新しい空手着は少し青みを帯びていて、手触りは想像よりも柔らかい。一方、息子の空手着は僕のおさがりだから真っ白だ。というか、若干色が褪せている。空手着だけ見れば手練れの雰囲気が漂っているけど、帯を締めるようになってまだ1年。基本もままならない時があるけど、そんな息子が初めて試合に臨んだ。
息子が試合に出る日が来るなんて。成長した。月並みな言葉だけれど成長を感じずにはいられない。気持ちが乗らず練習を休み日もあった。でもそれでいい。自分の気持ちを知って対処の仕方を覚えていくことも武道だと思う。
そうやって自分の気持ちと向き合って、少しずつ心も成長していったと僕や妻は感じていた。「今から形(カタ)の練習やるから見て」と息子から言われた時はその成長度合いに驚かされた。子どもはすごいなぁと感心していたら次の練習に日にはやる気がガタ落ちで、その落差にも驚かされた。
色々な思い出が詰まったこれまでの日々。それらに支えられて今日、試合会場に立っている。そう思うとどんな日だって欠けてはならない一日だったわけだ。
観覧席から会場の息子を探す。白い空手着がいい目印になり、離れていてもすぐに見つけられた。試合前の緊張感がピークを迎えたのは息子ではなく僕の方で、口の中が妙に乾いたし、何回もトイレに立った。
僕らの心配をよそに息子は堂々と演武を披露した。笛の音と同時に5人の審判が旗を挙げる。4人が息子の帯と同じ色の旗をあげていた。
「勝ったってこと!?」と聞いてきた妻の目に涙が浮かんでいた。僕も涙目になっていたかも知れない。「勝ったね!」と思い切り笑顔で答えた。
結果的に息子は形の部で3位に入賞することができた。大会の規模で言えば小さい大会だった。けれど僕ら家族にとって大きな勝ち星だ。
まだ小さな背中だけど、とても逞しく感じた。先生から「よく頑張りました!褒めてあげてください」と言われた。褒めまくったところだけど、さらに褒めまくるしかないようだった。わしゃわしゃと頭を撫でたし、抱きしめた。
帰宅後、息子と一緒に少し早めの風呂に入る。明るいうちから浸かる風呂というのは、身も心も、全てをねぎらってくれる気がする。ちょうど西日が反射して浴室に入り、お湯の粒をキラキラ光らせている。うちの風呂が一番優しくてきれいな時間帯だ。
風呂の雰囲気に気持ちが和らいで、いつもよりたくさん話をした。以前は会話のドッチボールって感じだったけど、ちゃんとキャッチボールが成立するようになったんだなぁ。息子との会話を客観的に聴いているような感覚になったのは、風呂に響く声がそう感じさせたのかもしれない。なんだか成長を見逃していたような気がして、ほんの少し悔しいというか歯痒さもあった。だけど、そんなものは風呂に浸かっていれば疲れと一緒にどこかへ消えた。
息子の成長がただただ嬉しい。そしてこの日の息子の活躍が、家族みんなの気持ちをいい方に引っ張っていってくれる気がした。
心が成長していく様子を近くで見ることができて幸せだ。この春からまたいくつか試合や昇級審査がある。色々あるだろうけど、きっと振り返る頃には笑っていられると思う。息子の空手道と僕の父親道、どっちが先に黒帯を締められるか真っ向勝負といこうじゃないの。