イシグロのThe Unconsoledを読んだのですが、難解でした。 まるで信用ならない記憶力の主人公、前提が共有されずに進んでいく会話、未解決のまま積み重なる脈絡のない頼み事……悪い夢を見ているような気分です。カフカの審判を思い出したのは私だけではないと思う。
初対面かのように登場した人間が実は近しい関係性だったり、遠くに行ったと思えば元の場所に戻っていたり、その辺りの混乱ぶりもなかなか悪夢的です。意図的にそう書かれているんだと思うのですが、なにぶん英語なので、私の誤読なんじゃないかと不安になってくる。
これでは眼鏡を外した状態で迷路をうろついているようなものです。どっちかというと苦しい…… しかも京極夏彦の本みたいな分厚さをしています。英文精読教室のA Village After Darkのところでタイトルが出ていたから読み始めたのですけど、こっちを最初に読んでいたら間違いなく挫折していたことでしょう。
それにしても、『歩いているうちに案内人を見失い、偶然昔の友達に会ってバス停に導かれる』というシーンは向こうとそっくりです。こちらだと主人公が子供を連れているのですよね。そもそもの主人公の立場というか、身分の違いも面白い。どうやらこっちは家族の話が重要なテーマらしい、と気づくまでにずいぶん時間がかかりました。それまでは本当に無関係なエピソードの積み重ねにしか見えなかった。
ただでさえ町の人間たちが好き勝手に頼み事をしてきて、一方的に自分の事情を喋りまくるうえ、主人公ですら回想&空想しまくりなので始末に負えない。
会話は全然成立していないし、どいつもこいつも同じことばかり繰り返すし……意図的な繰り返しが多いのは、今のところ読んだイシグロ作品に共通の特徴な気はするのですが、本作においては度を越しています。特に主人公は、疲れた、眠い、時間がない、これ以上プレッシャーをかけないでくれ、みたいなことを延々言い続け、たまに逆ギレしつつ、全部の用事を中途半端なまま放って逃げるので、非常にフラストレーションが溜まる。書いてて思ったんだが私みたいですね。同族嫌悪か?
これはGustavとSophieの関係とも重ねて描かれていると思うのですが、主人公とBorisの間のやり取りも、なんというか、かなり嫌だ……とにかく解決感のないまま、次々にシーンが積み重ねられていくタイプの小説です。この息継ぎのできなさも含め、読んでて割ときつかった。しかし、BrodskyとCollinsとか、Hoffman夫妻とか、人物間の関係の描き方が相変わらず好みなので、時間のある時に読めてよかったです。気分は余計に落ち込みましたが。
本題と全然関係ない話ですが、claustrophobic(閉所恐怖症的)って単語が何度も出てくる割に、主人公は割と狭いところ好きそうなのが面白かった。