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【番外】日本扇の謎 有栖川 有栖(2024)

【あらすじ】

 舞鶴の海辺で1人の青年が発見される。青年は自らの名前も出身地も、何故ここにいるのかも、一切の記憶を失っていた。そんな彼が唯一所持していた一本の扇から、周囲の人は彼を『オウギさん』と呼ぶ。そして所持品の扇から、『オウギさん』は武光颯一(26才)、京都では有名な武光家の次男と判った。

 6年半後。武光颯一は自宅に戻っていたが、そこで不可解な密室殺人事件が発生する。事件発生に合わせたかのようなタイミングで、またも扇と一緒に姿を消してしまった『オウギさん』に疑いのまなざしが向けられる。この密室殺人事件の謎、更には『オウギさん』と呼ばれた1人の青年に何があり、何が起ったのか。

 その謎を大学准教授の火村英生とミステリー作家の有栖川有栖が、フィールドワークとして警察と共に捜査を行ない、謎を解明する。

 

 

【感想】

 私が(勝手に)「本格ミステリーの殉教者」と思っている有栖川有栖。エラリー・クイーンへのオマージュが横溢したデビュー作「月光ゲーム Yの悲劇'88」から始まって、本格ミステリーにこだわった息の長い活躍を続けている。偉大な「クイーン師匠」への憧憬と挑戦を胸に秘め、1994年に開始した独自の国名シリーズ、第1作「ロシア紅茶の謎」から30年経過した記念に、本作品を国名シリーズの11作目として刊行した。

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*「本家」エラリー・クイーンの作品は、最近になって新訳版が刊行されました。「ニッポンカシドリ」は創元推理文庫で、当初国名シリーズの1つとして題されたタイトルです。


 

 本作品はタイトルも説明が必要になる。作品内でも言及しているが、クイーンの国名シリーズに「日本」を題する作品はない。しかし1937年に発表された「境界の扉:The Door Between」が「日本愛好家(Fan)」を題材にしているとの情報から、Fanとなり「ニッポン扇の謎」として、戦前の日本で翻訳されたエピソードがある(別に手書きの「扉」を「扇」と見間違えた説もある)。

 ついでに周辺的な感想を続けると、本作品の中で作者が現実に戻ってあれこれ述べるのは、「本家」エラリー・クイーンがホームズ物に挑戦した「恐怖の研究」を連想して、個人的なツボに入った。またデビュー作から始まる探偵江神の「学生アリス」シリーズはホームズとワトソンの役割に近いが、探偵火村の「作家アリス」シリーズは、アリスのミステリー作家としての実績から独自の推理を披露して、時に火村を感心させることもあるため、敢えていうならば「天才火村と秀才アリス」の関係と思える。それは探偵ホーソーンと作家アンソニー・ホロヴィッツと同じ関係か。

 

 ようやく本作品について触れると、満を持して上梓した「日本」も「扇」もつながりが弱いが、これば本家クイーンの国名シリーズも似たり寄ったり。そして動機もちょっと首をかしげるが、改めて考えると、とても日本的とも思える。

 国名シリーズを名乗るには「論理の美しさ」が必須となるが、密室殺人と失踪事件の「論理」はさすがに有栖川有栖。記憶喪失をテーマにするためか、得意の演繹法推理が頓挫する火村だが、解きようがない仮説を保留していくうちに、ある疑問に関していわゆる辻褄が合う仮説が浮かんだ。「それが正しいと仮定すると、別の謎について辻褄が合う仮説が立つ」(本書344頁)は、ホームズの名言「全ての不可能を除外して、最後に残ったものが如何に奇妙なことであっても、それが真実となる」に通じるものがある。

 

*こちらの作品は、「学生アリス」シリーズの代表作です。

 

 有栖川有栖がデビューして40年近く経過するが、その間「下宿」はもちろん、「名探偵」も絶滅危惧種となっている。この期間にコンプライアンスや個人情報管理が進み、捜査もDXを駆使した科学捜査が進められた結果、名探偵が生息する余地は失われようとしている。そして有栖川有栖も、ホームズが「名犯人」の登場を祈り、クイーンが警察の科学捜査を嘆いた状況と同じ立場に陥っている。そんな中ミステリー作家たちは、「特殊設定物」で活路を見いだそうとしている。

 それでも「本格ミステリー教の殉教者」は自らの立ち位置を変えない。エラリー・クイーンから、そして師匠の鮎川哲也から受け継いだ本格ミステリーの松明は、自らが主宰する創作塾から生れた「方舟」の夕木春央を始め、数多くの崇拝者に受け継がれている。

 そんな功績に敬意を込めて、本作品を「番外」として取り上げました。

 




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