは事実です。
なお、2回目のVARチェックが入ることは、サッカー競技規則上は可能です。
サッカー競技規則第5条 主審
主審は、プレーを再開した後、前半または後半(延長戦を含む)終了の合図をして競技のフィールドを離れた後、または試合を中止させた後は、その直前の決定が正しくないことに気づいても、またはその他の審判員の助言を受けたとしても、再開の決定を変えることができない。
これは裏を返すと、「プレーを再開する前ならば、その直前の決定が正しくないことに気づいたとき、またはその他の審判員の助言を受けたときに、再開の決定を変えることができる。」ということなので、2度目のVARチェックを否定することにはなりません。
さて、2025明治安田J1リーグ第1節、神戸vs浦和81分のシーンの解説でも書きましたが、どうだったらハンドの反則になるのかについては、サッカー競技規則の第12条「ファウルと不正行為」に記載があります。
サッカー競技規則第12条 ファウルと不正行為
競技規則の記載の仕方がやや難解なので、要点をまとめて整理し直すと、こうなります。
ハンドの反則の要点(num整理)
(大前提)ボールを手や腕で扱うと、反則です。
- 具体的には、競技者が次のことを行うと、反則です。
- 例えば手や腕をボールの方向に動かし、意図的に手や腕でボールに触れる。
- 手や腕で体を不自然に大きくして、手や腕でボールに触れる。
- 相手チームのゴールに、たとえ偶発的でも
- 自分の手や腕から直接得点する。
- ボールが自分の手や腕に触れた直後に得点する。
(基準)ハンドの反則を判定するにあたり、腕の上限は、脇の下の最も奥の位置までのところとする。
今回の場合は……

松本の左腕のあたりにあたった可能性は、確かにあります。左腕に当たってそこから直接得点したということであれば、偶発的に腕に当たった場合でも、ハンドの反則に該当します。
しかし、別の角度で見てみると、当たる瞬間には、松本が左腕を完全に体に密着させていることが分かります。

そのため、左腕付近に当たったことは間違いないが、「はっきりと、明白に」左腕からの直接のゴールといえる映像ではないため、「分からないので、現場の判定を尊重する」として「ハンドの反則なし」の結論になったのではないかと推察します。
今回の事象でのリプレイ検証は適切といえるか
正直なところ、非常に悩ましい事象です。
論点がいくつかにわたるため、整理しながらまとめていきます。
本当に松本はオフサイドではなかったのか
ボザがゴールセレブレーションをしているので、状況証拠で考えるとボザ自身は「自分がシュートを決めた」つまり「ヘディングをしている」という自覚があったのでしょう。そのボールが松本に当たったということになれば、ボザがヘディングしたと思われる瞬間、松本は明らかにオフサイドポジションですから、本来の判定は「オフサイドでノーゴール」であったと考えられます。
しかし、審判員は判定の根拠をボザのゴールセレブレーションにすることはできません。確実にボールがボザに触れていることを確認出来なければ判定を変更することはできず、そのような「映像がなかった」ので、オフサイドの反則とすることができなかったというのが実態だと想像します。
DAZNの中継で「真実はボザのみぞ知る」というような発言がありましたが、選手に聞いて判定することはできないので、これ以上はどうしようもなかったでしょう。
なぜ、「2度目」のVARチェックが行われたのか
この点が私の中では不可解です。通常、VARは得点に至るまでの全ての流れについて反則の可能性があるところの全てのチェックが終わったときに、主審に「チェックコンプリート」という合図を送り、これを受けて主審はセンターサークルを指差す(得点を認める)ことになっているはずです。

1度目のVARチェック(オフサイドの可能性)が終わったところで山本主審がセンターサークルを指差していますが、その後にハンドの可能性についてのVARチェックが行われていることを考えると、この時点でVARチェックはすべて完了していなかったのに
のどちらかが考えられます。
一部浦和サポーターが「FC東京側からのハンドの可能性についての抗議を受けて2度目のVARチェックが行われた」という主張をしています。VARは自らの判断で自動的(automatically)にプレーの確認を行っているので、チームからの抗議によってVARがチェックを行うことはなく、この主張は当たらないと考えていますが、FC東京側の抗議でVARチェックが再開したかのように見えてしまった感は否めません。
全てのチェックが終わったところで「チェックコンプリート」の合図が出て最終判定が行われ、その後はもう判定が覆ることはない、という流れを審判団は徹底してほしかったと感じました。
主審のオンフィールドレビューは実施できなかったか

VARは、
- 「はっきりとした、明白な間違い」または
- 「見逃された重大な事象」
があった場合に介入し、主審の主観での判断を要する事象に対してオンフィールドレビュー(OFR)が行われます。
ボザの頭にボールが当たっていたかどうか、松本がオフサイドポジションにいたかどうか、松本の左腕にボールが当たっていたかどうか、といったことは全て「事実の確認」であり、通常、このような場合に判定の変更の必要がある場合は、VARオンリーレビューとなり、主審がリプレイ映像を見ることはありません。
ボザの頭付近をボールが飛んだ前後でボールの軌道が変わっているように見えるから、主審がOFRして決めればよいのではないか、という主張も目にしましたが、「ビデオアシスタントレフェリー(VAR)の実施手順 ― 原則と実践および進め方」(VARプロトコル)では、主審の判定に「はっきりとした、明白な間違い」があるときにVARの介入に至るということになっており、そのようなOFRの手続きは認められていません。
したがって、今回のような事象でOFRが行われることは考えにくいと言ってよいでしょう。
「FC東京の1点目のPK判定と帳尻を合わせた」?
こういう主張が、浦和サポーターからもFC東京サポーターからもポストされているのですが、審判をやったことのない人の主張だなと強く感じます。
一度でも、何らかのスポーツの公式戦の審判をやったことがあれば、そんなことを考えている余裕すらないことが分かるはず。審判員は、本当に目の前のその一瞬を見たままに判定するのにすべての集中を注いでいます。
審判員以外の人が試合を見ながら「帳尻合わせ」と思うのは勝手ですが、それを真実であるかのように言って心無い言葉を発するのは残念でなりません。
今回このようにこのプレーを振り返ってみて、私は、本来このプレーは「オフサイドでノーゴール」が真実である可能性が高いと感じましたが、判定がゴールとなったことは致し方ない、というのが感想です。もちろん気になる点はあるので、審判団として改善が必要であるとは思いますが、スポーツを楽しむ以上、真実と判定が異なる場合があること(それを誤審というわけですが)も、審判団が一生懸命やった結果として両チームとも受け入れなければならないのではないか、と思います(浦和に有利な判定になったから、ということではありません)。

