2025年現在、病院は約6割が赤字、福祉施設では4割が赤字だと言われています。経営者層はこのような難局に立つと、必ず私たち従業員に打開策を練るよう指示を出します。私たちがやれることと言えばたかだか知れたことで、サービスの提供状況を洗い直し、取得できる単価を見直し、客足が他施設・他サービスに流れていないかを調査するくらいです。その調査報告書を見て肩を落とした経営者は、次に利用者が求めているサービスを探れと言ってきます。今更ニーズを掘り下げろと?といつも首を傾げる事態になるものです。調査チームのメンバーからはこうやったら単価が上がり、さらに地域のニーズも引き出せるなど積極的な意見が出ることもあります。
そして大体同意を求めてくるんですが・・・というお話です。
求めているのは介護予防なの?
ニーズを掘り下げる時に、「この地域には地域密着型のサービスがない」とか、「こういった介護予防事業を取り入れて」という言葉が羅列します。ニーズの発掘なんですから至極ごもっともで、真正面からの正論ではあります。でも介護予防が先行すれば、ニーズが掘り下げられるのかと疑問に思ってしまうんです。フレーズとしては魅力的かもしれません、最先端の介護予防を取り入れ、フレイルからの脱出をし、いつまでも若々しく、老いらくを楽しもう。ってどこでもやってることでしょ?そもそも高齢者が健康なら福祉サービスを使わずに、老後資金を温存させたいと考えるはずです。つまり本当に健康な高齢者は介護予防サービスを使わないんです。
なら手厚い介護を
もう一方で重度の要介護者へのサービスの見直しもするものです。人生の最期に、どのようなサービスが適しているかをみんな考え出します。緩和ケア病棟なのか療養型なのか、はたまた特養で終末ケアをするにはと議論になります。経営から見たときはこうもさもしい考え方に至るのかとため息をつきたくなります。「自分の家族ならどういった最期を迎えたいか」というのは枕詞にしかすぎず、結局は病院・施設側の負担の少ないケア方法の話になっていきます。人手不足なので仕方がないことなんですが、「ベッドの代わりに棺桶に入ってもらってケアをするので、安価で済みます」とでもいってるように聞こえてくるんです。こんなこといったら大喧嘩になるんでとにかく白けた表情すら見せないようにしています・・・。
なら何が本当のニーズなの?
主体性、主体性と謳いますが、本当に人間は最期まで主体性を持ち続けられるものなんでしょうか?主体性が薄いと言われる日本人の特性なのか、孤独な高齢者なら最期まで主体性を持ち続けなければならないのか、そこまで深掘りする気はありません。でも私が知る限りの人の最期って、保育に近いと感じています。保育園に登園する乳幼児って主体性ではないですよね?同じなんですよ、人の最期はその家族に委ねられるんです。そして、その家族の誰しもが望んでいることって、安楽な死を迎えることよりも、もう一度回復し、元の生活に戻れることを望んでいるんです。でもそれは叶わないと悟ったから、病院や福祉施設に頼っているんです。家族は知っているんですよ、今まではどんな大きな病気やけがをしても、なんとかやってきた強い人だった、今回も必ず乗り越えられるのではと。そんなかすかな望みを最後の最後まで持ち続けていることを、経営難の我々は忘れてしまうわけです。ただたださもしいです。
回復力=介護予防ではない
老いを定義する言葉はたくさんあります。でも老いという言葉の一番ふさわしい意味は、「回復力がなくなる」ことだと思います。健康だけでなく身体能力も思考能力も最高点まで回復しないから老いなんです。では介護予防とは何かといえば、言葉のままで介護を予防するためにあるんです。決して回復力を持続させる効果があるものではないということです。高齢になってもお元気な人って、回復力があるからお元気だというより、比較的健康な状態を維持できているから健康なんです。それでも日に日に落ちていく能力の中、大きなけがや病気をしないように心掛けている状態だともいえます。介護予防はあくまでも急激な下降線に入ることを防いでいるにしか過ぎないということなんです。無駄ではないにしろ、介護予防に大きな期待はできないということです。もし健康を維持するためにはどうしたらいいかとお考えの方がいらっしゃるのであれば、すみませんが定年など考えず、最後までなにかしらお仕事を続けてください。お金の問題でなく、健康と身体能力・思考能力を維持させるもっとも最適な方法だと思いますよ。その方が介護予防教室に通うより効果があると思っています。

最後に
現在、病院や福祉施設は経営難な状態にあります。新たなニーズを掘り出すことも難しい状態にあります。とにかく国は単価の見直しを取り急ぎ行っていただけるようお願いするしかありません。もしこの国難から脱出する方法があるとすれば、高齢者の「回復力」を取り戻す研究していただくのが一番の近道だと思います。その間ご高齢の先輩方、申し訳ありませんが、今しばらく働き続けてください。それが一番この国が求めていることだと思います。