

「昔、新人だった私に仕事を教えてくれた人は、新人育成についてよく言ってたことを思い出すんです。」
・利用者には敬語を使って、あえて距離感を置こう
・同僚に嫌われてもいい、利用者に嫌われなければ

「というのが、口癖でしたね。」

「ふーん、おらにはなんともいえないね?そういうもんなのかい?」

「なぜその人の言葉を出したかというと、結局はこの人は新人たちを『畏怖』で支配するような人だったんです。」

「ん?どういうこと?」

「新人たちを怖がらせて、距離を置くことで成長を促すと思っていたように感じます。」

「スパルタというやつかい?体育会系らしい考え方だね。」

「特に体育会系の人ではなかったですよ。スポーツはからっきしの人でしたし。」

「でもその人が嫌で辞めていった職員は多かったですね。私もきつかったのでできるだけ距離を置いていました。」

「この人って、自分で人に怖がられていることってわからないんですかね?」

「そりゃ自分のことは分からないもんだろうね」

「ただ、今自分がそうなっているんじゃないかと気になってまして。」

「ああ、新人さんが付いたんだっけ?」

「ええ」
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「なぜそう感じるかって、今新人さんが、私に必死に話しかけてくるんですよ。」

「少しでも距離を詰めたんだろうさ。」

「そうだと思います。」

「できるだけ話は聴こうと、時間は割いているつもりですが、どうしても話が私的な内容になっちゃんですよ。」

「仕事の話なら聞いてあげられるんですが、時間を割いてまで私生活の話をされてもな・・・。と。」

「聴けるだけ聴くでいいんじゃないのかい?」

「私は、職場の同僚であって、友達でも家族でもないんですよ。」

「私との距離を詰めたいのは分かるにしても、新人さんが楽しく会話をする時間を仕事中には用意はできないんです。」

「なのに、肝心の報告してほしいこと、相談してほしいこと、質問してほしいことはからっきしなんですよ。まず同僚としての会話が欲しいというか・・・。」

「ヌーソさんが怖いんだろうね。なんだかそんな気がするよ。」

「それは私も感じています。なにか怖がられているなと。私に畏怖のストレスを感じるから、余計に防衛的な姿勢にもなっていてるんだろうなと。」

「だから肝心な話をできないでいるんじゃないかと。」

「そう思うと、前述の私の先輩を思い出してしまうんですよ。今そうなっているんじゃないかと。」

「ヌーソさんはこれまで新人さんを育てる機会はなかったのかい?」

「今までたくさん新人育成はしてきたつもりですよ。ただ、今回私が教えなければならない相手は、私と同じレベルまで引き上げなくてはならない子でして。私よりは若いですが、新卒でもないんです。」

「うーん、仕事の内容が難しいから求めることも大きくなるってことかな?」

「まさしくです。今私のやってる仕事は、ちょっと特殊で、トラブルシューティングの仕事が多いんです。反復作業はほぼない、いきなり応用編の様な仕事ばかりでして。」

「特に経験値が求められる仕事だと思うんで、解決方法や答えに到達する道程だけをヒントとして出しています。それが、余計に怖いんでしょうね。正確な答えがないので。」

「答えを教えてやるわけにはいかないの?」

「応用力がつかなくなるんです。福祉の仕事はみんなそうだと思います。絶対的な「解」なんてないんですよ。」

「なんて考えると、こちらの姿勢だったり、距離感が『畏怖』を感じさせるのではないかと思うんです。」

「ストレスもたまりそうだね。」

「そうなんですよ。答えは分かっているけど教えるわけにいかないし、とんちんかんなことを質問してくるから、顔や態度にも出るでしょうし・・・。」

「ヌーソさんの上司とかは何も言わないの?」

「ええ、全く。『あの子を育ててくれ。』とだけ。そして、せいぜい『大変そうだね』と労われるくらいで・・・。」

「じゃあ、傍から見る限りはヌーソさんのやり方は間違えていないんだろうね。」

「でも、ヌーソさんはこの現状に、満足していないんだろうね。」

「私が目指すものって、人を脅かしたり、望まない態度をしてあえて成長を促すとか、そういう『畏怖』ではないんですよ。」

「福祉って、『畏怖』が一番取り除かれた世界であるべきだと思っています。それが難易度の高い仕事だとしてもです。そう思わせたのは、先ほどから話している反面教師の先輩でした。なのにその先輩のようなやり方になっていないかと、自問自答をしてしまうわけです。」

「同じ福祉の世界と言っても、人を育てるには『畏怖』も必要だと思ってるんだね?」

「認めたくありません。」

「畏怖を用いないで育てたいです。でも優しくばかりしていると、あろうことか私を論破しようとしてくるんですよ・・・。」

「もう私はどうしたらいいんだか・・・」