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5GCの安定性を底上げする「賢い」ロードバランシング手法を発表しました!

こんにちは。ドコモ6Gテック部の本田です。 部内では移動体通信におけるアーキテクチャの標準化を担当しています。

本記事は「電子情報通信学会(以下IEICE)総合大会参加レポート」シリーズの記事です。 ドコモにおける研究・開発活動の一環として、IEICE総合大会に参加いたしました。研究発表やパネルディスカッション、講演などを通して、研究成果の共有や技術議論を行っています。 本記事では、その中でも私が講演発表したNRFの負荷分散に関する取組み、および発表当日の様子をご紹介します。

本記事の概要

  • NRFの動的なロードバランシング手法の提案
  • IEICE総合大会での発表と得られた気づき
  • 研究発表と標準化の関わり

技術背景と課題

モバイルコアネットワークでは、安定したサービスを続けるため、そして万が一トラブルが起きても影響を減らすために冗長構成がよく使われます。同じ役割を持つ装置/機能を複数用意しておくことで、ひとつに問題が起きても他がカバーできる仕組みです。また、ロードバランシング(通信を複数の処理先に分散させる仕組み)により、特定の装置に負荷が集中しないようにすることもできます。

冗長構成のイメージ

4Gで利用されているEPCやIMSなど従来のコアネットワークでは、ノード間の接続先を事前に設定しておき、DNSやロードバランサ等の仕組みで分散させる構成が多く採用されていました。その際には、ノード同士をどのように接続し、どのように分散させるかというネットワーク設計により負荷の均衡を行う必要がありました。 その次の世代である5Gコアネットワーク (5GC) ではService-based Architecture (SBA) の採用やネットワークスライシングなどの新規要素により、回線や通信内容に合わせて使用するNetwork Function (NF) を振り分ける必要性が出てきました。そこで、Network Repository Function (NRF) というNFを用いたNF探索手順が導入されました。NRFは各NFの機能や状態といった情報を保持し、他NFからの問い合わせに対して適切なNFを発見し候補を提示するサービスを提供することで、NF同士を固定的に結びつけることなく柔軟なネットワーク構成を実現できるようになりました。

発表スライドより、本研究の背景

一方、NRF自身も冗長構成にて複数台で運用されるケースが多いですが、NRF自体をNRFで探索することは標準仕様上の課題があり、結果として多くの環境において従来の選択方法で対応しているというのが現状です。 その場合、想定していないネットワークの変化が発生した際に特定のNRFに負荷が集中してしまう可能性があります。実は NRFは、NFの登録情報として容量・負荷といった指標を扱えるため、それらを参考に「より良い候補選択」を行う機能が標準仕様上で保証されています。そのため、 NRFを選択する場合にもそのような動的選択手法を適用したいというのがこの研究の目的となります。

発表スライドより、NRFによるNF選択の流れの例

提案手法

こういったロードバランシングを考える際に重要になるのが、いかにシンプルかつ低負荷な機能で実現するかという観点になります。負荷軽減を行うために複雑な機能を追加し、そのせいで別な負荷がかかってしまっては本末転倒です。 そこで、本研究では既に存在している通信を活用する形での負荷分散を提案しました。

発表スライドより、提案手法の説明

まず前提として、NFとNRFの間では定期的に状態報告と受領応答のやり取りが行われています。これは、NRFが登録されているNFが現在利用可能かどうかを把握し、故障などで応答できなくなったNFを探索候補から外せるようにするためです。具体的には、NFがNRFへ「利用可能である」ことを知らせる状態報告メッセージを送り、NRFはそれを受け取ったことを返答メッセージで知らせます。自身の動作状況を定期的に報告する動きを心臓の鼓動に例えて、ネットワーク用語でHeartbeatと呼ばれています。

本研究における提案では、このHeartbeatを受けたNRFからNFへの返答の通信を活用します。提案内容として、その返答メッセージを拡張し、各NRF自身の負荷情報を追加します。この返答によりNFは登録中のNRFの負荷状況を知ることができ、その時点で最も余裕のあるNRFを次の通信先として選定することができるようになります。Heartbeatは周期的に行われるため、Heartbeatのサイクルごとに更新された値を取得することが可能となります。

評価・結果

疑似環境において一部のNFが極端な高負荷となりNRFへの信号数が10倍となった状況をシミュレーションし、優先度による固定接続、ラウンドロビンといった既存の選択方法と本提案手法における負荷分散効果を比較しました (今回は、NRFの負荷は受け取った信号数をベースに計算しています) 。

  • 優先度による固定接続: 事前に設定した優先度に従い、最優先度の宛先に対して送り続ける
  • ラウンドロビン: 各接続先に対して順番に送る

合計100,000回の通信をシミュレーションしたところ、相対的なばらつきを表す指標である変動係数 (CV) が既存手法と比較して最大で1/10000以下の値となり、各NRFの負荷がより均等となりほぼ平坦となったことを示すことが出来ました。

発表スライドより、シミュレーションによる評価結果

今後、3GPPにて標準化が可能な手法に調整した上で標準仕様として提案していきたいと考えています。

学会での議論

本提案手法や結果をIEICE総合大会の原稿として投稿し、3月11日に九州産業大学にて講演発表を行いました。IEICE総合大会は、電子・情報・通信分野に関する最新の研究成果や技術動向について、研究者や技術者が発表・議論を行う国内最大級の学術大会です。毎年春に開催され、幅広い分野の講演やセッションが行われます。ドコモとしても毎年多くの社員が発表や講演を行っています。

私は普段標準化の業務に携わっているため、これまでは研究の成果を標準化や権利化という形で世に出すことが多く、学生を含め専門以外の方々に直接内容を知っていただける機会はあまり多くありませんでした。そこで、学会という場を活用し、多くの方々に研究内容を共有することで、議論によるアカデミックなフィードバックを得ることを目的として今回の講演発表に臨みました。

総合大会の看板

会場では学生や大学の先生、ドコモを含め会社の研究者など様々な方が参加されており、各発表に対して熱心な議論が交わされていました。

私の発表の質疑応答でも、「Heartbeatの周期で値を取得することは適切なのか?(実際に負荷上昇が始まった場合に間に合うのか)」「ラウンドロビンでもある程度の分散効果は得られているがどう差別化するのか?」といったコメントをいただき、シミュレーションの結果や差別化といった部分に注目されていることが分かりました。 もちろん標準化の際にもこの辺りは考慮するのですが、普段は標準仕様と実装・運用を分けて考えることも多いため、そういった観点について改めて考える大変良い機会となりました。

本発表と同じ内容を3/9に同会場で行われたGlobal Net Workshopにてポスター発表でも説明していたのですが、その際には標準化する際の障壁に関する質問が多かったため、同じ研究発表でも形式や参加者によって得られるフィードバックが異なることを感じ大変勉強になりました。

発表の様子

また、他の方が発表されていた内容の聴講も非常に興味深く拝聴することができました。 自分の割り当てられたセクションは移動体通信に関するトピックが多く各発表の分野こそ近いものの、それぞれの内容は無線からプロトコル、アルゴリズムまで多岐に渡っており、様々な知見を得ることが出来ました。この経験は今後の標準化にも活用できると考えています。

おわりに

研究の意義

本研究の意義は、5Gコアネットワークにおける柔軟なアーキテクチャ設計という思想を、NRF自身の運用にも適用できる可能性を示した点にあります。 5GCではSBAの導入により、NF同士を固定的に結び付けない構成が可能となりましたが、NRFの冗長構成に関しては、依然として固定接続やラウンドロビンといった従来型の選択方法が多く用いられてきました。本研究では、既存仕様で定義されているHeartbeat通信に着目し、新たな信号や複雑な制御を追加することなく、NRFの負荷状況を考慮した動的な選択が可能であることを示しました。

今後の研究・標準化との関係

今後の研究課題としては、Heartbeatの周期や負荷指標の定義など、実ネットワークでの運用を見据えたパラメータ設計が挙げられます。今回の発表中にいただいたコメントをベースに、各条件やシミュレーション設定の見直しを行い、より効率が良く実運用に即した形を目指したいと考えております。 また、本提案手法は既存の3GPP仕様に基づく拡張であるため、標準仕様として成立させるために必要な整理を行い、3GPPにおける議論・提案へとつなげていく予定です。

終わりに

今回、学会という場で発表を行い、学生や他分野の研究者の方々から直接フィードバックをいただけたことは非常に貴重な経験でした。標準化業務では仕様としての妥当性を重視することが多い一方で、学会発表では「なぜその手法が必要なのか」「どのような点が従来と異なるのか」といった視点での質問が多く、改めて研究の位置づけを整理する良い機会となりました。 今後も、研究・標準化・実運用をそれぞれ切り離すのではなく、相互にフィードバックさせながら、モバイルコアネットワークの進化に貢献できる研究に取り組んでいきたいと考えています。

最後に、ドコモでは無線だけではなくアーキテクチャの研究にも力を入れて取り組んでいます。 5Gのような移動体通信の研究と聞くとどうしても無線の話が出てきがちですが、無線による通信を受けたコアネットワークがどのように信号を処理するかという点も大事なテーマです。 本開発者ブログでも標準化に関する記事を多く掲載しているので、アーキテクチャの研究や標準化にご興味のある方はぜひご覧いただければと思います。

IEICE総合大会関連記事

今回の総合大会に関連した記事は以下の通りです。

nttdocomo-developers.jp

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