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日記、夜の果てへの旅、恐るべき子供たち

生活をひどくくたびれさせるもの、要するにそれは、二十年、四十年、いやそれ以上も分別を保ちつづけようとして、すなおに心底から自分自身になることを避けようとして、つまり、汚れた、残酷な、ばかげた正体を現すまいとして、僕らが自分に押し付けるとほうもない苦労にほかならない。自分に与えられたくだらん跛の人間を、朝から晩まで常に超人として、普遍的な小理想として示さねばならん強迫観念。

(夜の果てへの旅、中公文庫、セリーヌ著、生田耕作訳)

 

1. フランスの本というとカミュ以外にはあまりまともに読んだことがなくて、スタンダールとかフローベールをちょっと読んだだけで不倫!破滅!みたいなイメージを抱いていたんですが、「夜の果てへの旅」は個人的にかなり良かったです。恥ずかしながらブコウスキーの小説で見かけるまでセリーヌの名前すら知らなかったので、図書館で借りるのも今回が初めてです。

 

人間の日常というやつは、どれほど本人が切実に苦しんでいようと間抜けで俗っぽいものであって、それが身近な他者への同情や、自分の悲劇性への陶酔さえも妨害してくるのだということは昔から言われてきたわけですが、本作はそうした事例の総覧めいています。

 

そんなもん読んで何が楽しいんだと思われるかもしれませんけど、上巻は無軌道でやけっぱちな旅路の中に、ところどころアフォリズム的な毒舌が挟まるので読んでいて小気味良い。一方、下巻の前半部分は陰惨、醜悪一辺倒でやや読むのがきつかったです。

 

とにかく上下通して全てに呪詛を吐き散らさずにはいられない、むしろ世界の方がそれを要求しているのだと言わんばかりの文章なので、ちゃんとこの世を呪っていた時期に読んだほうが共感できたかもしれません。同じ作者の「なしくずしの死」も気になっているため、こちらは私がもっと世界を憎んでいるタイミングを見計らって借りてこようと思います(なんだそれ)。

 

それにしても、耐え難いまでの俗悪さと滑稽さ……元医学生の主人公は下巻で復学し、しがない町医者を始めるんですが、何もかも限界になった彼が、病気になった赤子の診察中に叫び出すシーンが好きです。

 

「うるさい!」と僕はどなり返したのだ。泣きわめく小さなしろものに向かって。「あわてるんじゃねえよ、ばかたれ小僧め、ほえる時間はいくらだってあるさ! いくらでもな、あわてるんじゃねえよ、あほったれめ! まだおあとが控えてるさ! 用心しないと、目玉もどたまも、なにもかもとろけちまうような、恐ろしい苦しみがな!」

「何をおっしゃったんです、先生?」婆さんは飛び上がった。僕はくりかえしただけだった。「おあとが控えてるのといったのさ!」

 

まあ、全く呪いばかりというわけではなくて、いい加減うんざりしてきたところに差し挟まれる何気ない挿話が感動を誘ったりするのですが。身寄りのない姪っ子に、自身の生活を犠牲にしてまで仕送りするアルシイド、言ってしまえばありふれたエピソードなのですが、澱んだ泥水みたいな描写の中で、彼の崇高さは一際印象的です。

 

2. 「恐るべき子供たち」を読み返したんですが、ミカエルが死ぬあたりから、一気に最後の破局まで雪崩れ込んでいく終盤の展開はやっぱり良いですね。雪の白色と対照的に繰り返される、布越しの光や消防車の赤いイメージも鮮烈です。このラストシーンに比肩する終わり方は、文学作品だとドストエフスキーの「白痴」くらいしか思いつかないです。こんなこと言ってると安易なデカダン趣味だと言われそうですが、破滅すれば何でもいいってわけじゃないということは言い訳しておきたい。同じドストエフスキーでも「悪霊」の終わり方はどうかと思いましたし……

 

3. まったく関係のないことを書きます。携帯に「電気代滞納してるのでこのままだと停電しますよ」みたいなSMSが来て、リンク先のサイトも自然だったので焦って電話番号を入力しました。すると私の滞納している請求額が画面に表示され、そのままクレジットカードの情報を入れることに。クレカの種類が対応してなかったみたいで、入力自体は弾かれたのですが、直後にこれフィッシング詐欺では?と気づく。存在しない適当な電話番号を入力してみたところ、まったく同じ請求金額が表示されたため、クソ……と思いながら即クレカの利用を停止しました。

 

たぶん相手に送信されてはいなかったと思うのですが、サイトに入力してしまった時点で危険なので念のため。我ながら迂闊でした。少し前なら文章の内容等に多少は不自然な点があったと思うのですが、どんどん巧妙化していて嫌ですね。進学、就職に伴って引っ越したばかりの人が多い時期を狙ってくるのもいやらしい。こういう下らない恨みを積み重ねて、ネガティブな文章を読むコンディションを整えよう!




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