1. これまでは手間を惜しみ、ある品目を成立させるために必要な最小限の要素だけを使って料理をしてきたのですが、最近は生姜やネギを使用するようになって、食事の文明レベルが上がった気がします。
薬味や調味料の類は、比率にしてみれば僅少なれど、全体にかけ算される倍率に寄与しているのだと悟った。考えれば分かるだろとは思う。でも腹にたまる訳でもないものをわざわざ用意する気力が足りていなかったので……とりあえず、一見本質的には思えないものでも、簡単に軽視すべきではないと覚えておくことにしましょう。人はパンのみにて生くるにあらず、ジャムやバタもつけるが良い、ということです。
料理や掃除において、こういう細々としたことに気を配らないと回復しないポイントがあり、それは最低限の作業だけを効率よくこなそうとすると枯渇してゆきます。それを人間らしさとか心の余裕とか呼んでも良い。私は無気力ゆえに効率厨なので、意識しないとどんどん余計な部分(に見えるもの)を削り落とし、最終的には非人間的かつ持続可能でない状態に陥ってしまう危険があります。
しかし物質的な意味で最低限必要なことしかしない生活など、ほぼ死んでいるようなものですからね。どうでもよさそうな物事が、精神衛生上絶対に必要だということもありうる。たとえば一定以上の頻度で無目的な散歩をしなければ、私が正気を保ったまま生きていくことは不可能でしょう。既によく知っていたはずなのですが、足元がおろそかになっていたようです。
で、実用性だけで物事を判断すべきでないという話の直後に書くことでもないかもしれませんけど、最近、ある有用な料理の存在に気づきました。野菜を買う時、私はいつも「分量は適正か? 悪くなる前に使い切れるのか? この野菜を大量に使う手軽なレシピは存在するか?」みたいな不安にかられていたのですが、回答出た。鍋です。
冬ではないから、という理由で検討対象に上がってこなかったのですが、よく考えたら暑すぎて常に冷房つけてるんで関係ない。夏でも鍋を食ってよい。これで安心して野菜を購入することができます。端材を全部ぶち込んで煮れば良いのです。この雑さによって失われる人間性は、野菜を買えることにより増加するバリエーションで補われるので、よし。健診の結果に備えろ。
2. この頃読んだ美術史の本がかなり面白かったです。初心者向けの本なのですが、各様式に対応する時代の簡単な年表も載っているのでお得。まったく知識のない分野のことを知りたいときは、とりあえずYAコーナーへ行くのがおすすめです。仮にも未来ある子供たちに読ませるものなので、内容もちゃんとしたものが多い気がする。
唐突だから読んだ経緯を書いておきましょう。私は本や音楽なら好きなのですが、いまいち視覚芸術に対する感受性が鈍く、ちょっとした劣等感を抱えています。別に立派な絵や彫刻に限った話ではなく、普通のイラストに対してもそうです。なんとなく綺麗とか格好良いとかいう程度の感想しか出てこない。別にそれでいいじゃんって話かもしれないけど、結構みんな一枚絵とか、特定の文脈を持たない写真とかにもちゃんと感動している様子なので、いいなあと思っています。
美術館行くのはまあまあ好きなんですが、果たして私は作品を十全に楽しめているのかという疑問が常にある。なんか涼しくてお洒落な雰囲気だから満足してるだけなんじゃないかっていう。それぞれの作品の前で数十秒、義務のように立ち止まって見るだけなのは鑑賞者として健全な態度でしょうか。そのうえ見終わって一時間もすればほとんど忘れているし。
そこで私は、そのようになってしまう一因は、各作品や作者を文脈のないばらばらの状態で認識しているためではないかと思った。元より私は、対象が一定のストーリー性や秩序のもとに整理されていないと上手く飲み込むことができない人間です。展示室を歩きながら、何かその裏に一貫したラインを見出すことができれば、漫然と作品を見ているよりは楽しめるような気がします。
しかしそれは、本来はそのまま受け止められるべき対象に、余計な情報を付加していることになってしまわないでしょうか。作者の意図を超えたところで、勝手に時代性や潮流を当てはめて解釈するのは正しい見方なのかというと、かなり微妙なところです。とはいえ、その作品が描かれた時代・場所と、今ここにいる私はまったく前提や常識を共有していないわけで、そこを補うための情報は必要か。でも、いちいち何にでも文脈や物語性を見出さないと楽しめないというのは、あまりに狭い見方ではないか……みたいなことを考えながら借りてきました。
なんで面白かったかというと、知ってる人名や建築物が、歴史という一つのストーリーの上に登場するからです(結局それかという感じではある)。いろんな本で見た出来事や作品、それらが時代の反映として説明されていくのが非常に楽しい。これまで前後関係すらあんまり分かってなかったばらばらな知識がまとまっていくので、出来の良い群像劇を読んでいるようです。
なんか美術というより、世界史の本に対する感想を言っているかのようですね。不純な読者だ。印象に残ったのはアガメムノンのマスクです。紀元前1500年頃と書いてあって、でもトロイア戦争はBC13世紀以降なので、どういうこと?と思ったら、発見者の命名がそのまま定着しただけでアガメムノンとは無関係らしい。シュリーマンお前……
あと建築のことが結構書いてあるのも嬉しかったです。ユゴーがノートルダム・ド・パリで連呼していた交差リブってやつが理解できました。At the GarretのThe Guest of Honor冒頭の語りも何言ってるかちょっと分かるようになった。それから友達がル・コルビュジエ好きだというので、一度展覧会へ行ったことあるなあ、とか。
まあ、これでいきなり美術館行って何か変わるかというと分かりませんが。でも単純に面白かったので、ほかの美術史か世界史の本を読もうと思います。私が好きな感じなのはドイツ・ルネサンスとロマン主義っぽいです。一口に言っても広すぎますけど、気になる作品を探す指針くらいにはなったらいいですね。