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【あらすじ】
独ソ戦が激化する1942 年。モスクワ近郊の農村に暮らし、幼馴染のミハイルをひそかに想いを寄せている18 歳の少女セラフィマの日常は急転する。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。
「戦いたいか、死にたいか」そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校でー流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手のイェーガーと、冷徹に母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために。同じ境遇で家族を喪って狙撃兵の訓練学校に入学した女性狙撃兵たちとともに、訓練を重ねたセラフィマはクラスメートとぶつかり合いながらも成長し、狙撃の腕を磨いていく。
やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。そこで多くの死を乗り越えた先にあった「真の敵」を、スコープに捉える。
【感想】
第11回アガサ・クリスティー賞大賞受賞。そして2022年本屋大賞を受賞した本作品は、新人の作品としては驚くほどのディテールと重厚さを兼ね備えた傑作。
独ソ不可侵条約がヒトラーによって破棄されて始まった、泥沼の独ソ戦。戦争は人間の本性をあぶりだし、弱肉強食の世界が展開される。そこで犠牲になるのは女性だが、ここでは実在したソビエトによる女性狙撃兵を題材にした物語。こちらは作者本人もアレクシェーヴィチの『戦争は女の顔をしていない』の影響について言及している。
18歳で狙撃手の訓練学校に入校してから21歳に至るまで、ソビエト軍の反転攻勢による東プロイセンの侵攻から、1945年4月に起きたベルリン総攻撃直前の「要塞都市」ケーニヒベルクの攻防戦に至るまで、1人の女性の成長物語となっている。但し死と背中合わせとなる訓練は、クラスメートも時にはライバルとなり命がけの戦いをすることも。
同級生で力ザフスタン出身のアヤは、遊牧民族が故に身体に染みついていた、天才的なまでの感覚と感情に振り回されない精神を持ち、一番の実力者にも関わらず命を閉じてしまう。そんな「天才型」のアヤに対して「努力型」のセラフィマは、憎きイリーナの教えに反感を持ちながらも自らのために吸収して学んでいき、同級生でトップの腕前にまで成長していく。但し卒業試験に合格した後に見せた、本当の彼女を知ってしまうと、危うさを感じてしまう。これも「少女」を描く1つの手法か。
卒業後に立たされた戦場は凄惨そのもの。1941年に独ソ開戦とともに果敢にソビエト領土を侵攻したドイツ軍だが、反ドイツ包囲網によってソビエト軍は徐々に盛り返し、1943年初頭のスターリングラード攻防戦でソビエトは形勢を逆転することに成功する。その後もソビエトが優位に戦い、1945年4月30 日にヒトラーが自殺することで実質上の決着を見た。
*史上最悪の陸上戦と言われ、ソビエトがドイツ軍の侵攻を押し返したスターリングラード攻防戦は映画にもなりました。敗北したドイツ軍の死傷者は85万人、勝った(?)ソビエト赤軍の死傷者は120万人と言われています。
第ニ次世界大戦におけるヨーロッパ戦線の悲惨な状況はジェフリー・アーチャー「ケインとアベル」の冒頭部分でも記述されているが、日本作品では日本軍が中心となるため触れている作品は少ない。そんな余りにも命の尊厳が失われた中、女性が生き抜く苦労を「狙撃」という命を引き換えにする手段を通して、綿密なディテールによってリアルを追求していく。
重厚感が溢れ、そして余韻溢れるラスト。長編だがー気読みは必至。